犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと夏祭り(4)打ち上げ花火

辺りに大きな音が響く。
どうやら花火がはじまったようだ。


純心母のおすすめ花火鑑賞スポットに、
みなはすでに移動して来ていた。
周りに人がいなくて、
花火が近くに見える、
確かに花火鑑賞には絶好の場所だった。


夜空を彩り、大輪の花を咲かせる。
色とりどりの花火が、華やかに夜空を舞う。


最初、上空に気づかなかった犬女ちゃんは、
大きな音がするので、
身構えて低い唸り声を上げて警戒していた。


純心が犬女ちゃんを
抱っこして夜空を見せてあげると、
夜空に大きく描かれる花火を、
尻尾を振って嬉しそうに見ている。




「いいなー、あたしも抱っこしてほしいー」
「あたしも花火がよく見えるように
抱っこしてほしいなー」


たいがい、こういうことを
言いはじめるのは夏希だった。


『母親の前で、
女子をお姫様抱っことか、
どんな罰ゲームだよ』


「そういうのはなあ…」


純心が返答に困っていると、
母がフォローして来た。


「いいじゃないか、抱っこしてあげれば。
あんただって、こんな可愛い娘達
抱っこ出来る機会なんて二度とないよ。」


むしろ夏希のフォローだった。
純心母は面白がっていた。


『あんたが変なこと言うと、
余計に俺が気まずくなるだろうがー』




純心は仕方なく、夏希をお姫様抱っこすることに。
犬女ちゃんは純心母が抱っこしてあげている。


お姫様抱っこされた夏希は、
瞳をうるうるさせて、純心を見つめている。


『花火見ろ、花火』
『こっち見んな』


誰もいないところならいざ知らず、
純心も母親の前でいい雰囲気になるわけにもいかない。




「遥ちゃんもしてもらいなよー」


夏希は他のみんなにも気をつかった。
みんなが平等にという精神は素晴らしいのだが、
今の純心にとってはいい迷惑だった。


結局、お嬢様も純心に
お姫様抱っこをしてもらうことに。


『花火見ろ、花火』
『こっち見んな』


お嬢様も顔を赤くさせながら、
うるうるした瞳で純心の顔を見つめていた。
さすがキス未遂経験者。




まぁ、さすがに生徒会長はないだろうと、
そこは純心も安心していた。
そもそも男女交際や風紀の乱れにうるさい生徒会長が、
この状況になにも言わないほうがおかしいぐらいだ。


しかし、
生徒会長はすっかり乙女モードになっていた。
顔を真っ赤にさせて、
もじもじしながら順番を待っていた。
純心は吹き出す。


「…べ、別に、お母様もいらっしゃるのだから、
…い、いやらしいことではなくってよ…」


確かに親の前で、女性をお姫様抱っこするなんて、
結婚式のときぐらいしか、
この世に存在しないシチュエーションだろう。
健全なのか不健全なのかよくわからない。


「…は、花火がよく見えるようにですってよ、
…そ、それだけなんですからね…」


そもそも夏希が言い出したこの理屈がおかしい。
四足歩行の犬女ちゃんの目線が低い位置なので、
抱っこした高い位置のほうがよく見える、
これはわかる。
だが二足歩行の女子が、
純心に抱っこされたところで、
目線の位置は変わらない。
むしろ普通より低くなってしまっている。
そもそも周りに人がいない穴場なのだから、
見えないわけがないのだ。




ともあれ、生徒会長も純心に
お姫様抱っこをしてもらうことに。


純心にお姫様抱っこされている生徒化会長は、
ガチガチに緊張した状態で、
顔を真っ赤にして下を向いている。


『花火見ろ、花火』
『そんな恥ずかしがられたら、
こっちが恥ずかしいわ』




純心のお姫様抱っこは無事終了したが、
参加者には終わった順番に、
犬女ちゃんが手渡されて、
みんなの唇に犬女ちゃんがキスしてくれる。
純心の代わりに犬女ちゃんが
キスしてくれたということだろうか。
一体どういったサービスシステムに
なっているのだろうか。謎である。


それでも女子達は、
なんとなく純心とキスしたような気分になって、
ひと夏の甘い体験をしたような雰囲気になっていた。
純心母と犬女ちゃんのコンビネーションおそるべし。




みなで夜空の花火を見上げる。
いつしか夏希が手をつなぎはじめたので、
純心も母と犬女ちゃんと手をつないだ。


まだ純心の両手はこの二人の指定席なのかもしれない。
だけど、女子達もそれはわかっていて、
自分の過去を知った純心が、
犬女ちゃんと母との関係を、
それなりに上手くやっていそうなので、むしろ安心していた。


母と手をつないだのは、すごく久しぶりで、
そのぬくもりが純心には懐かしかった。











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