犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

純心と小さい犬女ちゃん

純心達は犬女ちゃんを探し続けた。
みんなが一緒に探すのではなく、
ばらばらに路線の各駅を受け持って、
そこで各自が情報を集めた。


路線の終着駅から、学校の最寄駅まで、
その途中までは、確かに目撃情報があった。


畑の食べ物を盗み食いして、
地元民に追われたという話も聞けた。


お腹を空かせていて可哀想だと、
女子のみんなは泣いていた。
純心も犬女ちゃんにそんな思いを
させてしまった自分が許せなかった。




だが途中から全く目撃情報がなくなった。
その近辺で何かあったのか。


最初は事故かと心配したが、
警察や地元の人達に聞いても、
それらしい事故は起こっていないと言う。


とにかく無事でいて欲しい、純心は願った。


もし誰かに拾われているなら、
せめていい人に拾われていて欲しい。
絶対、必ず探し出して会いに行くから。
例え、どれだけ時間がかかっても、必ず。




純心は目撃情報が途絶えた付近を、
くまなく探し回ることにする。


崖の下に落ちて倒れていないか、
川で溺れたりしてはいないか、
まずは危険そうな場所から探したが、
その辺りには見つからなかった。
ひとまず安堵する純心。






「おーい!犬女―!」


今まで純心は犬女ちゃんを
名前でまともに呼んだことがなかった。


いつも『馬鹿犬』とか、
あいつとかこいつと呼んでいた。
だからこういうときは、非情に呼びづらかった。


『しかし、おばあちゃんも
なんで犬女ちゃんなんて名前付けたんだよ。
呼びづらくて仕方ないよ』


『雑で簡単な名前でも、
せめてポチとかミケとかタマとか、
もっといろいろあっただろうに』


『そういえば、小さい頃はなんて呼んでたんだろうか』


記憶の中ではまだ
それまで小さい夏希の姿が、
小さい犬女ちゃんに変わっただけで、
犬女ちゃんと暮らしていた記憶が
ハッキリ戻ったわけではなかった。


断片的に覚えている小さい頃の記憶。


『一緒にご飯を食べてたな。
ちゃんと同じテーブルで食べていた。
そういえば、犬食いだった。
随分、行儀が悪いのに、
なんでこいつだけ怒られないんだろう、
とか思ってたな。』


犬女ちゃんを探しながら、
小さい頃、一緒にいた記憶の断片を、
思い出を辿りはじめる純心。


『そうか、
小さい頃は、あいつのこと、
人間だと思ってたんだ。
人間と犬女の違いとか、
よくわかってなかったからな。
だから、記憶の中で夏希と
入れ替わってしまったのかもしれない。』


思い出を辿っていると
意外なことに気づくこともあった。
子供ならではの誤解。
知らなかったからこそ、
意識していなかったのだ。


『一緒にお風呂にも入っていたな。
今思えば、本当に小さい頃は、
男も女もよくわからなかったから、
ずっと男同士の兄弟だと思っていたな。』


『寝るときはおばあちゃんと、
一緒に三人で寝てたっけな。
おばあちゃんの両脇に寝て、
右があいつで、左が俺だった。』


『でも、冬はあいつにくっついって寝てたか。
犬の血が入ってるだけあって、
冬でもあいつ暖かかったんだよな。』


『一緒に野原を走ったり、虫捕りをしたり、
海に入ったり、クリスマス、年末年始…、
意外に俺思い出せて来てるな』


純心は、子供の頃の
小さい犬女ちゃんとの記憶を
少しずつを思い出すうちに、
なんだか小さい頃の気持ちに戻っていた。


確かに自分は小さい頃、
犬女ちゃんが大好きだった。
とてもとても大切に想っていた。


思い出した記憶はまだわずかだけど、
ハッキリそれはわかる。


昔の犬女ちゃんとの記憶をすべて思い出したら、
もっともっと大切に想えるのだろうか?
そう思うと純心はなぜか胸がときめいた。
なぜだかわからないが、楽しみで仕方なかった。


犬女ちゃんに会いたかった。
心の底から会いたいと思えた。


純心は子供の頃に戻った気持ちのまま、
犬女ちゃんの名前を大声で呼んだ。


「犬女ちゃーーーん!!」







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