犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

純心と後悔(1)

純心は犬女ちゃんの捜索を開始する。


頭が真っ白になっていて、
どこをどう行動していたか定かではないが、
電車に乗っていた記憶はある。
幸いこんな田舎を走っている電車は限られている。


終着駅から順に各駅で、
犬女を目撃しなかったか聞いて回れば、
ある程度、いそうな場所は特定出来るかもしれない。


今どき犬女を飼っている人も少ないから、
ネットで情報を募れば、
すぐに有力情報が手に入るかもしれない。


たが人目につくということは、同時に、
人間に捕まってしまっている
可能性も高くなっているということだ。




自分がしでかしたこととは言え、
変な人に連れて行かれてはいないか、
野生動物に襲われてはいないか、
車に轢かれてはいないか、
よくないことばかりが頭を過ぎる。




純心は焦っていた。
そして激しく後悔していた。


大事なものは
失った後に気づく、
とはまさしくこのことだ。


怒りに我を忘れ、抑えきれない
激しい暴力の衝動に駆られたとき、
日常もなにもかもすべて壊れてしまえばいい、
壊してしまいたい、と思っていた。


だが一度壊してしまったものは、
もう二度と元に戻らないかもしれない。
元に戻せるとしても、
まるで何事もなかったかのように、
すぐに修復出来るものではない。


壊すのは一瞬でも、元に戻すには、
大変な時間と労力をかけて、
少しずつ地道に修復していくしかない。




人との関係が希薄で、
無意識のうちに
自ら感情を押し殺して来た純心には、
今まで壊したくないと思えるようなものなど
ほとんどなかった。
壊れてしまうものは仕方がない、
すべては諸行無常なのだから、
こだわっても仕方がないと思っていた。


壊れないように大事にしていきたい、
と唯一思ったのは
夏希との関係ぐらいのものであった。




しかし純心は取り戻したかった。
もう取り戻せないかもしれないとわかっていても、
取り戻そうと足掻きたかった。


犬女ちゃんがいて、
夏希やお嬢様がいて、
にぎやかで楽しかった日常を。


犬女ちゃんを夏希の家に預けることになった頃から、
すでに純心は諦めてしまっていた。
どうせ一瞬で、儚く消えて行くものだと。


夏希の話を聞いても、
まだ思い出すことは出来ていないが、
もし小さい頃ずっと一緒にいれくたのが、
犬女ちゃんであるなら、
もしかしたら、それこそ
学校を辞めてでも、
大事にしなければならない存在なのかもしれない、
そう思いはじめていた。






純心は同時に過去の自分についても
調べはじめていた。
家には、
自分がこっちに引っ越して来る前の
アルバムも写真も一切なかった。


おばあちゃんの家に行けば、
あるいは見つかるのかもしれないが、
おばあちゃんの家に行くために時間を費やすよりは、
犬女ちゃんの捜索に時間を使いたいと純心は考える。


自分の過去を確実に知る者、
それはやはり母親だった。
おそらく母親はすべてを知っているだろう。


純心は母親に電話する。
電話でここまでのことをすべて話した。
ちょうど純心の夏休みに合わせて帰国する予定だったから、
帰国を早めると母親は言っていた。
その時、過去に何があったか話すとも。




純心は犬女ちゃんを探すために奔走する。
犬女ちゃんの無事を心から願いながら。
自分の過ちで壊してしまったものを、
もう一度取り戻したいという想いで。



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