おっさんが転生したら、寝取られた元嫁と寝取った間男の息子だった件

ウロノロムロ

おかあやん、ワイ高校やめるわ

「おかあやん、ワイ高校やめるわ」


おとうやんが死んで
憔悴し切っていたおかあやんが、
少し回復して落着いた頃を見計らって、
たっくんはずっと思っていたことを口にした。


「突然、なに言い出すの? あんたは」


びっくりしたような顔で
たっくんを見つめるおかあやん。
その表情には悲しみや不安、心配と言った
複雑な感情が入り混じっているように見える。


おとうやんが死んでからずっと、
おかあやんはいつもそんな表情をしており、
たっくんもそんなおかあやんの顔を見るのは辛い。


おかあやんに早く笑顔が戻ってくれることを
ずっと待ち望んでいるはずなのだが。




「高校やめて働くんや」
「おとうやんが死んでもうて、お金も大変やろ?」


おとうやんという一家の大黒柱を失って、
たっくん、というか中のおっさんが
真っ先に心配したのはお金のことだった。


元嫁でもあるおかあやんに
お金のことでの苦労だけはかけたくはない、
それは中のおっさんが
男の甲斐性的な考えをする昔の人だと
笑ってしまえばそれまでなのだが、
事実としてお金の苦労は洒落にならない。




「おとうさんだって、あんたは賢いから
大学まで行かせてやりたいって言ってたんよ?」


中のおっさん、もともと以前から
どうせ二度目の人生拾ったようなものだし、
すべてを元嫁であるおかあやんに捧げてもいい
ぐらいに思っているふしがある。


ここで自分が高校中退になっても、それはそれ、
おかあやんの幸せのためなら、
この人生に未練も執着もないと実際に思っていた。


それはおかあやんがたっくんに
望むことでは決してないのだが、
中のおっさんはそのことに気づいていないのか、
気づいていても自分を曲げない頑固さがあるのか。


そう思うとおっさんの前世で
二人が上手くいかなかったのも察することが出来る。




「おとうさんが残してくれた貯金もあるし」


確かに生前おとうやんは
家の晩酌程度しか酒は飲まず、
ギャンブルもせず趣味らしきものもなかったので、
多少お金は残していそうな気はするが、
果たしてそれで食いつないでいけるものなのか。


「うちも働くし……」


「そんなこと言うたかて、おかあやん
今まで専業主婦で、働いたことないやろ?」


これは元旦那でもある
中のおっさんにしか知らないことだが、
おかあやんは一度も外で働いたことがない。


前世で当時女子大生生だった元嫁と知り合い、
女子大を卒業すると同時に結婚したからだ。


その後、おかあやんは
死んだおとうやんと再婚したのだが、
やはりずっと専業主婦のままでここまで来ている。


おっさんとしては、この年になるまで
社会人経験が皆無であるおかあやんが
今さら外に働きに行くというのが
心配だし、不安でならない。
元々天然も入っいることであるし。




「おとうさんの会社で
雇ってもらおうと思ってるんよ……」


おとうやんの古くから友人であり
ビジネスパートナーの滝野たきのさんが
とりあえずは会社を引き継ぎ、
面倒をみてくれるらしいので、
そこでお世話になるのであれば
全然知らない所よりは遥かにいいだろう。




「それにあんた高校野球はどうすんの?」
「秋季大会よかったから、
春夏も頑張るってあんた言うてたやない」
「おとうさんも楽しみにしてたんよ……」


確かに野球部には少し心残りがあったが、
もちろん野球でプロになれるレベルではないし、
それどころか大学の野球部すらも無理だろう。
球児の八割ぐらいは高校で野球を終えるほどに狭き門だ。




「そのおとうやんが死んでもうたんやから、 
仕方ないやんか」


別に喧嘩をしている訳でもない。
言い合いとか、反抗したい訳でもない。
ただ、お互いの意見が噛み合わない。


そうなるとやはり多少気まずい雰囲気にもなるし、
おかあやんはおとうやんが生きていてくれたら
こんなことにはならなかったのにと、
嘆いてみたくなったりもする。




今は父親を失って、生活の在り方そのもの、
これまでの生活習慣を見直さざる得ないのだが、
おかあやんとたっくんでは考えが違う。


誰が、どちらが悪いとか、そういうことでもない。
お互いが互いを想い合った結果であり、
そこには優しさしかないはずなのだが。


ただ、たっくんがおかあやんのために
してあげたいと思っていることと、
おかあやんがたっくんのために
してあげたいと思っていることが
全く食い違っていて、噛み合わない。


夫婦や恋人でこういうことが続けば、
どんどんすれ違った行ってしまうのかもしれないが、
切っても切れない親子の縁というぐらいに、
親子の関係はそう簡単に終わるものではない。
今後必ずいい方に揺り返しがあるものだ、
とたっくんは信じている。


おかあやんのお腹から外の世界に出された時に
物理的なへその緒は断ち切られてしまったが、
愛情という見えないへその緒が
ずっとつながっているはずなのだ、
少なくともたっくんとおかあやんに関しては。


-


おかあやんにとって
なにが幸せなのかもわからないたっくん。


『二人も旦那を亡くした不幸な女』
ただその言葉だけが重くのしかかり、
たっくんを縛り付ける。


そして、二人の内の一人、
それは自分のことに他ならない。




その言葉は逆に受け取れば、
生涯の伴侶がいれば幸せである
とも受け取れる。


それはあまりにもわかりやすく、
人がもつ一番わかりやす過ぎる
幸せのイメージそのままでもある。


故にたっくんが
それを選択肢の一つとして考えても
なんら不思議なことではなかった。


『おかあやんが再婚する』


そう考えた時、頭に浮かぶのは
おとうやんの会社の仲間 滝野たきのさんだった。


滝野さんには小さい頃遊んでもらったこともあり、
たっくんもよく知っている。


いい人であり温厚で、
おとうやんと友人だったというだけあって
雰囲気もどこか似ているように思える。


今でも週に一度はおとうやんの仏壇に
お線香をあげに来てくれている。
その時の様子を見る限りだか、滝野さんは
おかあやんに好意を持っているのではないか、
少なくともたっくんはそう感じていた。


他人のことは気づくのに、自分のことはわからない、
人間にはよくあることなのか。


だがおかあやんは
滝野さんの好意には気づいていないだろうし、
今はそれどころでもないだろう。


この先おかあやんと滝野さんが、
親密になるようなきっかけはないものか、
そんなことまで考えてみる。




元お嫁ちゃんを取られたのが悔して、嫉妬して、
転生までして後を追って来たのに、
今度はその元嫁に再婚を勧めようとしている。


なんともおかしな話だが、
おっさんの心は穏やかで迷いはまったくなかった。
なぜか色も煩悩もすべて捨て去ることが出来ている。


今のおっさんはもうそんなことはどうでもよくて
ただただおかあやんの幸せを願うばかりだった。













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