おっさんが転生したら、寝取られた元嫁と寝取った間男の息子だった件

ウロノロムロ

なんで毎週土日をお前と過ごさなあかんねん!(仕事しろ!

「ワイ、野球やりたいんやけど」


小学生になったたっくんが、
突然そんなことを言い出した。


「よりによって、野球かぁ……」


普段はたっくの言うことには
無条件降伏の溺愛おかあやんも、
なぜか今回ばかりは逃げ腰。


「いろいろ噂に聞くけど、
お茶当番とか遠征の車出しとか、
無茶苦茶大変らしいやないの」


習い事などをしている子供の親、そこの話では
地元少年野球チームの評判はあまりよくないらしい。


おかあやんが渋っていると、
ちょうどその話を聞いていたおとうやんが口をはさんだ。


「まぁ、いいじゃないか。
野球いいと思うぞ、俺はやったことないけど」


おとうやんが賛成しても、及び腰のおかあやん。


「でも、そう言うても、親の負担がすごいらしいんよ」


「たっくんが自分から何かやりたいなんて、
そんなこと言うのは、はじめてなんじゃないか?」
「やりたいことがあるなら、やったらいいよ」


そう、たっくんの中のおっさん、
元嫁に再び会う、その一念だけで
もう一度この世界に転生したはいいが、
それ以外は全くのノープラン。


二度目の人生、何をやりたいとか、目標とか、
この先将来どうなりたいとか、
そんなビジョンなど全くなかった。


ただ前世の嫁である今のおかあやんのそばに
ずっと一緒に居られればそれだけでよかったのだ。


そのおっさんがおかあやん以外のことに
興味を示すなど、割と結構大事なことでもある。


「大丈夫、全部俺が責任もって、ちゃんとやるから」


渋がるおかあやんを、一生懸命説得するおとうやん。
たっくん本人の熱意というよりは、おとうやんの熱意に
おかあやんも仕方なく折れたというところだろうか。


そうは言っても、おかあやんだって
ずっと付き添いで来てくれて
自分を見守っていてくれるだろう、
ぐらいに気軽に考えていたおっさん。


たっくんの中のおっさん、
地元の少年野球チームの大変さを
よくわかってはいなかった。


-


そもそも、この話の発端は小学校生活になる。




  こればっかりは
  拒否るわけにはいかんやろなぁ
  義務教育やし
  下手したら、育児放棄とか児童虐待とか
  おかあやんが変な噂されてまうからなぁ


  人生ニ周目の小学生とか
  何の意味もないやんか
  罰ゲームと言ってもいいと思うわ


  半日ぐらいならいざ知らず
  小学校でも妙に拘束時間長いやんか


  勉強は、少なくとも
  中学生ぐらいまではなんとかなるやろな
  ワイ前世で一応大学出とるし
  高校の勉強は全然覚えてへんけど




小学校の入学式で
おかあやんはいつものように涙ぐんでいたし、
おっさんも最初はいつものように存外楽しんだが、
こればかりはさすがにすぐに飽きた。


これまではずっと四六時中おかあやんと一緒だったので、
そんなことを考えることもなかったが、
半ば強制的に一人になる時間が出来たために、
二度目の人生をどうするか考えるようになる。


小学校入学で人生を考えるなんて、
普通なら早過ぎるとも言えるのだが、
中はおっさんなので、
早いのか遅いのかはよくわからない。




違った意味で小学校に馴染めないたっくんだったが、
幼馴染のヨシくんとだけはなぜか上手くいっていた。


ヨシくんは普段あまりしゃべらない子ではあるが、
なぜか核心に迫るようなことを言い、
そんなところが中身おっさんのたっくんと
波長が合ったのかもしれない。
時々ヨシくんも人生二周目なのでは、と
おっさんが思う時もあったが、真偽の程は定かではない。


「たっくん、一緒に野球やろうよ」


そんなヨシくんが何の前フリもなく
そう言って、突然たっくんを勧誘して来た。


「俺と一緒に野球やって、バッテリー組もうよ」




  野球かぁ、ええなぁ
  ワイも前世では野球観戦が好きやったなぁ
  まぁでも、実際にやったことはないけど


  確かに、
  小さい頃に戻ったら何やりたいって聞かれたら
  野球って答えとったわ




ということで、
おっさんが今回の転生を前向きに捉えるために、
選ばれたのが野球というワケだ。


-


しかし、地元の少年野球チーム、
おっさんが思っていたのとはちょっと違った。


毎週土曜・日曜、朝から夕方まで、
びっちり練習をするような熱心なチーム、
しかもその割りには強くない、というかむしろ弱い。




  なんでこんな弱いチームがこんな練習しとんねん
  あ、それは言ったらあかんやつやな
  逆や、なんでこんな練習しとんのに弱いねん




その答えは単純明快。
人数が少ないからに他ならない。


そもそも小学校自体、田舎にありがちな
一学年一クラスしかないような小学校、
全校生徒の数もたかが知れている。
その中で野球をやりたい子がどれぐらいいるのか。


野球は九人でやるものだが、
チームから数人いなくなったたけで
おそらく試合すら出来なくなるだろう。




たっくんの中のおっさん、唯一心の拠り所は
野球でおかあやんにカッコイイところを見せる、
おかあやんに見守られながら野球をすることであったが、
さすがにおかあやんも毎度毎度そこまで暇ではない。


朝たっくんを小学校のグランドまで送り、
しばらく練習を見た後に帰宅、
家に戻って家事や用事をこなし
夕方近くなって迎えに来る、
そんなパターンが定着しつつある。


チームに入って早々、心折れそうなたっくん。
しかしおかあやんの反対を押し切って入ったために、
辞めるワケにもいかない。完全に手詰まり。


さらにトドメの最悪なことに、
野球もロクにやったことがないはずのおとうやんが、
なぜか少年野球チームのコーチとして参加していた。


しかもおかあやんとは対照的に、
ものすごくやる気マンマンで毎回必ず出席というオマケ付。




  なんで毎週、毎週、土日を
  朝から晩まで、お前と一緒に過ごさなあかんねん!


  お前の会社、零細企業なんやから
  毎週土日に少年野球やってる場合ちゃうやろ!
  仕事しろ!


  この間こっそり帳簿見たけど
  このままやと会社赤字になるで!


  そもそもロクに野球やったことない奴が
  なんでコーチやってんねん!




それも答えは単純明快。
人がいないから。


田舎の少年野球チームでは、人材がいないため、
監督・コーチを親がやるのは割りと当たり前。
ただでさえ子供の人数が少ないチームであるため、
ほとんどの子供の父親が
コーチという名の手伝い用員としてかり出される。


予想の斜め上を行く展開に
たっくんの中のおっさん、久しぶりに白目状態。


-


「ノックぐらい出来なかったら、
コーチとかやっちゃダメなんちゃう?」


どうにかしてコーチを辞めさせられないものかと、
嫌味いやみのひとつも言ってみるたっくんだったが。


「おう、そう言われれば、そうだな」
「よく言ってくれた、アドバイスありがとな」


その日からおとうやん
猛烈にノックの練習に励み出す。




  あー、すっかり忘れとったわ
  コイツ、ポジティブなアホやった
  嫌味いやみとか絶対通じんタイプやわ


  元ヤンぽいし
  めっちゃ無駄に根性ありそうで嫌やわぁ


  力仕事多いし、絶倫だし
  めっちゃ体力ありあまってるんやろなぁ


  毎晩、毎晩、夜のバット振ってるんやから
  もうこれ以上バット振らなくてもええやろ!


  そっち方面に頑張らなくてええから
  仕事しろ!




元ヤンキーにしては、
まともに怒っている姿も見たことがないほど、
いつも非常に温厚なおとうやん。


十代の頃にやんちゃしていた人は、
一周回って社会人になると真面目でいい人になる
などと言う話もある。
本当か嘘かはわからないが。


-


年を追うごとに、
それなりに体格がよくなっていくたっくん。


ガタイがいいおとうやんの遺伝子を受け継いだのか、
背の順で並んだ時には必ず一番後ろ、
小学生にしてはそれなりに大きい子になっていた。


チームに人数が少ないこともあって、上級生に混じって
ピッチャーをやる機会をもらえることもしばしば。




これに関しては、中のおっさんも結構頑張った。


もともと今回の転生にあたり、
チート能力を授けられなかった(断った?)おっさん。
前世で得た知識や経験、思考系統などが
唯一のチート能力だったのだが、
今回の野球に関してはその能力をフルに使ってのぞんだ。


ネットの記事や動画を見まくり、野球本を読み漁り、
フォームや体の動かし方を研究し、
独自の理論を模索し続ける毎日。


その甲斐もあってか、小学生にしては
それなりに速いストレート、
それなりにタイミングを外せるチェンジアップ、
それなりに小学生ぐらいはだませる投球術、
というスキルをマスターして、レベルアップを果たした。




はじめてチームでピッチング練習をすることになった時、
球を受けるキャッチャーに名乗り出たおとうやん。


息子の成長に感激しているのか、はじまる前から少し涙ぐんでいる。




  そういうのはええんじゃ
  うっとうしいんじゃボケェ


  そもそも、なんでお前がキャッチャーなんじゃぁ
  ここはキャッチャーヨシくんで
  約束を果たす感動の場面やろ!
  仕事しろ!




おかあやんの涙は胸に迫るのに、
おとうやんの涙はうっとうしい、
だいたいどこの家庭もそんなもの。


たっくんが投げる球を
ミットで弾いてポロポロこぼすおとうやん。
バットは振っていたが
キャッチングの練習はさほどしていなかったらしい。


「ポロリせんといてくれる?
投げるリズムが悪くなると
いい球いかなくなるわ」


キャッチャーを替えて欲しくてたまらなく、
普段より一層冷たくあたるたっくん。


「おう、すまんな」


しかし、危惧されていた無駄な根性が発揮されたのか、
おとうやん執念でたっくんの球をキャッチ。


「ナイスボール! いいじゃん!いいじゃん!」


捕れて嬉しかったのか、
妙にテンションが上がるおとうやん。


  じゃん?じゃん?てなんやねん!


  こいつ、なんかしらんけど
  めちゃめちゃムカつくわ


  よっしゃ! 絶対捕れんような球投げたろ!




頭に血が上り、ムキになって思いっきり全力で
ボールを投げまくるたっくん(おっさん)。


「いいねぇ! いいねぇ!球走ってるねぇ!」




  きぃぃぃぃぃぃ!




会話のキャッチボールなど、キャッチボールは
よくコミュ二ケーションの例えに使われるが、
たっくんとおとうやんの初めてのキャッチボールは
全くコミュ二ケーションどころではなかった。


しかしおとうやんはそんなことには全く気づかず
たっくんが飽きれるほどのポジティブさを全開。


「やっぱり父親と息子と言えば、キャッチボールだな」




  うるさいんじゃ!ボケェ!
  土日も仕事しろ!











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