おっさんが転生したら、寝取られた元嫁と寝取った間男の息子だった件

ウロノロムロ

おっぱいちゃん、さようならやで!(涙

「たっくん、いつまでおっぱいちゃん飲むん?」


最近たっくんがおかあやんによく言われる一言。


おっぱいちゃんというのは、
たっくんが言葉をしゃべれるようになってから、
授乳の際におかあやんと一緒に名付けた呼び方。


「ほら、たっくんおぱいちゃんの時間やで」


「おぱいちゃんやて、おもしろい」


おかあやんがたまたま発した一言が
たっくんに受けたため
繰り返して言っている内に
そのまま呼び名として定着してしまった。


母と子が二人だけで勝手に
何かに変な名称を付けるのも
この時期の母子あるあるだろう。




早いものでたっくんももう四歳。
もうじき五歳になろうとしている。


しかしまだ 乳離れが出来ておらず、
おかあやんはそのことを少し気に病んでいた。


個人差はあるようだが、一般的には
二、三歳で授乳を終わらせることが多く、
最近では母親が計画的に授乳を終わらせる
卒乳という言葉もあるらしい。


普通に食事が取れるようになった今、
栄養的な観点からも
お乳がどうしても必要というわけではないし、
めちゃめちゃ美味しいというわけでもない。


ましてや性的なエロ目線でおっぱいちゃんを
チューチューしたいわけでもない。




中のおっさんも乳離れのことを
わかっていないわけではなかったが、
どちらかと言えば、
たっくんの子供としての
本能的な要因とも言えた。


おかあやんのお腹の中にいた時は、
へその緒で物理的におかあやんとつながっていた。
それが外界に出た途端、
そのつながりを切られてしまっている。


へその緒で物理的につながっていた時の
絶対的な安心感はもうすでになく、
それでも唯一おかあやんとの
確かなつながりを感じられ、安心出来るもの、
それが授乳なのだった。


そして、授乳を止めてしまったが最後、
おかあやんのおっぱいちゃんには
おそらくもう二度と会うことはないだろう。


子供はこうやって、
親との物理的距離をどんどん広げ、 
自立し巣立って行くものだが、
その過程を遡ることは決してない。
むしろあってはならないことだ。




一方でおかあやんがたっくんに激甘げきあまというのもある。
成長して来たたっくんを見て、
そろそろお乳をあげるのはやめよう
断乳の機会だと思いつつも、
可愛い我が子のたっくんにおねだりされたら、
ついつい許してしまう。


むしろおかあやんも心のどこかで、
授乳がなくなるのが寂しいと感じているふしもある。


とはいえ、
最近口周りや顎が成長して来たせいか、
たっくんの吸引力も上がって来ており、
吸われるとお乳が痛いということもしばしば。
そろそろやめる機会を探してはいた。




母親も子供も、子離れ、乳離れの第一歩が踏み出せず、 
共依存のような関係にも思えるが、
それもまた母子の情愛と言えば、そうなのかもしれない。


-


おかあやんと一緒に
公園まで遊びに行くたっくん。


以前はベビーカーだったが、
今ではもちろん自分の足で歩いていける。


おかあやんと手をつないで
外を歩くというのが嬉しくて
いつもついついはしゃいでしまう。




公園にはおかあやんのママ友達も
子供を連れて遊びに来ている。
以前、赤ちゃんのたっくんを
抱っこしてくれたこともあるいつものママ友達だ。


あの時は絶賛増量サービス中、肉の暴力で
おっさんをたじたじさせたものだが、
今はその面影は見られない。
どうやら今は限定期間は
過ぎてしまっているようだ。




  ほぇぇぇ、不思議なもんやなぁ
  以前は巨乳グラビアアイドルみたいに
  たゆんたゆん、ばいんばいん 、やったけど
  そんな膨らんだりしぼんだりするもんなんやな




ここでもたっくんは、子供同士で遊ぶよりも
おかあやんの周囲をなんとなくウロウロしている
ちょっと引っ込み思案ぽい子供になりがち。


もちろん引っ込み思案なわけではなく、
子供と遊ぶよりも大人の会話を聞いているほうが
中のおっさん的に面白いだけなのだが。


おかあやんがどんな話をしているのか
聞いておきたいというストーカー気質もある。




ベンチで延々と井戸端会議、
話に花が咲まくるお母さん達。


途中おかあやんは話の流れで、
たっくんの授乳に関して相談してみることに。


「たっくん、まだおっぱい飲むんよ。
もうじき五歳だし、
止めさせないとって思ってるんやけど」


その一言にママ友達は
一斉に反応してしゃべりまくる。


「そんなに気にしなくても、
自然と飲まなくなるって言うじゃない?」


「なんか日本だと二、三歳ぐらいらしいけど、
世界的には平均六歳ぐらいまでお乳飲んでるんだってよ」


「えー、痛そうー」


「日本でも五歳ぐらいまで飲んでる子も結構いるみたい、
○○くんのママがやっぱり遅かったって言ってた」




  いけるやん!
  まだまだいけるやん!


  今まで、海外の人らってなんでいつも
  あんなマミー、マミー言うんやろ
  マザコンこじらせてるんちゃうか、て思とったけど
  ようやくわかったわ


  六歳いうたら、普通に記憶残ってるやん
  人生一周目でも、六歳やったら忘れへんやろ


  そんで大人になった時にもおかあちゃんの
  おっぱい飲んでたの覚えてるんなら
  そらいつまでもマミー、マミー言うわ




マザコンこじらせてるのはお前だよ。
それと人生を周回カウントするのはやめとけ。


-


それほど心配する必要はなかったのだと、
妙に明るい気持ちになったおっさん。
それでいいのか。


気づくと目の前に男の子が立っている。
もちろんママ友が連れて来た子だ。


「あそぼう」


いつもなら同い年の子と遊ぶ気などには
絶対にならないたっくんの中のおっさんだが、
なぜかその時、その子と少し遊んでみようかと思った。


これがたっくんにとって初めての友であり、
生涯の友でもあるヨシくんとの出会いだった。


厳密に言うと以前から公園で
顔ぐらいは見たことがあったので、
初めてたっくんが相手を認識した日となるのか。


ヨシくんに手をつながれて、
たっくんは砂場で他の子達を遊びはじめる。




  砂遊びやな、よっしゃ! 
  ワイがサンドアートの城みたいなんつくってやるで


  あかんわ、手先がまだそんなに器用に動かへん


  やっぱりこういう時はお山やな
  山崩さないようにトンネル貫通させるで!




またしても普段の態度とは裏腹に
ついうっかり存外楽しんでしまうおっさん。




  何度も言うけど、たまにやから
  こうやって童心に返って遊ぶの楽しいんやで
  ワイも毎日こんなことやってられへんわ(震え




楽しそうに遊んでいるたっくんを
ベンチに座って眺めているおかあやん。


毎日ずっと自分の後を追い回し、
そばから離れようとしなかったたっくんが
お友達と遊んでいるところをはじめて見た、
そんな風に感じながら
たっくんのことをずっと目で追う。


たっくんの成長を嬉しく思いながらも
どこか少し寂しいような気もしていた。


幼稚園体験は黒歴史にされているようだが、
こちらも大概たいがいムスコンではある。


-


五歳の誕生日を迎えたたっくん。
少し後ろめたさを感じながらも、
それでもまたおかあやんの
おっぱいちゃんを飲ませてもらう。


何ものにも替えがたい
母にいだかれ守られているという
圧倒的で絶対的な安心感。
やすらぎとぬくもり。


だが突然おかあやんが「イタッ」と声を上げる。


吸いついていた口を離すたっくん。


おかあやんは自分の乳房を確認すると、
申し訳なさそうにたっくんに言う。


「たっくん、ごめんな」
「おっぱいに血が入ってしまったわ」


確かにおかあやんの指には
かすかに赤い血が混じった母乳が付いている。


「今日はごめんやで、また今度な」


おかあやんは悪くないのに。
本当に申し訳なさそうにたっくんに謝っている。




  せやな……
  そろそろ、お別れの時やな


  これ以上おかあやんに
  痛い思いさせるわけにはいかんな


  ……


  今までありがとうやで、おっぱいちゃん


  前世からの長い付き合いやったからな
  ワイ、寂しいわ、ホンマ……


  ホンマに、ホンマに寂しいわ……


  もう二度と会うこともないんやろな……


  ホンマに、今までありがとうやで、おっぱいちゃん




「もう おっぱいちゃん のむのやめる」


おかあやんはそっとうなずく。


「ホンマにええのん?」


「……うん」


たっくの目には、
いっぱいの涙がたまって、
今にもこぼれ落ちそう。


体を震わせ
しゃくり上げるたっくんを
おかあやんは優しく抱きしめる。


おかあやんの胸に顔をうずめて
声を出して泣きはじめるたっくん。


泣いているのは
たっくんなのか、おっさんなのか。


「あんたは、本当に甘えん坊さんやな」


今この瞬間、この胸のぬくもり、
おかあやんの優しい声を
たっくんは一生忘れない。


「さようなら、おっぱいちゃん」











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