おっさんが転生したら、寝取られた元嫁と寝取った間男の息子だった件

ウロノロムロ

ワイ てんせい してきたんやで(マッマ

ウーウーうなりはじめて、
最初に立ち上がった頃と前後して、
たっくんは次第に単語らしき言葉を発するようになる。


「マッマ」


「きゃぁ!  今たっくんが
私のことママって言わへんかった!?」


はじめてたっくんにママと呼ばれた、
そう思い込んだおかあやんはいつものように大喜びで、
また目に涙を浮かべて泣きそうになっている。
いくらなんで涙もろ過ぎのような気もするが、
ずっと子供が欲しかったと言っていたので
これぐらい大袈裟にもなるのだろう。


そこから「ママ」なのか「まんま」なのか、
どちらなのか軽く家庭内論争が起こるまでが
乳児子育て中家庭の様式美でもある。


「パパかもしれないじゃないか」


父親がこうやって小ボケをかますのも
お約束と言えばお約束。




  ボケが! 
  誰がお前のことなんかパパなんて呼ぶんや!
  ずっと「あんた」って呼んだるから覚えとけよ!


  でも、別に
  ママと言った覚えもないんやけどなぁ
  口とか顎の関係やろうか
  何か言おうとすると全部マになるような気がするわ
  ワイ、ママとか言う柄ちゃうしな


  でもおかあやんがこんなに喜んでくれるんやから
  めっちゃいっぱいママ言うといたろ




「マッマ、マッマ、マッマ、マッマ、…」


前回同様、嬉し過ぎるあまり狂喜乱舞して
妙なテンションになってるおかあやん。
なぜか一緒になって、たっくんの名前を連呼する。


「たっくん!たっくん!たっくん!たっくん!…」




それからしばらくすると、
たっくんは二つの単語をつなげて
会話らしきものが出来るようになる。


「マッマ、チュキ」


「たっくん、好き!」


この時もおかあやんのテンションが
おかしかったのは言うまでもない。


まぁ、おかあやんのこうした明るくて天真爛漫、
いつまでも女性として可愛らしいところが、
たっくんの中のおっさんが惚れ込んだ
理由でもあるのだろう。


-


ようやく単語を発せられるようになり、
単語をつなげて文章をつくり、
会話として発信出来るようになったたっくん。


さらにその後もうしばらくすると、
複数の単語をつなげた文章をしゃべり出す。


特にたっくんは中身がおっさんなだけに
口や顎周りの肉体的な準備が整えば、
語彙力も申し分なく、普通に文章を
しゃべれるようになるワケで。


そうなると、まるで今までしゃべれなかった分を
一気に取り戻すかのように、いろんなことを言い出す。


しかし、まだおかあやん、おとうやんには
ハッキリ聞き取れないことも多く、
ずっとブツブツ独り言を言っている
ちょっと変わった幼児みたいになることも。




おとうやんの仕事上の付き合いで仕方なく
読みもしない新聞をとっていたのだが、
いつしかそれをたっくんが毎朝一人で読みながら、
ブツブツ独り言を言っているというのが、
いつしかこの家庭の当たり前の光景となっていた。


「わ! なんやて! いつのまにか
げんごうが へいせい から れいわ にかわっとるやんけ!」


「ワイが しらんあいだに いったい なにがあったんや!」


「しょうひぜい また あがるんか!」


新聞を読んだ感想も
至極まっとうなことを言っているたっくん。
中身がいい年をしたおっさんなので
それは当然と言えば当然なのだが。


もし親がそのことに気づきさえすれば、
天才幼児現あらわる!と世間から脚光を浴びて
一躍時の人にでもなれたのかもしれない。




だが実際にはまったくそんなことはなかった。


幸か不幸か、両親が揃いも揃って、
見事なまでにポンコツ過ぎたのだ。


まともに政治や経済を語るたっくんの話を
むしろ親がまったく理解出来ていなかった。


「これ そうりは じしょく せなあかんと おもうんやけど
おかあやんは どうおもう?」


新聞を読んでいるたっくんから
いきなりのキラーパスを出されるおかあやん。


「…………。」


それでも息子を無視してはいけないと、
冷や汗ものでとりあえず返事をする。


「ほ、ほ、ホンマやねぇ……。
そんなんわかるなんて、たっくんはすごいんやねぇ」




その日の晩、
仕事で夜遅くに帰って来たおとうやんに
おかあやんはその話をしたが、
おとうやんもポンコツ方面の人なので
特に話が発展するようなこともない。


「たっくん、最近ホンマとんでもなく
難しそうなこと言ったりするんよ…
もしかしたらすごい
天才少年だったりするんじゃないかしら…」


おかあやんはわからないながらも、
息子に何かを感じたのか、
それともただの親バカで言っているのか。


「そんなわけないだろ、俺とお前の子だぞ?」
「きっとテレビで見て真似でもしてるんだろ」


おとうやん、難しい話は苦手だという自覚はあるらしい。


「それより、そろそろ
たっくんの弟とか妹とか……
いいんじゃないか?」


そんなことよりも夜のお誘いが
大事な様子のおとうやん。
顔を赤らめながらもまんざらでもないおかあやんは
たっくんが寝入っているのを確認するのだった。


(以外自粛)


-


それなりの文章を発せられるようになったたっくん。
しかし、中のおっさんはそれなりに悩んでいた。
転生のことを言うか、言わないか。




  まぁ、死んだ直後は
  お嫁ちゃん取られて怒り心頭やったし


  転生したら文句の一つも言ってやらな
  気がおさまらんと思っていたんやが


  まぁ、今もその気持ちがないわけではないんやが


  いかんせん、ここまでが長過ぎたわ
  今さら文句言ったところで
  そこから先どうすんねんってなるし
  勢いでなんとかなるもんやろか




無意識下で、おっさんも薄々感じはじめてはいた。
元嫁を寝取られた恨み、悔しさ、嫉妬はある一方で、
今のこの環境を壊したくないという気持ちが
どこかにあることを。


最愛の人が、まったく惜しみなく、
溢れんばかりに無償の愛情を
自分に注ぎ、溺愛してくれる。


そして、嘘偽りのまったくない、
天真爛漫、純粋な笑顔を向け、
いつも自分を見守り続けてくれる。


これこそが自分が求めていたものではないかと。


しかし、最大の問題は、
その最愛の人の肉欲、性的な快楽が
自分とは全く無縁のところに、切り離され、隔離され、
その役割を別の男が担っているということである。


たっくんの中のおっさんが、
そうした煩悩を断ち切って、
すべてを受け入れることさえ出来れば、
今はどれだけ素晴らしいものになるだろうか。


しかし、やはり人間、そう簡単に
白黒はっきりさせて割り切れるものでもなかった。


-


「おかあやん じつはな 
ワイ てんせい してきたんやで…」


意を決したおっさんは、転生のところだけ
限定的に話をしてみることにしたのだが。


「?????」
「… てんせい???」


しかし、おかあやんはたっくんが
何を言っているのかチンプンカンプン。
そもそも、おかあやん
転生の意味を知っているのかすらあやしい。


「ほ、ほ、ホンマやねぇ……。
そんなんわかるなんて、たっくんはすごいんやねぇ」


朝、新聞読んで質問した時と全く同じリアクション。
そのまま冷や汗かきながら笑顔で固まるおかあやん。




  真剣に悩んでたワイって一体…


  まぁ、そりゃそうやわな!
  こんな小さい子が転生とか言ったところで
  寝言は寝て言えや、て思われて
  終わりやわな、そりゃ


  なんか真剣に悩んでた自分
  めっちゃはずいやんけ!
  あぁ、はずいわぁ
  これ、めっちゃ自己嫌悪になるやつやん




「ねぇ、あなた、たっくんが
『てんせい』したんだって言うんやけど、
『てんせい』って一体なんのことやろ?」


今日は早く帰って来ていたおとうやんに
おかあやんは聞いてみる。


「てんせい? 天の星で天星てんせいじゃないか?」




  お前の星にこだわる設定まだ生きとったんかい!
  むしろそっちにワイがビックリしたわ!


  自分ら二人、揃いも揃って
  転生の意味すらわからんてどういうことやねん!


  もうこの話やめや!やめや!
  真剣に悩んでたワイ、
  めっちゃアホみたいやんけ!
  あぁ、はずいわぁ




夫婦二人のポンコツぶりが、
家庭の平和を守ったことを
本人達はまったく知らなかった。


-


その夜、寝室で親子三人が
いつものように並んで川の字になって寝ていると、
何やらおかあやんのなまめかしい声で
たっくんの中のおっさんは目を覚ます。


もうあきらめてはいるものの、
こんな真横で堂々とやられると
それはそれで腹も立つ。




  こいつら、またやってんのかいな
  ホンマ隙あらばいつでもしよるな
  自分らケモノか?スキモノか?


  旦那が寝ている横で嫁さん寝取られる
  アダルトビデオみたいな気分になるやないけ




弟か妹をつくろうと子作りに励んでいる夫婦が
横で寝ている長男に
そんなことを思われているなんて本人達は露知らず。
もちろんそんなことは知らない方がいい。




  あぁ、あー、あかんわ…
  よっしゃっ! 言ったろ!




布団を掛けて寝ていたたっくん、
その布団を突如ガバッとはいで上半身を起こし、
お取込み中の夫婦に顔を向ける。


まさに合体中であった夫婦は
体をビックとさせ、そのまま動けず石化状態。


ちなみにこの夫婦、合体中に石化するのは
これが二回目のことである。




「なんや また ふたりで せっくす しとるんか


ふたりとも ほんま せっくす すっきやなぁ


するのは かまへんけど


ワイの きづかんように やってくれん?


きになって よう ねてられへんわ」


たっくんの言葉にキョトンとする
おとうやんとおかあやん。


「お、おう… すまんな…」


石化していたおとうやんの口から
咄嗟に謝罪の言葉が出た。


「ほんま きをつけてや」


たっくんはそう言うと
再び布団を被って寝る。




全裸で抱き合っているおとうやんとおかあやん。
石化が解けると、たっくんに聞こえないように
ひそひそ声で言葉を交わす。


「… さ、三歳児に
セックスやり過ぎだって注意されたぞ…」


何か悪い夢でも見たような顔をしているおとうやん。
衝撃的過ぎて震えるおかあやんは言葉を返す。


「ほ、ほら、この子、天才少年やから…」











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