おっさんが転生したら、寝取られた元嫁と寝取った間男の息子だった件

ウロノロムロ

おとうやんがどこの馬の骨なのか探るんやで!(後編)

おとうやんがどこの馬の骨なのか、
必死に探ろうとするおっさん赤ちゃん。


まだ中を確認していない最後の部屋、
その開かずの扉を開けるための
ドアノブに触れるには
まだどうしても時間が必要だった。


おっさん赤ちゃんはまだハイハイだけで、
今は立ち上がることも出来ない。


大人からすればわずか数十センチでも、
赤ちゃんからすればはるかに遠い。


それでも赤ちゃんの中のおさっん、
執念深くチャンスが来るのを待ち続けた。




  ワイから可愛いお嫁ちゃんを奪ったあいつが
  どこの馬の骨か、絶対調べたるからな…


  しかしやな… 改めて思うんやが


  馬の骨ってなんやねん?


  どこの馬の骨かもわからんような奴に娘はやれん!
  みたいなドラマをよう見たけど


  駄馬はダメでサラブレッドはOKてことなんか?
  血統書付きの由緒正しい
  いいとこの馬なら娘やってもええんか?


  相手馬やで?
  そもそも、馬の時点であかんやん?


  それともあれか?
  馬並みとかそういうシモネタ系のやつか?


  そんで、骨ってなんやねん?
  なんで骨限定やねん?


  血とか肉とかどこ行ったんや!
  骨だけとかもうすでに死んでるやんけ!


  アンデッドの馬とか
  そんなダークファンタジーな話なんか?




そんなしょうもないことを日々考えながら、
毎日おかあやんの目を盗んでは
開かずの部屋の前に行き、
扉が閉まっていることにがっかりし、
そしてどんなに頑張っても
今の自分には扉が開けられないことを
また再認識してがっかりする。
そんな毎日を繰り返していた。


それでもひたすら機を伺い、
ずっと待ち続けるおっさん。


-


そのうち、赤ちゃんはウーウーと
声にならない唸り声を発するようになる。


声を出して喋るようになるまで
そこまで遠くはないのかもしれない。


「ウーッ!ウーッ!」


喋るようなったらなったで、
それはまた大変なのだか、
それはまた次のお話。




いつもの扉の前、
小さく可愛いらしい手で
ドアをバンバン叩き
ウーウー言っている赤ちゃん。


その光景だけ見れば愛らしいものだが、
その中が嫉妬の執念や情念にまみれた
おさっんだと思うとそら恐ろしい。


「この子、毎日あの部屋のドアを
何か言いながら叩いてるんやけど、
あの部屋がそんなに気になるんかしら?」


おかあやんも不思議に思ってはいたが、
まさか前世から自分を追って来た
ストーカーの嫉妬が原因などとは知る由もない。
いやむしろ知らな方がいいだろう。
世の中知らない方が幸せなことはたくさんある。




いつものように部屋の前で
扉をバンバンしているおっさん赤ちゃん。
大袈裟に手足をバタバタしていると
反動、というか物の弾みで、うっかり
そのままふと立ち上がってしまう。


足腰が成長してきたからなのか、
まだフラフラしてはいるが
確かに自らの二本の足を地に着けて立っている。




  なんや知らんけど、
  気づいたらワイ立ってたわ


  ワイもついに四足歩行は卒業して
  いよいよ二足歩行っちゅうわけやな


  いやぁここまでホンマ長かったわ
  おたまじゃくしからはじまって…
  ようやくここまで来たんやな…




感慨にふける赤ちゃんの中のおっさん。


せっかくなのでと思い足を一歩踏み出してみる。
異常に頭が重くバランス感覚にまだ馴染めないためか
フラフラとして倒れる。




  そういえば、
  せっかくの初めて立つところを
  おかあやんに見せてあげられなかったわ


  こんな感動的な記念すべきイベントやで
  見せてあげられないなんてあかんわ
  知らないうちにいつの間にか立ってたとか
  おかあやんもきっとがっかりするに違いないわ


  そや! せっかくやから
  初めて立ち上がるシーン捏造ねつぞうしたろ!


  ちょっと嘘ついてるみたいで
  心苦しい気もするけど
  まだ全然歩かれへんし、かまへんやろ




めっちゃウーウーアピールをして
おかあやんに気づいてもらおうとする赤ちゃん。


「たっくん、どうしたん? 何かあったん?」


息子の異変に飛んでくるおかあやん。


中のおっさんはたまたまな風を装って、
赤ちゃんはフラフラしながら立ち上がってみせる。


「やっ!!たっくんが立った!」
「たっくん、立ってるやない!」


おかあやんは感動して泣きそうになりながら、
たっくんに駆け寄って来る。


「すごい、すごい!」


おかやんは興奮し過ぎたのか、
妙なハイテンションで
たっくんのその小さな手を握り
歩く補助をしようとしだす。


「あんよは上手、あんよは上手」


割と昔風な掛け声で、
たっくんと歩く練習をはじめてしまうおかあやん。




  おかやあん、めっちゃ喜んでくれてるやん!
  クララが立った!ぐらい喜んでくれて
  ワイもホンマに嬉しいわ


  こんなテンションのおかあやんはじめてみたわ!


  ワイも初めて立つ振りして
  捏造、自演してよかったわ!




感動的なシーンのはずなのだが
中のおっさんの気持ちを知ると
どうも素直に喜べないものがある。


うっかり初めて立ってしまったので
こうして、中のおっさんは捏造して
おかあやんを喜ばせたのだった。


-


立ち上がることにも成功し
ドアノブとの距離を飛躍的に縮めたたっくんが、
扉を開けるのはもう時間の問題。




待ちに待った瞬間。
かろうじて手がかかるドアノブを押し下げ、
扉を押すたっくんの中のおっさん。


部屋の中は小さな窓しかなく、
夕暮れ時ということもあってか、妙に薄暗い。
物置部屋にありがちな特有の
どこかあやしげな雰囲気が漂っている。


壁には大量のコードと思われるものが吊り下げられ、
ラックには電動工具らしき物がびっしりと並んでいた。




  なんやこの部屋は…
  ドラマとかでよくある
  サイコパスな犯人の部屋みたいやないか…




本当はちょっとびびりなおっさん、
部屋の雰囲気に少しおじけづく。




  ま、まさか…
  このコードでおかあやんを縛って…
  電動工具の電動的な感じの部分で
  あんなことやこんなことを…




なぜ自分自身で工具と言っておきながら、
工具以外の使い方を思いついてしまうのか。


先入観や偏見というのはおそろしいもので、
おっさんはどうあっても
おとうやんを悪いやからだと思い込みたいらしい。




部屋の中には机もあり、
その周辺には本棚があり書類など置かれている。


何かおとうやんの正体の
手がかりになるような物はないか探しはじめるおっさん。


最初こそまぁまぁびびっていたものの
一度家探しをはじめるとあっという間に夢中に。


そして何より肉体は赤ちゃんなだけあって、
思うように重い物も持てずに、バランスは崩すしで、
まるで部屋にある物をただ投げて、
撒き散らかすようなことになっている。


椅子に登って、そこから机の上に登って、
もはややりたい放題。




散々好き放題やって、散らかした後、
その際に出て来たと思われる名刺を発見する。


その名刺にはおっさんがどこかで見た覚えがある
工務店の名前が記載されていた。




  この工務店あれやんけ!
  ワイが死ぬ半年前ぐらいに
  家の工事頼んだとこやんけ!


  ということはや…
  あの男、あの工務店で働いてたってことなんか?
  ワイの家に工事に来た時に
  お嫁ちゃんと知り合ったってことなんか?




衝撃の事実を知ってしまったおっさん。




  じゃぁ、なにか?
  家の工事もしましたんで、
  奥さんのほうも工事しましょうか?
  みたいなノリで二人でできてしもうたんか!?


  グハッ!


  あかん、あかん
  ショックで危うく逝ってまうとこやったわ
  ふぅ、致命傷ですんだわ
  って、命に至っとるやないかい!




成長したとはいえ、いらぬ妄想をして、
傷口に自ら塩をこすりつけていく
スタイルは健在である。


まぁ転生をしてからここに至るまで
多少は覚悟をしていたとはいえ、
改めて生々しい事実を目の当たりにしたおっさん。


溢れ出る感情を抑えきれず、暴れ回る。
とはいえ肉体はまだ赤ちゃんなので、
部屋の中をさらに散らかすぐらいが精いっぱいなのだが。




さらに散らかって出て来た書類を見て驚く。




  あいつ今、違う工務店の社長やんけ…
  あんなポンコツで社長なんかなれるんか?
  あんなんで会社経営とか出来るんか?


  まぁ、社長だから偉いとは限らんし(震え




自営業でも社長ということになるのだから、
おとうやんが社長でもおかしなことはない。




  いや、ちょっと、待ってや…
  あいつワイが死んでから
  引っ越して独立して、
  そんでお嫁ちゃんと結婚したってことなんか?


  もしかして不倫の件で
  前の会社をクビになったから、引っ越して
  自分で会社はじめたんやろうか?




そこはあくまでおっさんの推測に過ぎないが、
おっさんの立場からすれば、何かしら
社会的制裁があったと思い込みたいのも無理はない。


まぁどちらかと言えば、不倫そのものよりも
あの時、あの場所で
おっさんが死んだほうが問題だったのだろう。
不倫相手の旦那が死んだ現場に居たのだから、
何らかの事件だと思われても仕方ない。
すぐに無実が証明されたとしても、
人の噂に尾ひれが付いてロクなことを
言われていなかっただろうことも想像に難くない。




「きゃぁぁぁぁ------!!」


様子を見に来たおかあやんの絶叫が響き渡る。
部屋の中の惨事を思えばそれは当然のこと。


「また! あんたは!」
「おとうさんの部屋、こんなにしてどうすんの!?」
「そうやっていっつもいっつもいたずらばっかりして!」


-


その夜、おとうやんが帰宅してからも
たっくんはおかあやんからお小言をもらう。


「まぁまぁ、まだ赤ちゃんだし
これぐらいの子にはよくあることなんだろ?」


おとうやんは困り顔でおかあやんをなだめる。
もちろん、おかあやんも
赤ちゃんが理解出来ないのはわかりつつも
ついつい言いたくなってしまうのだろう。


「もう! まったくあんたは!」
「今度やったら、おしりぺんぺんするからね!」




  お嫁ちゃんの細くしなやかな指先で
  ワイの生尻をぺんぺんするやて?


  プ、プレイか? プレイなんか?


  しゃ、しゃあないな
  ワイはそういう趣味はないんやけども


  お嫁ちゃんがどうしてもって言うんなら
  そういうプレイに付き合ってもええんやで


  なんなら足の裏で踏んで
  グリグリしてくれてもええんやで?




おとうやんは笑いながら
おかあやんの言葉に乗っかてみる。


「そうだぞ、たっくん、おしりぺんぺんだぞ?」




  なんちゅうこと言うじゃボケェ!
  虐待じゃ! 幼児虐待じゃ!




もちろん、赤ちゃんの中のおっさんは
おかあやんの言葉を理解してはいたのだが、
反省の色はまったく見られないので、
理解していないのと大差はなかった。


-


とにもかくにもおとうやんが何者であるか、
それを知ることには成功したおっさん。
その過程で幼児から乳児へ、
そして赤ちゃんからたっくんへと成長しつつある。
しかし中の人はおさっんなので、
それほど変わらないと言えば変わらないのかもしれない。











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