おっさんが転生したら、寝取られた元嫁と寝取った間男の息子だった件

ウロノロムロ

しゃ、しゃぁないな、そろそろ出ることにしたるわ(震え

母の胎内で胎児となり、
人間の肉体を得たおっさん。


人間になった以上は、
人間の摂理に基づいて成長するというのが
この転生のルールであり、
見ることも、聞くことも、喋ることも出来なくなって、
しばし時を過ごしていたが、
妊娠六か月を迎えた頃、
聴覚器官の発達とともに
ようやく音を取り戻しはじめていた。


おっさん自身、自分の胎動を
はっきり感じることが出来るようにもなっている。




 なんや
 手足が自由に動くようになってきたな
 ここ最近まったく運動しとらんかったからな
 運動不足になったらあかんから
 ちょっと運動したほうがええんやろか


 よっしゃ!
 動いたろっ!




運動不足の胎児というのが
果たしてこの世に存在するのであろうか。


よく母親のお腹の中で
胎児が大きくなり過ぎて
出産時に苦労するという話を聞くが、
胎内で胎児が十分な運動をしなかったから
デブになったというわけでもないだろうに。




動かせるようになった手足で
パンチやらキックやらして動いてみるおっさん。


「あら、赤ちゃんが動いてる」


おかあやんの嬉しそうな声が
胎内を通じておっさんにも聞こえて来る。




 おかあやん、喜んでくれてはるわ
 ええなぁ~
 なんや優しそうなおかあやんで安心したわ


 よっしゃ!
 もっと喜ばしたろっ!




調子に乗ったおっさんは、
さらにお腹の中で暴れまくる。
ぐるんぐるん回って体勢を変えたり、
キックやらパンチを繰り出したり。


「なんか、お腹痛とうなってきたわ」


おかあやんがお腹を押さえて
痛がっているのがおっさんにも伝わる。




 あかんがな!
 調子に乗ってやり過ぎてしもうた
 おかあやん、ごめんやで、堪忍してや




「それにしても元気な子やね、
これはきっと男の子に間違いないわ」




 おかあやん、めちゃめちゃ優しい人やんけ
 あかん、ワイ涙出そうやわ




そりゃ、自分のお腹の中にいる赤ちゃんに
「痛いんじゃボケ、なにさらしとんねん!」
と罵声を浴びせる母親なぞいるものではない。


おっさん、女性の母性愛というものが
あまりよくわかっていないのかもしれない。


-


おかあやんと
そんなコミュニケーションをはかりつつ
胎内引きこもり生活を楽しんでいるおっさん。




おかあやんのお腹もぽっこり臨月となり、
もうじき出産予定日だというのに
今の生活があまりにも心地良過ぎるためか
一向に外に出ようとする気配をまったく見せない。




 いやや~
 あんなしんどい世界には出とうないんじゃ
 おかあやんとヘソの緒がつながったまま
 ここでずっと暮らすんじゃ
 それがワイにとっては一番の幸せなんじゃ




胎内暮らしはおっさんにとって
あまりにも居心地が良過ぎた。
前世で十分に分別のあった
いい年の中年おっさんですら
正常な判断を失くして血迷ってしまう程に。


確かに現世は苦痛に満ち溢れているのかもしれない。
一部の宗教では、現世で生きることは苦行であると
はっきり明言されてしまっているぐらいだから。


現世は苦行などと言われると
現世を物心がついてからしか覚えていない人達、
極楽浄土も天国も知らない人達からすれば
エラく損したような気分にさせられてしまう話である。




「あんた、はよう出てきいや」


臨月のまん丸く大きくなったお腹をさすりながら
おかあやんは何度も呼びかける。


「早くあんたの顔、見せてえなぁ」




 おかあやん……
 ホンマ堪忍やで
 ワイおかあやんとずっと、
 ずっとヘソの緒でつながっていたいんや


-


出産予定日をはるかに過ぎても出ようとしないおっさん。
本当にこのまま胎内に引きこもり、
篭城する気なのだろうか。


「このままやと帝王切開になるかもわからんね~」


おかあやん以外の年老いた女性の声が
胎内のおっさんにも聞こえる。


おそらくは病院の婦人科の女医さんか、
助産婦さんかお産婆さんだろうことは
おっさんにもわかった。




 帝王切開……?
 あかんやんっ!


 下腹部切って無理矢理出すんやろ……
 そんなん、おかあやんが痛いがなっ!


 あかんあかん
 そんなんしたら
 おかあやんに傷が出来てまうやん!
 もしなんか間違いがあったらどないするんや!




そもそもの原因は自分にあるのだが、
そんなことはまったく忘れて、
自分のことを棚に上げて怒るおっさん。


帝王切開で取り出すことになれば
胎内から強制的に摘出されてしまう。


であればここは素直に自主的に
出ていったほうが得策なのだが、
それでもおっさんは今の暮らしに未練タラタラ。




 いややぁ~
 出とうないわ
 何で出なあかんねん




おっさん、本来おっさんであることを忘れ
もうただの聞き分けがない駄々っ子状態。
同時に胎児でもあるので、
聞き分けのある胎児というのも
それはそれで変な話ではあるが。




「お腹切るのも仕方ないですね、
この子が無事に生まれて来てくれるなら」


おかあやんの言葉が胎内のおっさんにも聞こえる。




 おかあやん……
 ぐすん……
 ワイは、ワイは一体
 どうすればいいんや……




母は強し。


今の日本で普通に暮らしていて
死を意識するということはほとんどない。
そりゃあ、ある日突然
車に轢かれることもあるかもしれないし、
通り魔に刺される可能性もあるかもしれない。
だがその確率というのは本当にわずかなものである。


しかし女性の出産というのは、普段の生活以上に、
死の可能性、確率が高まることを意味している。
女性にとって出産というのはまさに命懸けなのだ。


-


『もう、ここから出ましょう?』


この期に及んでまだ情けなく
ぐだぐだ葛藤しているおっさんに声が聞こえる。


その声はおっさんと融合して
ひとつになったはずの卵ちゃんの声だった。




『お願いですから、もうこれ以上
この子を苦しめないであげて』


女性の卵子のもととなっている原始卵胞は、
生まれた時にはすでに卵巣の中にあり、
その数も約二百万個と決まっていて、
それが後で増えるというようなことはない。


その決まっている数の一部が
排卵日になると一定数排出され、
総量はどんどん目減りしていくのだ。


なので精子のように使い捨て
大量生産というものとは大きく異なる。


つまり卵ちゃんは、この母体となる女性が
生まれた時から今まで
ずっと一緒に時を過ごして来ており、
それこそ苦楽を共にして来た同胞のようなものであり、
その彼女の体が心配でしかたなかった。




『外の世界は、ツラクて、
苦しいのかもしれないですけれど……』


『それでも、あなたは
お嫁ちゃんにもう一度会いたいのでしょう?』


卵ちゃんはおっさんと融合したことで
おっさんの前世のことを知ることになった。


その時にはじめて知ったことだが、
実は卵ちゃん、前世のおっさんのことを
ものすごくよく知っていた。


そしてもうすぐおっさんが
お嫁ちゃんに会えることも知っている。


そういう意味で
卵ちゃんがおっさんを選んだのは
偶然でもなんでもかなく
やはり運命だったのかもしれない。


おっさんのおたまじゃくしと卵ちゃんは
運命の赤い糸で結ばれていたに間違いない。




 しゃ、しゃ、しゃぁないな……
 ほな、そろそろ出ることにしたるわ(震え




胎内ぐらしが長かったせいか
おっさんは完全にビビッている。


卵ちゃんの人格に背中を押され、
泣く泣く胎内を出ることを決意したおっさん。


そのおっさんの前には
暗くて狭い肉壁の洞窟が待ち受けている。


そして、ここからが生命誕生の
最大のヤマ場、クライマックスでもあった。











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