おっさんが転生したら、寝取られた元嫁と寝取った間男の息子だった件

ウロノロムロ

転生って、ここからはじまるんか?(白目

無数のおたまじゃくしがうじゃうじゃしている。
もうそれは際限がないのではないかと
思われるぐらいの数。


その光景を前におっさんは
ただただ唖然とするばかり。




 クソッ!
 あのクソボケオカマジジイが!
 ワイ、おたまじゃくしになっとるやないか
 何が転生エージェントやねん
 おもっきり転生失敗しとるやんけ!




おっさんはそう思っていたが
よくよく見てみると少し様子がおかしい。
あまりに数が多過ぎるし、
おたまじゃくしとは形状も少し異なる。
今いる場所もどこかの川や池
というわけではなさそうだ。




 あぁ~
 これはあれか?
 もしかしてあれなんか?
 ワイも昔よく無駄に大量消費していた……あれなんか?
 ひょっとして




状況は理解出来たが
納得したとは言っていない。




 おかしいやんけ!
 なんで転生がここからはじまるんや!


 そもそも生命いのちって
 おたまじゃくしと卵がひとつになってはじめて
 生命の誕生なんと違うんか?
 まだ生命にもなっとらんやんけ!


 クソ!
 あのクソボケオカマジジイ
 ワイが異世界転生プラン断ったから、
 営業ノルマが達成出来んと
 嫌がらせしてるんちゃうか?




結局、オネエゼウスをディスることには
変わりはないのだが。




 確かにツライ転生なるとは言われたけど、
 いくらなんでも
 ここからスタートとかツラ過ぎるやろ?


 こんだけいる同類の中で
 勝ち残れないと転生出来んとか
 過酷にもほどがあるわ!


 確か、このおたまじゃくしって、
 一回につき一億から三億匹ぐらい
 放流されるんちゃうかったか?


 少なく見積もっても
 一億分の一の確率やんけ!
 それって日本人総人口の一人に
 当たるかどうかぐらいの確率やないか!
 宝くじにあたるより難しいって
 どういうことやねん!?


 全世界の総人口を七十億としても
 七十人にしか当たらんのやで、
 どんだけ貴重なことなんや
 キセキか!




おっさんが悪態をつきたくなるのも仕方ない。
なぜだかわからないが、おっさんの転生は
精子の状態からスタートすることに
なってしまっているようだ。


目の前には億単位で
おたまじゃくしみたいなものが
うじゃうじゃ泳いでいる。


その中で誰よりもいち早く
卵ちゃんの元に辿り着くというミッション。
成功するのは
本当に奇跡に近い確率と言っていいだろう。




 しかしあれやな、そう考えると
 受精に成功した精子ちゅうんは
 精子界のスーパーエリートっちゅうこっちゃな




精子界というのが、
どの辺の界隈なのかはよくわからない。




 なるほど、あれか
 精子の立場からしたら、人間世界なんて
 スーパーエリートの集まりっちゅうことになるんか


 高校野球に例えるなら
 ここが地方予選で
 地方予選勝ち抜いた奴だけが
 人間世界という甲子園に出られるっちゅうわけやな


 そしたらしゃあないな
 地方予選なしで甲子園出るとかあかんがな
 そんなんズルっこもいいとこやんけ
 それならワイも納得やわ……


 んなわけあるかいっ!!




なんでよりにもよって、いたって健全な
高校野球に例えるのかもよくわからないのだが、
関西弁だけあって、
おっさん高校野球大好きなのだろうか。


だが実際のところ、
数億匹の中から生存競争で勝ち残るのと
甲子園に出る確率どちらが高いだろうか。


そう考えると勝ち残った者が、
精子界のスーパーエリートというのは間違いない。
ただそのスーパーエリート達も人間世界では
大半が一回戦敗退してしまうわけなのだが。


-


このとんでもない状況に、
さすがのおっさんも白目を剥いて放心状態。
まぁ精子なのでどこが目なのかよくわからないが。




 しかしどういうこっちゃ?
 今おたまじゃくしのワイに
 人格があるということは
 ここにいる同類全員に人格あるんか?


 もしそうならワイ今までどんだけの
 人格を亡き者にしてきたことになるんや?


 ……あかんやん!


 何兆じゃ効かんかもしれん!
 ワイ大量虐殺者やんけ!


 ワイ無茶苦茶非人道的やん!
 残酷過ぎるやないか!




それを言い出すと全人類男性の
すべてが大量虐殺者になるわけだが。




 しかし、ホンマ
 前世の記憶引継ぎオプション、
 適用期間早過ぎるやろ


 こんなんで前世の記憶あっても
 しんどいだけやで
 胃が痛くなりそうやわ




当然、胃なんぞあるわけはない。
胃なんて立派なものがあるだなんて、
それはスーパーエリート様の特権だ。


-


それまで漫然とうごめいていた
有象無象のおたまじゃくし達が、
何やらもぞもぞ動きはじめる。


準備運動のストレッチをはじめる者達、
短ダッシュを繰り返す者達、
来たるべき何かに向けて
そろそろアップを
開始しはじめているようだ。


中には調子が悪いのか
首を傾げている者もいるが
全体的に丸と紐しかない形状なので
どこが首なのかはよくわからない。


 ちょ、一体何が起こってるんや?


おたまじゃくし達の間に
ピリピリと緊張したムードが流れ、
重たい空気が張り詰める。


スタートラインに集まる
おたまじゃくし達。


体内を走る電気信号が
赤から青に変わるとき、
おたまじゃくしの群れが一斉に
猛ダッシュで飛び出して行く。


 もしかして、あれか、あれんなんか?
 旅立ちのときなんか!?


群れの大移動の光景を眼前に、
臆して動けないおっさん。


 あかん!ワイ完全に出遅れとるがな!


誰よりも先にいち早く
卵ちゃんの元に辿り着いた者が勝つという
この極めてシンプルでありながらも、
生存競争を賭けたこのレース。


おっさんがここで負ければ
それは即転生失敗を意味する。


 ここで上手くいかなかったら
 ワイもう一度チャンスもらえるんやろか?


戦う前から負けた時のことを
考えているおっさんに勝機などなかった。
というか、まだその場から動いてすらいなかった。
これではこの生存競争に生き残れるはずもない。




しかしそれがむしろ幸いした。
おっさんは気づいた、
これがフェイクであると。


「あかん!
みんな行ったらあかん!
これは予行演習や!
実戦ちゃうぞ!」


おっさんの叫びも虚空に響くばかり。
すでに特攻してしまっている
同胞たちには届かない。


「これはエアーや!エアS○Xや!」


おっさんが制止する声も虚しく
何億という同胞達ははかなく
その命を無駄に散らして行く。


「馬鹿野郎、
無駄死にしやがって……」


前世では散々無駄死にをさせておきながら
一体どの口がそんなことを言うのか。
ちなみに、しつこいようだが口はない。


仲間達の死を嘆くおっさん。
競争相手が確実に減って
本来喜ぶべきところなのだが、
明日は我が身かと思うと
素直に喜ぶような気持ちにもなれない。


-


ただでさえ競争相手が
尋常ではなく多いというのに、
予行演習もあるし、
あるじ達に子供をつくる気が
あるのかどうかもはっきりしない。


飛び出したはいいが、ゴム製の壁に激突して
その身を散らしてしまうかもしれないし、
卵ちゃんがいない場所に
飛び出してしまう可能性も十分に考えられる。


もはやこの状況で
ミッションを成功させて
確実に受精卵になるなど
本当に奇跡でも起こらない限りは
不可能と言っても過言ではない。




 あかんわ、
 これは完全に無理ゲーやわ




転生失敗になるかもしれない、
この絶対絶命の大ピンチ、
おっさんはただただ白目を剥いて放心するばかり。
もちろん目などはまだない。













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