史上最凶の通り魔、異世界に転移す

ウロノロムロ

永久凍土

タケシを追い、
自らの手で倒すことしか
考えていない岩槻だったが、
この異世界の惨状を目の当たりにし、
持ち前の正義感の強さ、
元警察官としての血が
騒がずにはいられなかった。


度重なる魔王軍の攻撃により
大地は荒れ果て、
それ故農作物が育たず、人々は貧しく、
飢える者、盗む者、力による支配、
そうした国や地域が多く見られる。


もちろんまだ裕福な国や地域もあったが、
この異世界全体が
魔王軍により逼迫ひっぱくした状況では、
いずれすべてが同様に
荒れ果てて行くのは明らかであった。




「魔王をどうにか出来ないのか?」


岩槻は定例の勇者会議でその話をしたが、
現段階で魔王に立ち向かおうとする者は
まだいなかった。


一つは現実的な問題として、
まだ魔王軍を倒せるだけのレベルにない。


二つ目には、
他の勇者に己の能力を知られる訳にはいかない。


三つ目は、勇者達はお互いに牽制し合っている。
迂闊に動いても、他の勇者に嵌められて、
命を落とす可能性もある。
裏切られ、他の勇者に
後ろから刺されることも有り得るのだ。


そのような状況にあり、
各人が各個撃破で魔王軍と戦ってはいたが、
全体で見れば明らかに魔王軍が、
この世界への支配を強めている状況と言えた。


「そう思うのだったら、
まずはお前が何とかしてみせろ」


日輪の勇者は、木の勇者である岩槻にそう言った。


-


北の大地に向かう岩槻。
水の勇者から得た情報を元に
魔王軍幹部・黒将こくしょう導師に会いに行くために。
戦いに行くという訳ではない。


黒将導師は魔王軍幹部でありながら自らの城に篭り、
勇者や人間との戦いには
参加しないという姿勢を貫いている。


勇者と人間達と共に戦ってもらうことは出来ないか、
そう考えた岩槻は、
雪と氷が覆い尽くすこの極寒の大地まで、
寒冷地仕様の馬車に乗ってはるばるやって来たのだ。


この永久凍土、ほとんどが雪原、氷原となっており、
バイクで乗り入れることが出来ないために、
魔王軍幹部を狩るために
その拠点を探し回っているタケシも、
このエリアは未踏の地となっていた。


「ここでは、さすがに俺も戦えないな」


それは木の勇者である岩槻にも同じことで、
木々の生命力が全く感じられないこの地では
木の勇者としての真の力は発揮されそうにない。


ただ岩槻の目的はあくまでも話し合いであり、
そのために、丸腰で敵の拠点に乗り込むと考えれば、
趣旨からは逸脱したものではなかった。


-


何日にも渡る雪原、氷原の移動、
その果てにようやく黒将こくしょう導師の居城が見える。
城に近づくに連れ、
増えて来るのはアンデッド系のモンスター達。
黒将こくしょう導師は魔王軍のアンデッド達を
統括する幹部でもあった。


「なるほどね、
こんな寒いところじゃ、
死体も腐らないという訳か」


岩槻は単身、黒将こくしょう導師の居城に乗り込む。















コメント

コメントを書く

「現代アクション」の人気作品

書籍化作品