史上最凶の通り魔、異世界に転移す

ウロノロムロ

憎しみの連鎖(1)

魔神になった者達の多くは、
魔王軍に拉致され肉体改造を受けた者達だが、
鳴門なるとのように自らの願いを叶えるため
志願して改造魔神となった者達もいる。


力、金、快楽、権力などがその主な理由だが、
やはり鳴門のように
不治の病を治すというような理由もあった。


-


男は普通のしがないサラリーマンだった。
日本の一般サラリーマン年収、
その平均ちょっと少し下ぐらいの。


それでも男は幸せだった。
美しく心優しい妻をめとり、
子宝にも恵まれ、今は美しい娘がいる。


何もない平穏な日々ではあるが、
この生活がずっと続くこと、
それだけが男の願いであった。




しかしそんな幸福な家庭に、
不幸は突然訪れる。


娘が世界でも症例がわずかしかない
特殊難病にかかっていると診断されたのだ。


男は途方に暮れる。
目の前が真っ暗になり、
ただただ絶望するしかない。


このままでは娘の命は残り少なく、
かと言って治療には手術代を含め
とてつもない高額な費用が掛かる。


妻と二人で募金活動なども行うが、
とてもその程度で補えるような額ではない。


目の中に入れても痛くない我が娘、
代われる者なら自分が代わってやりたい、
一体どうすれば娘を救えるのか、
途方に暮れ、絶望する男。


-


娘の病院への見舞い、その帰りに
ベンチで途方に暮れている男の前に立つ老人。


白いタキシードに白いマントを羽織った
風変りな恰好をした初老の紳士。


「何か大変お困りのようですが、
もしよろしかったら
お話を聞かせていただけませんか? 
お力になれるかもしれません」


老人の『力になれるかもしれない』という言葉に、
わらにもすがる気持ちで男は事情を話す。


「それは大変気の毒な話ですなぁ、お可哀想に」


老人は涙ながらに男の話を聞いている。


「是非、我々に
お嬢さんの治療費を負担させてください」


絶望する男に差し伸べられる救いの手。


「その代わりと言ってはなんですが、
我々へのご協力をお願い出来ないでしょうか?」




男は別に嘘をつかれてだまされた訳ではない。
老人は素直に異世界で魔王軍の改造手術を受けて
魔神になって欲しいと告げた。
だが男に断る選択肢がある筈もない。


愛する娘を救うためなら悪魔にでも魂を売ろう、
男はそう決めていた。


それもこの世界の人間を虐殺するならいざ知らず、
ファンタジー世界の住民達と戦うぐらいであれば、
まだ良心の呵責かしゃくはそれ程でもない。


「嫌だっ!
 お父さんがどこかに行っちゃうなんて!」


娘は父からしばらく会えなくなると聞いて、
泣いて嫌がった。


男としても病気の娘を置いて
この世界を離れることだけが心残りではある。


しかし組織からは既に高額な金が手渡されており、
娘の海外で行われる手術の日程も
入院先もすべて手配されていた。
組織は約束をすでに守っているのだ。


もうこのまま二度と
娘に会うことはないかもしれない。
それでも娘が生きてさえいてくれたら、
それだけで男は十分だと思えた。


「お父さんはいつもお前の幸せを
ずっと願っているから……」


「お父さん……」


父と娘はずっと泣き続け別れを惜しんだ。













コメント

コメントを書く

「現代アクション」の人気作品

書籍化作品