非人道的地球防衛軍とゾンビ兵

ウロノロムロ

未練のない幽霊

憑依の訓練が成功して数日の間、
澪達は日常生活を送る練習をしていた。


彼らにとっては久しぶりの肉体であるから、
支障が無いかどうかを確認する必要がある。


そして『チーム餓鬼道』は、
澪の息子である龍之介を探して連れて来た。


龍之介は五歳の
それはそれは可愛い盛りであり、
澪が死んでも死にきれずに
化けて出るのも道理であった。


フワフワしたくせ毛に、
愛くるしくクリクリい開かれた大きな目、
ぷにぷにのホッペと、
可愛い要素満載であり、
子供大好き彩姐さんは
一目見てメロメロになった。
普段人を魅了する側のくせに、
すっかり魅了されてしまっていた。




そして澪は愛しい息子
龍之介との再会を果たす。


彩姐さん、一条女史、財前女史、天野が見守る中。


新しい肉体を得た澪は、
愛しい息子を目の前にして、
体を震わせ感激していた。


その目からは涙が溢れており、
澪はそっと手を差し伸べる。


「お母さん」


龍之介は澪を見てそう言った。


澪の肉体は以前と違うものであるにも関わらず。


しばらく見ていなかったから、
お母さんの顔を忘れてしまっていたのか。


霊力が強い澪の息子だから
肉体以外の何かが見えているのか。


親子の絆がそうさせたのか、
どれかはわからないが、
龍之介はお母さんだと認識した。


彩姐さんはこの時点で涙腺崩壊、
ハンカチで涙を拭い続けた。


「龍之介…」


澪は声を震わせながら、
龍之介の名を呼び、
その小さな体を抱きしめた。


「お母さん」


龍之介も澪に抱き着き甘えた。
澪は歓喜の表情で涙を流しながら、
龍之介に頬ずりした。
澪は龍之介のぬくもりを感じた。
龍之介もまた澪のぬくもりを感じたことであろう。


澪の願いはこの時点で叶った。




澪の霊体は新しい肉体から離れようとしていた。
幽体離脱のように霊体の上半身が
肉体から抜け出しており、
その上半身も薄くぼんやりしはじめていた。


彩姐さんと一条女史は
必死になって呼び掛ける。
澪の霊体を、魂を、肉体に、
いやこの世界に留めようとして。


彩姐さんはたまらずに澪の霊体に啖呵を切った。


「あたし達はね、
欲かきすぎて人の道を外れちまった人間だけどね。
あんたはもっと欲を持つべきだよ。
なんであんたの唯一の欲が、未練が、
この子をただ一度抱きしめることだけなんだい?
何度でもこの子を抱きしめたいって
思ったっていいんだよ。
もっとこの子と一緒にいたい、
成長するところを見ていたい、
この子を守りたい、この子に愛情を注ぎたい、
それぐらいの欲を持ったってね、
全然欲深くなんてないんだよ。
そんなのはね、強欲なあたし達からしたら、
欲でもなんでもないんだよ。
もっともっと未練をいっぱい持ちなよ。
もっともっと強く欲を願いなよ。」


彩姐さんの啖呵に、一条女史が続いた。


「珍しくクソビッチがいいこと言ったよー
あんたがもしこのまま成仏するというのならー
あたし達はこのまま龍之介を人質にしてー、
あんたを脅迫するよー
それでもあんたは成仏できるのかー?」


「人間は霊と聞くとね、
すぐに怨念や恨みで
未練を残した幽霊を思いだすけどねー
ちゃんと守護霊みたいな
ありがたい霊もいるんだからねー
本当は何百年も前のご先祖様がなるみたいだけどー
あんたが龍之介の守護霊になったっていいじゃないかー
ずっとずっと龍之介のこと
見守ってあげたらいいじゃないかー」


しかし一条女史の言葉に彩姐さんが嚙みついた。


「あんた、
またあたしのことを
クソビッチって言ったね!
こう見えてもあたしは
身持ちが固いんだからね!」


「別にねー、
ビッチってのは悪い意味じゃないんだよー!
逆を返せば母性愛溢れるってことじゃねえかよー」


「じゃぁクソってのはどうなんだい?」


「それなー、そこはただの悪口だよなー」


やはり彩姐さんと一条女史の相性は
それほど良くってはいなかったようだ。




二人の言い合いを聞いて澪は笑いはじめた。
母親が笑っている顔を見て、
龍之介も笑い声をあげた。
それを見てほっこりした天野も笑った。
連られて財前女史も笑った。


子供大好きの彩姐さんも
一変して龍之介の笑顔に萌えまくった。


子供の笑い声には
癒しの効果でもあるのだろうか。
一瞬にしてその場が和んだ。
そして気づくと澪の霊は、
再び肉体に定着していた。













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