非人道的地球防衛軍とゾンビ兵

ウロノロムロ

スポ根幽霊

選抜試験に合格した幽霊達は、
新しい肉体に憑依する訓練を行うことになる。


幽霊は誰でも簡単に憑依出来る
訳ではないらしい。


訓練の指導担当には一条女史が選ばれた。


とはいえ一条女史の霊体が
別の肉体に憑依した経験があるわけではない。


データを収集して、
今のは良かったとか悪かったとか、
言うぐらいしか出来ないのが実情である。


「でもさー、
霊体なり思念なり意識なりがさー、
自由に肉体を乗り換えて
憑依することが出来たら
すごいことになると思うんだよねー」


一条女史は、機材を準備しながら
横に居る天野に向かって言った。


天野はその言葉を聞き、
地下室で見たロボット像を思い出した。


『あれも憑依して動かす物かもしれないと、
北條さんは言ってたな』


「例えばですけどね、
巨大ロボットみたいなものにも
憑依させたり出来るんですかね?」


天野は一条女史が
地下のロボット像を
知らない可能性があるため、
例え話風に聞いた。


「出来るようになるだろうねー、
でも普通の巨大ロボット動かすんだったら
人間が操縦したほうが早いからー、
ゴーレムみたいなほうがいいかもねー」


ますますあのロボット像向けの話ではないか
と天野は思う。


「大きな物動かすのに
どれぐらいの霊力がいるのかわからないけどねー」


「この実験が上手く行ってー、
データ取れたらー、
いずれゴーレム部隊とかつくれるようになるよねー」


一条女史は既に先を見据えているようだった。
いや彼女の場合、常に妄想全開なだけなのだが。


-


そして幽霊達が
新しい肉体に憑依する訓練が開始される。


選ばれた幽霊達の前には、
新しい肉体は並べられていた。


澪は彩姐さんから提供してもらった
『チーム色道』にいた娘の肉体を見つめる。


この体に憑依して、
私は息子を抱きしめるのだと、
澪は決意を固める。


担当の一条女史、
それに彩姐さんが訓練を見守った。


しかし憑依に関する
具体的な知見や経験値が全くないため、
ロクな方策も立てられず、
最先端の機材が揃えられた割には、
結局ただひたすら根性論であった。


その光景はまるでスポ根物の特訓のようであった。


「立て!立つんだ、よー!」


「どうした、どうしたー!
お前らの限界はそんなもんかー!」


「まだまだやれんだろー!
諦めたらそこで終了だぞー!」


一条女史は拡声器で叫び続けた。


「まさかあんた、
あたしんちの娘の体が気に入らないって
言うんじゃないだろうね」


「気合入れな、坊やに会いたくないのかい?」


彩姐さんも普段『チーム色道』を
躾けているだけあって、 
こういう時はスパルタだ。


澪は悔し涙を浮かべながら、
涙を拭って立ち上がった。
まさにスポ根。


幽霊がスポ根という
全く結び付かない光景が
繰り広げられた。




しかし霊力が一番強い
澪が最初に憑依に成功した。


「やった!出来た!」


「出来ました!コーチ!」


澪と彩姐さんと一条女史は
三人で抱き合って喜んだ。
新しい肉体を得た澪は、
もう触れ合うことが
出来るようになっているのだ。


普段はあまり仲良くはなかった
彩姐さんと一条女史だが、
これを機に少し仲良くなれたのかもしれない。
 



その後は、
澪の成功体験が他の幽霊達にも伝えらえた。


「イメージです、
大事なのはイメージです。
具体的に相手と一体になる
イメージを固めてください。」


「相手は動きませんが、
命はありますので、
相手の鼓動に同調するように
イメージしてください。」


澪の指導のお陰もあり、
参加者は全員が憑依出来るようになる。


落ち武者の幽霊御嶽さんは
最後に憑依を成功させた。


「やはり、
四百年以上ぶりの肉体はいいもんじゃな」













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