非人道的地球防衛軍とゾンビ兵

ウロノロムロ

最悪から二番目のシナリオ



「しかし
巣穴に帰って来るという話ですが、
巣穴ってどこんなんっでしょうか?」


気の弱い真田は
モニターすらまともに見られずに、
手で顔を覆い指の隙間から時折チラ見している。


「そりゃー、
ここなんじゃないですかねー、
ここで培養してましたからー」


「え!」


真田は卒倒しそうである。
確かにムショの周りに
数十万規模のゾンビが集まってくると考えると
逃げ出したくなるのも道理である。


「どうやって処分するんですか?」


「今、宇宙ウィルスだけを
一斉に処分出来るウィルスを
博士につくってもらってます。」


進士司令官はそこそこ衝撃的な発言を
冷静に発した。


「今、つくってるんですか?」


「ぶっちゃけー、
間に合わなかったんだよねー」


この作戦中、
博士の姿を見なかったのはそのためらしい。


博士のウイルスが完成するまでしばらくは、
ムショの周りを
数十万のゾンビに囲まれて
暮らすようことになるようだ。


「損傷が激しいゾンビくんには
火葬で成仏してもらってー、
損傷軽微なゾンビくんは
再生医療で復活してもらうかなー」


「素体の問題も解決したしー、
ゾンビ兵の研究が進むだろうねー」


「日本政府には
どうやって報告しましょう…。」


真田は胃が痛いらしく、
胃を抑えている。


-


「しかしこの後、
ゲートからの敵後続がないのは
唯一の救いですね。
こちらの損耗度合から考えて、
直後の次戦はまず無理ですからね。」


進士司令官の発言に財前女史は応じる。


「はい、
敵内部潜入者からの情報によると、
まだ海中のゲートによる大量移送には
限界があるようで、
クジラ揚陸艇作戦も
苦肉の策だったようです。」


「しかしこちらも被害甚大ですね。」


千野が被害の分析をはじめる。


「おそらく民間人の被害も入れて
死傷者は十万人を超えているでしょう。
『ピース9』過激派の死亡者に至っては、
反戦に命を懸けてきたのに、
ゾンビとして戦争をさせられているんですから、
死んでも死にきれないでしょうね。」


進士司令官は眼鏡を押しながら言う。


「ええ、私が想定していた中でも、
最悪から二番目のシナリオですね。」


「ちなみに一番最悪のシナリオは
なんだったんですか?」


「東京での核兵器使用です。」


「最悪から二番目で
ちょうどいいぐらいの順位ですね。」


財前女史は思わず目を閉じて合掌する。
それを見て一同も合掌する。


-


天野率いる地上部隊は
後方待機を続けていた。


半魚人とゾンビの戦闘に巻き込まれるのは
絶対避けなければならず、
稀にゾンビから逃げおおせてきた半魚人を
撃退することはあったが、
それもゾンビではないとわかるまでは
迂闊に手が出せない状態だった。
防衛軍に投降してくる
半魚人も少なくなかった。


司令室から戦闘終結と、
後続増援の可能性がないことが伝えられ、
天野は総員に戦闘終結後の指示を出した。


ひとまずではあるが、
ようやく肩の荷が降りた天野。
ホッとして後ろを振り返ると、
目の前には彩姐さんの姿があった。


「そういや姐さん、
そのボディスーツすごいエロいっすね、
鼻血でそうですよ」


天野はここまで来てはじめて、
張りつめていた緊張が
ようやく解けたようだった。


「なんだい、今頃気づいたのかい?」
「あんた今までどれだけ余裕なかったんだい」


天野の落ち着いた様子を見て
少し安心した彩姐さんは
いつもの調子でちょっかいを出した。


「助けてもらったお礼がしたいから」
「今晩あたしの部屋に来ておくれよ、
部屋の鍵開けて待ってるよ」


しかし彩がそういう言い終わらないうちに、
天野はその場に崩れ落ち、倒れた。


「坊や!しっかりおし!」


天野に駆け寄り、
上半身を抱きかかえる彩。


「とってもありがたい
お誘いなんですがね姐さん…
さすがに今晩は病院のベッドの上ですわ…」


天野の頭に巻かれた包帯は真っ赤に染まり、
再び血が流れ出していた。


「そうかい、そりゃ残念だね」


彩は天野の頭を
自分の胸で包み込むようにして抱きしめる。


彩は死に行く者を看取る時いつもそうしていた。


せめてもの救いに、
自分の胸の中で安らかに大往生を遂げて欲しい、
それが彩の願い。


そのまま意識を失う天野。


「おやすみ、坊や」













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