非人道的地球防衛軍とゾンビ兵

ウロノロムロ

作戦プラン検討

さらに千野は続ける。


「制空権に関しても
助かっていると言えるでしょう。」


「敵側の制空能力はないと考えて
間違いないでしょうか?」


進士の言葉に千野が答える。


「水棲生物ですからね、
空を飛ぶとは考えづらいのですが。


そもそも水棲生物が
陸に上がってくること自体が
考えられないことですからね。


陸に上がっても
それなりに戦える自信があるからこその
攻撃でしょう。


陸に上がって来た時点で、
能力が落ちることは予想されますが、
半魚人などは人型ですし、
巨大蟹などは陸上でもそれなりに動けるでしょう。」


「また蟹かー」


「如何せん、敵の情報が少な過ぎますね。
現時点ではこれが精一杯なのでしょうが。」


進士は難しい顔をしながら呟いた。


-


「海戦の問題は置いておくとして、
内地決戦となった場合のプランを
検討しておかなくてはなりません。


上陸の場所と時間が特定出来れば、
それなりに大掛かりな準備をしておくことも
可能でしょうが。」


進士の言葉に千野が見解を示す。


「上陸目標地点は
ほぼ東京で間違いないでしょう。
千葉や神奈川に一度上陸して拠点をつくり、
東京を目指すことも考えられなくはないですが、
苦手な陸路を使うことはまずないでしょうから、
いずれにせよ東京湾から
水路で東京を目指してくると思われます。」


財前女史がさらに付け加える。


「こちらとしては、
東京のさらに旧埋立地跡に
ピンポイントで誘導出来るよう、
現在内通者や工作員による謀略をめぐらせています。


『海底王国』には、
異世界住人にとっての日本防衛の象徴でもある
実物大の巨大ロボット像群を
最初に破壊したという実績を、
他の異世界勢力に見せつけたいという
強い想いがあります。


その想いを利用して内通者や現地潜入工作員が、
先方の好戦派を丸め込み、工作を続けています。」


「現在確認出来ている『海底王国』と
こちらの世界をつなぐ空間の位置、
敵の移動速度から考えて、
出現確認から到着までの時間は
約五時間といったところでしょうか。」


「五時間では住民の避難はまず無理ですね。
事前に避難勧告を出しておくしかありません。」


「未確認飛行物体の襲撃以降、
東京の住民はかなり他県などに移動したんですが、
それでもまだ人が多過ぎますね。」


「少なくとも旧埋立地後の
半径十キロメートル周辺住民には
完全に避難しておいてもらわないとなりません。」


進士の言葉に対し、
真田の後ろ向きな発言。


「事前に避難させておいて、
いつまでも来ないとなると、
また批判を受けることになりますね。


どうせならもう少し人が少ない場所に
誘導できないのでしょうか?」


千野はばっさり切り捨てる。


「異世界住人が侵略者の教典と崇める
『侵略者の作法』なども分析しましたが、
敵からしたら聖地である
東京以外にはありえないでしょうね。」


「日時に関しては、
ある程度の情報は得られるかもしれませんが、
ピンポイントというのは難しいでしょう。」


-


千野はここまでの話を総合して、
プランの検討をはじめる。


「制空権確保が確実であれば、
上陸地点の周囲に防衛ラインをつくり、
敵勢力を包囲、被害を最小限に抑えつつ
敵勢力を空爆、というところでしょうか。」


進士司令官が眼鏡を押しながら、
冷淡な口調で言葉を発する。


「いずれにしても敵の最終目的が、
人類殲滅というのは厄介ですね。


単に支配が目的であれば、
戦況に応じて講和し一時休戦、
敵の支配に甘んじながらも、
その間に再起を窺うことも出来るのですが。


殲滅目的は、降伏したところで
一人残らず皆殺しですから、
最後の一人になるまで
戦い続けるしかなくなりますからね。」




その後、数週間に渡り、
ひたすら会議が続けられ、
最後まで難航した
最終戦局のプラン『Z-02』の完成を以て、
ようやく内地迎撃プランの作成は完了した。


プランは戦局に応じ段階的に
AからZまでの二十五段階に分けられ、
各段階で百前後のプラン詳細が詰められた。
総シナリオ数、シミュレーション数は
二千を超えていた。


-


『ピース9』と『海底王国』の対話交渉は、
約一か月半に渡り行われたが、
『海底王国』は侵略の姿勢を頑として崩さず、
侵略開始も時間の問題となっていた。


『海底王国』が交渉で出してきた条件というのは、
『この世界の物質文明を直ちに今すぐ放棄すること、
この世界の人類の人口を十億人以下に減らすこと』
であった。


当然こちら側が呑める要求ではなく、
はなから侵略の意志を覆す気がないことは明白。


交渉が暗礁に乗り上げた『ピース9』であったが、
それでも共存の道を探るべく、
さらなる対話姿勢を
打ち出すべしとの意志を崩さない。


地球防衛軍としてはその間、
開戦の準備を進めることが出来、
時間稼ぎとしての効果はあった。


開発が進められた対『海底王国』兵器も、
途中工程の各種試験を
いくつも省かざるを得なかったが、
実戦で投入しても、おそらくは問題ないであろう
というレベルにまではなんとか漕ぎ着ける。


旧埋め立て地跡、
周辺住民には避難命令が出され、
東京都全体にも避難勧告が出された。


真田が政府と地方自体体を
説得して回った賜物であったが、
命令が出た周辺住民はともかく、
勧告である東京にはまだ多くの人が残っている。


いつくるかもわからない侵略者に備えて、
事前に避難するというのは
東京の人々には難しかった。


いつまで避難しなくてはならないのか
という不安もある。


未確認飛行物体襲撃の際、
東京はかなりの被害を受け、
経済機能は既に大阪をはじめとする
各都市に移行していたが、
未だ首都移転には至っていないため、
行政機能は残っており、
それ相応の人々が生活を営んでいた。




海戦に関しては、
真田の折衝の甲斐も虚しく、
国防軍は敵上陸を阻止することを決めている。











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