非人道的地球防衛軍とゾンビ兵

ウロノロムロ

侵略スポット

「俺、本当になんでもやるのな」


外出に厳しいと聞いていた着任当初は
シャバに出られることは滅多にないだろうと
天野は思っていたが、予想に反して
シャバでの任務を与えられることが多かった。


天野の特務官としての任務が
特に限定されていないため、
まるで遊撃隊のような扱いを受けてもいる。


特に今日の任務は
天野としても思うところがあった。


「ちょっとちょっとー、
天野っち、見えてきたよー」


「きゃー、すごいよー」


本日は異様にテンションが高い
一条女史も一緒である。




旧埋め立て地後に、
対異世界用にアニメのロボット像が複数体建造され、
そのレセプションが本日行われる。


レセプションに参加するのが
本日の天野の任務であった。


ヒーローアニメ・特撮が大好きな一条女史は、
なぜ自分が選ばれないのかと憤慨し、
休暇を取ってでも、
なにがなんでも付いて行くと言い張り、
ようやく同行を許された。


そもそも旧埋め立て地跡には、
昔一世を風靡したロボットアニメの
実物大ロボット像が一体建っていた。


地球防衛軍日本支部は、異世界住人達が、
当時のロボットアニメに
並々ならぬ執着を持っていることを知り、
侵略者のわかりやすい目標地点とするために、
同じ場所に当時人気があった
他のロボットアニメのロボット像を
十体新たに建てることにした。


侵略者の目標地点がある程度特定出来れば、
迎撃専門の地球防衛軍日本支部としては、
これ以上ないアドバンテージとなる。


基地もすぐ傍にあるため、
将来的には周辺一体を軍事施設とすることも
考えられていた。




普段は極秘裏に事を進めるのが
大好きな組織ではあるが、
この件に関しては大々的に公表された、
もちろん地球防衛軍の名は伏せられてであるが。


それは異世界住人達に
アピールしなくてはならないからに他ならない。


観光スポットならぬ侵略スポットとして
最高の場所があると。


敵の侵略行為を
防がなくてはならない立場でありながら、
そもそも侵略に来て欲しくはないのに、
侵略スポットを侵略者に
大々的にアピールしなくてはならい
という大いなる矛盾。


観光スポットの誘致は、
本当に人に来て欲しい、
地元の良さを知って欲しい、
という気持ちが込められているが、
侵略スポットの誘致は、
本当は侵略に来て欲しくないんだけど、
侵略に来るなら仕方がないから、ここにしてね、
という何とも後ろ向きな誘致なのである。




ともあれ異世界住人達への
アピールを目的としたこのレセプションには、
親日の異世界住人、内通者、二重スパイ等々の
関係者が招待されていた。


異形の目立つ姿をした招待客達には、
人間の姿にのみ偽装出来る偽装ユニットが
特典として配られた。


当然ながら本来の目的ではないが、
この世界の人達も大勢来場していた。
一条女史のように。


むしろこの世界の人達には、
普通の観光スポットとして注目を集めていた。


本来、侵略行為があった際には、
付近の民間人を避難させなくてはならいのだが、
侵略者が侵略に来る予定の場所に、
既に多くの民間人を呼び込んでしまっているのだ。


侵略者からしたら侵略スポットであり、
この世界の人間からしたら観光スポット、
ここでも矛盾する二重構造を生み出してしまっている。


しかしもはや
地球防衛軍日本支部としても猶予はなかったのだ。


『ピース9』が対話交渉を進めているとはいえ、
『海底王国』との開戦はまず避けられないであろう。


海に囲まれた島国の日本にとって『海底王国』は、
地理条件的には相性が良い敵とは言えない。


この世界と『海底王国』をつなぐ
ゲートの場所がある程度決まっているとはいえ、
敵が突然どこから上陸してきてもおかしくはなかった。


よって上陸ポイントをある程度特定することは、
開戦前の絶対的必須条件でもあった。


-


既に来場者は数万人を超えており、大盛況である。


『この中のどれぐらいが異世界住人であり、
この世界の一般市民なのかはわからない。
そもそも異世界住人達は
どれぐらいこの世界に来ているのであろうか。
頻繁にこの世界に来るようになったが、
そんなに手軽に行き来出来るものなのだろうか。』


天野がそんなことを考えていると、
一条女史に怒られる。


「なにボーっとしてんのよー、あっちよー!」


「これはリモコン操作のやつで、
こっちのは人が頭部に乗るやつで、
戦闘機が三体合体するやつで、
こっちが五体合体で、
あれはパワードスーツで、
あれは人造人間のやつで…」


一条女史は詳しくない天野にも
わかるように簡単に説明をしてくれたが、
ブームの世代ではない天野には
いまひとつピンと来なかった。


『これ造るのにいくらかったんだろう、
やはり数十億はしてるんだろうか』


『この予算どこから出してるんだろう』


そんなことばかりを考えていた。


「きゃー、あんなところで
限定記念グッズ売ってるー」


「あたしあれ買いに行きたいー」


天野が一条女史の目線の先を見ると、
長蛇の列が出来ていた。
考えたくはないが、
おそらくは一時間以上は並ぶであろう。


「あれ、並ぶんですか?
一条さんお金持ちなんだから、
オークションで落とせばいいじゃないですか」


「なにを言っているんだ、君はー!」


「こういうところで
苦労して手に入れた体験こそが、
自分の中でグッズの価値を高めるのだぞー」


「はぁ」











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