非人道的地球防衛軍とゾンビ兵

ウロノロムロ

大衆居酒屋『酔道』

天野は『チーム色道』の藤彩香と一緒に、
内通者に会いに行くという
任務にあたっていた。


二人は用意されていた車に
乗り込むと移動を開始する。


最初の車を降りて二台目に乗り込む。
尾行されていないかどうかを判断するため、
このような手間のかかる段取りを
踏まなくてはならなかった。


その後も車を乗り換え、
尾行がいないと判断された後、
郊外の駅に降ろされ、
そこからは電車に乗った。


繁華街の駅で電車を降りて、
彩姐さんに天野が連れて来られたのは、
『酔道』という店名の看板が掲げられた
普通の大衆居酒屋であった。


二階建ての店舗で、敷地はかなり広く、
また随分と繁盛しているようで、
ひっきりなしに客の出入りがある。


「ここですか?」


「そうさ。
ここはこう見えて、
うちらの御用達の店でね。」


彩姐さんは天野の耳元に唇を近づけ小声で囁く。


「表向きは
民間企業の経営ってことになってはいるが、
ここは防衛軍の所有物だからね。」


内通者や諜報部員同士の情報交換の場として、
最適な環境をつくり出すため、
防衛軍関係者が店舗を買い取り、
徹底的に盗聴、盗撮等に関する
セキュリティ対策を施して
改装したのがこの大衆居酒屋であった。


経営のみならず
ビル管理会社や清掃会社すらも
表向きは民間企業だが、
その実すべて軍関係者達であり、
毎日入念な施設内の検査が行われていた。


この手の仕事は『チーム極道』の
不動産担当の専門家達が得意としており、
物件の手配からダミー会社に至るまで、
すべて彼等の手筈で行われた。


防衛軍はこうした特殊施設を
全国にいくつも持っていた。


「『木を隠すなら森の中』って
よく言うだろう。」




「いらっしゃいませ!」


店内に入ると、
広いフロアにぎっしりと
テーブルが詰められており、
客でほぼ満席の状態だった。


人が多いせいか店内はやたらと
ざわめいているように感じる。
他人の話し声でうるさいから、
客は余計に大きな声で話す。
するとさらに店内はざわめきを増す。
それが店内の喧騒を生んでいるのだった。
彩姐さんは天野の耳元に近づき囁いた。


「こういう煩さも計算されてんのさ。
この中から特定の音声を拾うなんて
無理ってもんだろ。」




「お待たせいたしました」


店員が来ると二人席が空いているのに、
なぜか四人席に案内される。
天野はこのままでも不自然かと思い、
注文をしようと店員を呼ぼうとするが、
彩姐さんに止められる。


「坊や、何注文しようとしてるんだい。
本当に飲みに来てるわけじゃないんだから。」


向いに座っていた彩姐さんは身を乗り出して、
また天野の耳元に近づき囁いた。


「今、尾行がいないか確認してるんだから、
このまま待ってりゃいいんだよ。」




「申し訳ございません、お客様。
四人様のお客様がお見えになりまして、
席の移動をお願い出来ますでしょうか?」


しばらくすると店員から声をかけて来た。


「ええ、構いませんよ。
そうだね、地下の方がいいね。」


このやりとりはおそらく
合言葉のようなものであろうと天野は思う。


店員に案内され地下に続く階段を降りて行くと、
地下フロアの人目につきづらい場所に
『従業員専用』の扉があり、
姐さんはそこから中に入って行く。
そこからさらに幾つかの扉を通り、
ようやく目的の部屋へと辿り着く。


「さぁ、ここからが本番だよ」


控え室を出て移動すると、
個室居酒屋のような作りになっていた。
彩姐さんはその内の一室の前に立ち、
襖をすっと引いて開けると、
中に入って行く。











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