非人道的地球防衛軍とゾンビ兵

ウロノロムロ

ドクターXとその愛人

午前中の人員増強会議の後、
昼休憩を挟んで、午後からは
兵力増強会議が予定されていた。


天野は財前、一条と一緒に、
情報漏洩対策のための幹部専用食堂で
ランチを取っていた。


「午後からの会議には
『ドクターX』も出席されるんですよね、
どんな方なんですか?」


天野はまだ『ドクターX』と面識はなかったが、
未確認飛行物体襲撃時に進士現司令官に協力し、
現在も人類に技術提供を行う正体不明の亡命者、
ということは知っていた。


「はじめてこの世界に出現した時は、
肉体を持たないエネルギー生命体だった
と聞いているな。


人類とコミュニケーションを取るために、
最初に接触した司令官殿の
肉体や精神などのデータを全て読み取った、
という話だな。


当初はまったく人間の感情のようなものがなく、
声も機械音声みたいだったそうだ。


その後は、華月蘭教授が研究のため
つきっきりでコミュニケーションをはかり、
博士も地球上の物質を分解・再構成することで
自分の肉体をつくり出して、
急速に人間に馴染んでいき、
今ではすっかり普通のおじさんになっているな。」


「普通のおじさんというよりはー、
むしろ俗物になり過ぎてるんだよねー」


「ま、まぁ、あれだ、この世界の人間の体を
いたく気に入っていただけたようだからな…」


なぜか財前女史は
顔を真っ赤にして言葉に詰まっていた。


「早い話が、エロ爺ーみたいなー」




「正体不明って何者なんですかね?
以前地球を襲撃した奴等と
関係があるんでしょうか?」


「正体については
司令官殿しか知らないことになっているな。
しかし博士から供与される技術が、
高次元関連に偏っていることから、
高次元世界の住人ではないかと噂されているな。
あくまで噂だが。」


「もう一つ以前からの疑問なんですが、
なぜ米国の地球防衛軍本部は
博士を拘束しないんでしょうか?」


「博士を拘束するなんてまず無理だからねー、
自分でつくった肉体を分解・再構築することが
思いのままに出来るんだよー、
本体の高エネルギー生命体状態でも
超空間につながるゲートで
どこにでも自由に出入り出来るんだからー」


「博士が偶然に予見した未来で、
日本に未曾有の危機が迫っているこを察知して、
日本に助力するために
亡命して来たということだしな。」


「変幻自在の肉体を持ち、
移動は自由に思いのまま、
時々未来まで見えるとかチートだよねー」


「博士の日本危機説を信じて、
司令官殿はここまで
地球防衛軍日本支部の組織づくりを
進めてこられたのだからな。」


-


昼食を済ませ、
早めに次の会議室に移動した三人であったが、
会議室の前には女性の人だかりが出来ていた。
ざっと数えても二十人以上がそこに居た。


「博士だな」


財前女史は男らしく豪快に笑った。


「エロ爺なんだよねー」




「博士、会議に関係のない女性を
沢山連れて来られては困りますよ。」


進士司令官の声に反応し、
女性の群れの中から
恰幅の良い初老の男性が姿を見せた。


『サンタクロース!?』


天野は一目見てそう思った。
アロハシャツを着て、
ハーフパンツにサンダルという、
まるでこれから
海にでも行くかのような格好ではあるが、
間違いなくサンタクロースを連想させる姿である。
そうでなければフライドチキンの
チェーン店の前に立っている
銅像の人みたいな風貌である。


「久しぶりだね、進士くん」


「僕のハニーちゃん達がね、
僕のことを離してくれなくてね。
やはり、この三次元世界の女性は素晴らしいね。
君達この世界の住人が物質文明に執着し、
依存し続けたくなる気持ちもよくわかるよ。」


発言内容とは裏腹に、
明るく爽やかな満面の笑みを浮かべ、
嬉しそうに話す博士。


天野は博士を見て抱いた自分の妄想に
自分で突っ込みを入れる。


『煙突から家に侵入してくるエロいサンタクロース?』


『それただの間男じゃねえかよ!』


「私はもちろん
会議に参加させてもらえるんでしょうね。
進士くん」


そう言いながら博士の横に立ったのは、
胸が大きく開いた真っ赤なドレスを着て
谷間を露出する赤髪の女性であった。


『エロいサンタクロースの
ド派手なエロい愛人キター!』


「華月教授、お久しぶりです。
日に日に派手になっておられますね。」


進士の挨拶でこのド派手な女がさっき話に出た
華月教授でることを天野は知る。


「やっぱり
この世界の三次元の男はだめよね。
人体構造に動きが制限されるんだもの。
間接が逆に曲がるぐらいは
当たり前にやってもらわないと、
プレイも燃えないわよ、ねぇダーリン」


『一体何を言ってるんですか、この人は?』


博士をダーリンと呼び、
しきりに腕に絡みつく華月教授。


「ほほほ、何を言ってるんだい君は。
おかしなハニーちゃんだね、ほほほ。」


『よかった、博士にも意味わかってないんだ』


博士にも華月教授の言っていることの意味が
わかっていないことにホッとする天野。


この先この二人にしかわからない
意味不明な会話が延々と繰り広げられる
という惨事は免れそうだ。




「いやーしかし、
潔いくらいにさかりがついてますなー」


一条女史は冷静に皮肉るが、
財前女史は顔を真っ赤にして俯いている。


「しかしこの博士が
人類存亡の鍵を握る人物なんですよね?」


博士が言うハニーちゃん達も、
そもそもは防衛軍が
博士のお世話衆として
雇った女達であった。


人類存亡の鍵を握る博士が
この世界の女性に嵌っていたために、
接待、いや籠絡を目的とした防衛軍が、
多額の借金を抱えて
風俗店に身売りさせられそうになっていた
女達の借金を肩代わりして、集めて来たのだった。


だが、一度博士と男女の深い仲になると、
真の女の悦びを知って、
女達は博士にメロメロになり、
身も心も離れられなくなってしまうらしい。


結局、博士のハニーちゃん達は
華月教授以外みな追い返され、
ようやく会議がはじめられることになった。


『また変な人の知り合いが増えてしまったな』


天野はこの先の展開に不安を感じていた。




しかし兵力増強会議は
まともに進められていった。


華月教授が終始博士の腕に絡みつきながら、
甘えた声でダーリンと連呼する以外は。













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