【胸糞注意】なテロリスト勇者、異世界を蹂躙す

ウロノロムロ

ダークナイト初代大統領

勇者は新しく出来た国の各地を
久しぶりにバイクで走ってみた。


天候も良く風が清々しい。


ここまで早急過ぎたが
ひとまずこの世界に人間を増やし、
人が住む為の環境を整え、
民主主義国家をつくるところまで来た。


万全であるとは言えないが、
これで当面はこの世界で人間と言う種が
死滅することはないだろう、
後は魔王を倒しさえすれば。


-


初代大統領を決める
国民全員の投票による選挙では、
まさかのダークナイトが選ばれた、
勇者が成りすましていた奴だ。


もちろん立候補などしていないし
勇者も意外な展開に驚きはしたが、
他種族からの指示が圧倒的に高く、
他種族に民主主義を唆したのが
ダークナイトであったことを考えると
有り得ないことではなかった。


ただ、仮面を付けた奴を
大統領に選んでしまうあたり
どうなのだろうかと
ツッコミの一つも入れたくはなる。


その辺をまだ他種族の国民は
よくわかっていないのかもしれない。


後、どうやら他の人達は
ダークナイトの仮面が
剥がせない肉体の一部だと
思っているようでもあった。


『仮面だっつうのっ』


政治には全く関心がない勇者は
とりあえずコピーに
仮面被せて誤魔化すか
ぐらいにしか思っていなかった。




今度、新しく
国の貨幣と紙幣が造られるらしいが
その紙幣には初代大統領である
ダークナイトの肖像画が
印刷されるらしい。


『あいつ、成り上がってやがんな』


まぁ本物の本人は成り上がるどころか、
とうの昔に死んでいる訳だが。




そんなことを思いながら
バイクで飛ばす勇者、
以前見た時よりも
人々の暮らし振りは
遥かに良くはなっていた。


少なくとも難民のような
生活からは抜け出せている。


元の世界の原型は
全く留めていなかったが。


-


勇者がバイクで駆けていると
以前も会ったことがある
大地を耕す爺さんの姿を
また見掛ける。


バイクを止め、
爺さんに近寄って行く勇者。


「よぉ、爺さん、
元気だったかい?」


爺さんは陰鬱な顔をして
塞ぎ込んでいる。


「どうだい?
この辺も大分住みやすくなっただろ?


土なんかも以前とは
比べものにならないぐらい、
いい土になったと思わないか?」


建国に浮かれる勇者は
明るい話でもすれば
爺さんも元気になるだろう
ぐらいに考えていた。


しかし、爺さんは
俯いたままボソボソと
何か呟きはじめる。




「ワシは、ワシは、
何もかもすべてを忘れて、
ここで人間として
生きて行きたかったんじゃ、
美しき母なる大自然と共に……


記憶を失くして、
すっかり人間のつもりで、
今までここで暮らしておった……


しかし、ワシは、
ワシは思い出してしまった、
ワシがやらなくてはならないことを、
君のお陰で……」


勇者の顔を凝視する爺さん。


「また会おう、勇者よ……」


爺さんはそう言うと、
忽然と勇者の前から姿を消した。


「なっ、」


「まさか、転移なのか?」




この世界で転移を使えるのは
勇者が魔王ぐらいしかいない。


ではあの大地を耕していた爺さんが
魔王だと言うのか。


確かに魔王が
行方をくらませていた間、
東側の大陸で
人間の爺さんとして
暮らしていたとすれば
魔王が全く姿を見せなかったことの
説明はつく、辻褄が合う。


しかしあんな何処にでも居そうな
普通の爺さんが、果たして
魔王だと言うのだろうか。




いや勇者も薄々は気づいていたのだ。


この世界の魔族がおそらくは
元々はこの世界の人間だった
であろうことには。











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