【胸糞注意】な勇者請負人、そして神々、時々ドラゴン

ウロノロムロ

加速と減速

「勇者よ、
よく我の攻撃をかわしたな」


眼前の悪魔騎士が再び動きはじめ
勇者に向かってそう言った。


時の勇者からすれば
かわしたどころではなく、
剣で攻撃もしたし
魔法攻撃も既に行っている。


それに全く気づかれないぐらい
全くダメージを与えられていない、
そう考えると悲しくて
泣きたくもなるというものだ。


「なんで、お主
剣が折れておるのだ?」


心折れかけている勇者に
追い討ちを掛ける悪魔騎士、
これは敵のメンタル攻撃なのか。




悪魔騎士は手にする剣で
再び勇者に襲い掛かる。


高速ラッシュで次々と
剣を繰り出す悪魔騎士だが、
時の勇者はこれを
さらに上回る動きで
避けかわして行く。


「なんとすばしっこい奴」


悪魔騎士からすれば
そう見えるのであろうが、
時の勇者は特別に
アジリティが高い訳ではない、
むしろ平凡中の平凡。


これも時を操る能力で
敵の時間経過を遅くし
自分の時間経過を
早くしているだけである。


敵から見れば
勇者が超高速で
動いているように見えるが、
勇者から見れば
ただ単に敵がゆっくりとスローで
動いているだけにしか見えない。


アジリティに関しては
この能力である程度解決は出来る、
やはり問題となるのはその攻撃力だ。


-


時間の経過を操る能力、
その効力が切れた瞬間
時の勇者は捉えられ
悪魔騎士の大剣で
バッサリと叩き斬られる。


真っ二つにこそされなかったが、
袈裟懸けに斬られ
相当な深手を負った勇者は
傷口から大量の血を噴き出して
そのまま崩れ落ちた。


まだ辛うじて息はあるが、
絶命寸前の瀕死状態。




そしてそこで再び時が止まる。


いや止まった訳ではなく、
時間が逆行をはじめたのだ。


まるで今起こった出来事が
逆再生されているかの如く、
勇者は血を噴き出しながら立ち上がり
悪魔騎士が振る大剣は
構えの姿勢に戻って行く。


もちろんこれは時の勇者の
時間を逆行させる能力であるが、
これが恐ろしいのは
この二者だけ時が逆行している訳ではなく、
この異世界全体の時間が逆行していること。


わずかな数十秒の時間ではあるが、
この間に命を落とした者は蘇り、
生まれた者は生まれる前に戻る、
それがこの世界全体で行われたことになる。


この能力の影響力は計り知れない。




「危なかったぁ」


まさに危うく死に掛けた勇者は
ほっと胸を撫で下ろす。


再び時が正常な流れで動き出すと、
悪魔騎士の大剣が
再び振り下ろされるが、
時の勇者は今度は時を止めて
これを余裕を持ってかわす。


同じ能力の連続使用は無理なのだが、
数分程度時間を置けば
再び使うことが出来るようになる。


「我が神速の剣をかわすとは」


いやかわしてない。


確実に一度はバッサリ斬られている。


それよりも悪魔騎士なのに
何故『神速の剣』なのか、
時の勇者にはそれが気になって仕方ない。


-


その後、何度も
似たようなことが繰り返されたが、
時の勇者には一向に
敵を倒す方法が見つからない。


『あれだけは
使いたくないんだよな』


そう思って
時の勇者はついに諦めた。


『仕方がない、
数日前の出発地点に戻って、
違うルートで目的地を目指すとしよう』


時の勇者がそう決断し
能力を発動させた瞬間、
数日前の宿屋を出発する時間に
彼は戻っていた。


時間跳躍、タイムリープ。


それにもやはり
この異世界全土が巻き込まれた、
しかも数日レベルの適用期間で。


これ程の神のような能力を持ちながら
時の勇者は悪魔騎士を倒せず
時間的な撤退をしたのだった。











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