【胸糞注意】な勇者請負人、そして神々、時々ドラゴン

ウロノロムロ

時の勇者とリッチ

結局、赤ん坊になった
悪魔騎士を殺すどころか
そのまま放置することすら出来ず、
旅を中断して近隣の村に
赤子を預けに行くことにする勇者。


しかし近隣の村も、
魔族の赤ん坊を
引き取ることは嫌がり、
預かり手探しは難航する。




思えばこの能力には
以前からエライ目にあっていた。


昔、魔王軍の者達
二十名に取り囲まれて
絶対絶命の大ピンチに
仕方なくこの能力を
発動させたことがあったのだが。


当然、時の勇者の目の前には
二十名の赤ん坊が
現れることになる。


やはりそのまま
放置することが出来ず
赤ん坊達の安全を
確保しようとしたが、
二十名を一度に
運ぶことも出来る訳がなく、
近隣の村まで
何度も往復して運ぶ羽目になった。


勇者が赤ん坊を抱えて
近隣の村まで行っている間に、
他の赤ん坊達が
じっとしている筈もなく、
ハイハイして這って
そっちこっちに
勝手に行くものだから、
森林や山を探し回って
この上なく苦労した
という過去がある。


今回もやっと
魔王軍ではない魔族の者達を見つけ
とりあえずしばらく
預かってもらうことになった。


-


ようやく旅の続きを
再開した時の勇者、
しばらくは順調な旅で
このまま進んで早く遅れた分を
取り戻さねばと思う
時の勇者だが、
実際は彼が考える程には
旅の日程は遅れてはいない。


何度も同じ時間をやり直している
時の勇者からすれば
もう一か月以上
足踏みしていたように
感じられたであろうが、
毎回出発の日まで
遡っているのだから、
わずか数日の遅れに過ぎなかった。


それは彼がこの世界で
自分しか覚えていない数十日間を
一人だけ生きていたのに等しく、
時の旅人が孤独である所以でもある。


-


そんな、時の勇者の旅路
今度はアンデッドの大群が
その行く手を阻む。


また弱腰になるかと思われた
時の勇者だったが、
今度はそこそこ
強気な姿勢を見せた。


ここまでずっと
戦闘向きではない自らの能力を
過小評価して来た
時の勇者ではあったが、
唯一相性が良くて自信を持てる敵、
それが肉体を持つアンデッドであった。


肉体を持たない
霊タイプのアンデッドは
さすがに無理だが、例えば
朽ち果てた肉体のゾンビなどは
肉体のみを時間逆行させ続ければ
普通にただの人間の肉体に戻る、
健常だった頃の。


赤ん坊にもならずに
程よく弱い頃の人間に
戻ってもらえるので、
時の勇者でも倒すのは簡単だった、
いくら何でも勇者である以上
普通の人間よりは強い。


そもそも人間に戻ったら
もう戦う必要がなくなり
そのまま帰って行く元ゾンビも多い。




ゾンビ達が
人間に戻されて行く様を見て、
群れのボスである
リッチの顔が青ざめる、
いや髑髏みたいな顔で
色はよくわからないのだが。


無限の知識を求めて
永遠の命を目指した
なれの果てであるそのリッチは
何十年、何百年という時を掛け、
ようやく今の境地に辿り着いた。


その多大なる苦労と労力が
一瞬で水泡に帰そうとしているのだ。


「た、頼むっ、お願いだっ、
や、やめてくれっ、やめてくれっ、
俺がここまで辿り着くのに
どれだけ大変だったと思っているんだっ」


うろたえるリッチに
時の勇者は容赦無く
時間逆行の能力を使う。


「やめろぉぉぉっ……」


普通の人間の青年へと
戻って行く元リッチ、
呆然として地べたに座り込む。


「不死などを求めたりせずに、
限りある時間を、命を
精一杯生きて行くべきです」


これが時を統べることが出来る
時の勇者の信条なのであろう、
限られた命の時間であるからこそ
人間のせいは輝きを放つのだと。




このように、時の勇者による
肉体の時間逆行能力は、
特にリッチに関しては
リッチ殺しと言ってもいいぐらいで、
長い年月を経てようやく辿り着いた
リッチであるのに
時の勇者は一瞬で彼等を
元々の人間の肉体に戻してみせる。


リッチに辿り着くのに
長い年月が掛かった者程
心をバキバキにへし折られるのだった。


-


そんな神にも匹敵する
能力を持ちながら、
コンプレックスを抱え、
まだ能力を上手く
使いこなせていない
時の勇者。


とりあえずレベル差関係なく
どんな相手でも斬れる剣、
もしくは究極の攻撃魔法の
一つでも覚えれば、
おそらくすぐにでも
最強クラスになれるのだが、
まだまだ先のことに
なりそうではある。











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