やがて忘却の川岸で
わがままな女の子の話 2
「貴方って不思議な体をしてるのね?体から光る蝶々が出てくるなんて、気持ち悪くて面白いわ。」
「……そう…それは良かった…」
なんかよくわからないが、褒められたようだ。
「ねぇねぇ、私にも蝶々触らしてよ、私のペットにするの。一匹出しなさいよ。」
「はいはい…」
手から青い蝶々を出して彼女に渡す。
これでしばらくは静かにしてくれるだろう。
彼女は嬉しそうな物珍しそうにその蝶々を手に乗せて楽しんでいる。
僕はその様子を見ながら、目の前で道案内をしてくれている蝶々に置いていかれないよう注意していた。
蝶には彼女の死体の血を吸わせてある、殺した狼は当然血を多量に浴びているはずだから、いずれそれの元に着くだろう。
さっきと同じ方法だ。
「ねぇ、貴方死神なのよね?魔法とか使えないの?」
「……さぁ…」
「じゃあ魔術は?この蝶々は魔法じゃないの?それともこれも魔物の一種なわけ?」
「………さぁ…」
「なによさっきから…少しくらい教えてくれてもいいじゃない…!」
「…僕自身、よくわからないんだ。」
ありのままにそう言うと彼女は、若葉色の瞳を丸くしながら、どこか不思議そうな顔で言った。
「わからないってどういうこと?貴方魔物なのよね?」
「…それもよくわからない。気がついたらなってたんだ。」
「…なってたってことは、前はなんだったの?もしかして人間だったりするの?」
彼女は好奇心旺盛な子供のように、立て続けに質問を繰り返す。
いちいち質問に答えるのは少し面倒だ。
特に自分自身に関しては分からないことが多いから質問しないで欲しい。
「…さぁ、どうだろう…」
「……変な人。」
彼女はつまらなそうに呟くと黙って僕の後ろを素直についてきた。
僕があげた蝶々は彼女の金髪に止まり、青く蛍のように発光している。
これならもし、この子が迷子になっても、すぐに見つけ出せる。あげて良かったかもしれない。
「この蝶々、綺麗ね。」
「……そう?…」
「ええ…私が観てきたモノの中で一番綺麗よ。やっぱりどんな宝石よりも、生きてる者は何より綺麗だわ。そう思わない?」
「……うん…。」
「ふふ……ねぇ、今日はとても月が綺麗ね。あの日みたいに白い穴が夜空に空いてるわ。」
後ろから彼女の可愛らしい笑い声が聞こえる。鈴を鳴らしたような上品な笑い声。
彼女の言うあの日がなんのことか、僕にはあまりよく理解できなかった。
死んだ日のことを言ってるのか…また別の日なのか…見当がつかない。
でもそれでいい気がする。
別に、気にしなくていいことだ。
たぶん、そういうことだった。
彼女はとてもお喋りだった。聞いてもないことを僕に色々教えてくれた。
歩いて行くときに見た草木の名前とか、森に入る前はどんな暮らしをしていたかとか、使用人の数や食器の種類に至るまで、とにかく思いついたものを全部僕に話してくれた。
でもお母さんやお父さんのことはあまり話さなかった。
「お母様もお父様も家にいないもの、だから家では好きなことしていいの。使用人を虐めたり、食器を壊したり、宝石をトイレに流してもいいし、薬を飲まなくてもいいの。」
「……君、病気だったんだ…」
「そう、私血の巡りが悪かったの。だからお家から出たことなかった。こう…人とお話しすることもあまりなかったの。でもいいわ、だってもう死んだもの…。」
「そうだね…」
ふと、彼女の手が僕のランタンを持つ手に触れた。その感覚に無意識に視線を送った頃には、彼女はなんでもないというように、その手を引っ込めた。
僕はランタンを反対の手に持ち替え、空いた手を彼女に差し出す。
それに彼女は少し驚いたように、戸惑いを見せた。
「ここは暗いからね…手を繋いでいた方がいいだろう…」
僕がそう言うと彼女はしばらく悩んだ後、そっと僕の手に自分の手を重ねた。
細く随分小さな子供の手だった。
「……ありがとう。私、怖がられずに人に触れられたの、初めてなの。」
「気にしないよ……僕は。」
「手、随分冷たいのね…死んでるみたいだわ。」
「…死んだようなものだからね。」
「でも、手が冷たいってことは心が暖かいってことよ…貴方は優しいってこと。どう?嬉しい?」
「…嬉しいよ。」
僕がそう言うと彼女は嬉しそうに微笑む。
手を繋いだだけなのに、ここまで喜んでくれるとは思わなかったから、少し驚いた。
あたりは暗い、転ばないように注意して僕らは道を歩き続けた。
血痕が続いている、まるで引きずっていったかのようにずりずりと草や木々に赤黒い跡がついている。
どちらにしろひどい出血だ。
さぞ、痛かっただろう。
「まだつかないの?もう疲れたわ、どこかで休みましょうよ…」
「…君、死んでからどのくらい経つんだい?」
「はぁ…?そうね、大体1か月くらい?」
「なら、今日中に見つけなくちゃいけない。魂の寿命は大体1か月だからね。」
「そうなの、短いのね。」
君の話なんだけど…そう思ったが人によって感じ方は人それぞれだから言わなかった。
にしてもこの子は余裕がある、少し違和感を感じるぐらいには。
手の感覚は久しぶりに味わった。
死者に触れるのは初めてだからだ、そういえばなんで触ったことなかったんだっけ?
あぁ、そうだ…僕はあることを知っていたから触ったことなかったんだった。
そうだった、そうだった…
僕はそんなことも忘れてたんだなぁ…
「……そう…それは良かった…」
なんかよくわからないが、褒められたようだ。
「ねぇねぇ、私にも蝶々触らしてよ、私のペットにするの。一匹出しなさいよ。」
「はいはい…」
手から青い蝶々を出して彼女に渡す。
これでしばらくは静かにしてくれるだろう。
彼女は嬉しそうな物珍しそうにその蝶々を手に乗せて楽しんでいる。
僕はその様子を見ながら、目の前で道案内をしてくれている蝶々に置いていかれないよう注意していた。
蝶には彼女の死体の血を吸わせてある、殺した狼は当然血を多量に浴びているはずだから、いずれそれの元に着くだろう。
さっきと同じ方法だ。
「ねぇ、貴方死神なのよね?魔法とか使えないの?」
「……さぁ…」
「じゃあ魔術は?この蝶々は魔法じゃないの?それともこれも魔物の一種なわけ?」
「………さぁ…」
「なによさっきから…少しくらい教えてくれてもいいじゃない…!」
「…僕自身、よくわからないんだ。」
ありのままにそう言うと彼女は、若葉色の瞳を丸くしながら、どこか不思議そうな顔で言った。
「わからないってどういうこと?貴方魔物なのよね?」
「…それもよくわからない。気がついたらなってたんだ。」
「…なってたってことは、前はなんだったの?もしかして人間だったりするの?」
彼女は好奇心旺盛な子供のように、立て続けに質問を繰り返す。
いちいち質問に答えるのは少し面倒だ。
特に自分自身に関しては分からないことが多いから質問しないで欲しい。
「…さぁ、どうだろう…」
「……変な人。」
彼女はつまらなそうに呟くと黙って僕の後ろを素直についてきた。
僕があげた蝶々は彼女の金髪に止まり、青く蛍のように発光している。
これならもし、この子が迷子になっても、すぐに見つけ出せる。あげて良かったかもしれない。
「この蝶々、綺麗ね。」
「……そう?…」
「ええ…私が観てきたモノの中で一番綺麗よ。やっぱりどんな宝石よりも、生きてる者は何より綺麗だわ。そう思わない?」
「……うん…。」
「ふふ……ねぇ、今日はとても月が綺麗ね。あの日みたいに白い穴が夜空に空いてるわ。」
後ろから彼女の可愛らしい笑い声が聞こえる。鈴を鳴らしたような上品な笑い声。
彼女の言うあの日がなんのことか、僕にはあまりよく理解できなかった。
死んだ日のことを言ってるのか…また別の日なのか…見当がつかない。
でもそれでいい気がする。
別に、気にしなくていいことだ。
たぶん、そういうことだった。
彼女はとてもお喋りだった。聞いてもないことを僕に色々教えてくれた。
歩いて行くときに見た草木の名前とか、森に入る前はどんな暮らしをしていたかとか、使用人の数や食器の種類に至るまで、とにかく思いついたものを全部僕に話してくれた。
でもお母さんやお父さんのことはあまり話さなかった。
「お母様もお父様も家にいないもの、だから家では好きなことしていいの。使用人を虐めたり、食器を壊したり、宝石をトイレに流してもいいし、薬を飲まなくてもいいの。」
「……君、病気だったんだ…」
「そう、私血の巡りが悪かったの。だからお家から出たことなかった。こう…人とお話しすることもあまりなかったの。でもいいわ、だってもう死んだもの…。」
「そうだね…」
ふと、彼女の手が僕のランタンを持つ手に触れた。その感覚に無意識に視線を送った頃には、彼女はなんでもないというように、その手を引っ込めた。
僕はランタンを反対の手に持ち替え、空いた手を彼女に差し出す。
それに彼女は少し驚いたように、戸惑いを見せた。
「ここは暗いからね…手を繋いでいた方がいいだろう…」
僕がそう言うと彼女はしばらく悩んだ後、そっと僕の手に自分の手を重ねた。
細く随分小さな子供の手だった。
「……ありがとう。私、怖がられずに人に触れられたの、初めてなの。」
「気にしないよ……僕は。」
「手、随分冷たいのね…死んでるみたいだわ。」
「…死んだようなものだからね。」
「でも、手が冷たいってことは心が暖かいってことよ…貴方は優しいってこと。どう?嬉しい?」
「…嬉しいよ。」
僕がそう言うと彼女は嬉しそうに微笑む。
手を繋いだだけなのに、ここまで喜んでくれるとは思わなかったから、少し驚いた。
あたりは暗い、転ばないように注意して僕らは道を歩き続けた。
血痕が続いている、まるで引きずっていったかのようにずりずりと草や木々に赤黒い跡がついている。
どちらにしろひどい出血だ。
さぞ、痛かっただろう。
「まだつかないの?もう疲れたわ、どこかで休みましょうよ…」
「…君、死んでからどのくらい経つんだい?」
「はぁ…?そうね、大体1か月くらい?」
「なら、今日中に見つけなくちゃいけない。魂の寿命は大体1か月だからね。」
「そうなの、短いのね。」
君の話なんだけど…そう思ったが人によって感じ方は人それぞれだから言わなかった。
にしてもこの子は余裕がある、少し違和感を感じるぐらいには。
手の感覚は久しぶりに味わった。
死者に触れるのは初めてだからだ、そういえばなんで触ったことなかったんだっけ?
あぁ、そうだ…僕はあることを知っていたから触ったことなかったんだった。
そうだった、そうだった…
僕はそんなことも忘れてたんだなぁ…
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