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やがて忘却の川岸で

作者 ピヨピヨ

死神の時間

ルーアとはかれこれ長い付き合いになる。
あぁ、でも死神単位で考えればそれほど長いわけでもないかもしれない。
数年の時の流れなんて、ほんの一瞬に過ぎないのかもな。

「どうしたの?」

不意に黒闇の視界に、眠そうな顔のルーアが横から入り込んだ。
相変わらず、コイツはいつも気怠そうな顔してるな。

「…何考えてたと思う?」
「どうせくだらない事。」
「え〜〜⁇」

船の端に預けていた頭を持ち上げ、頭の後ろを掻きながら口を尖らせる。

「お前の中で、俺はどういうやつなんだよ?なぁ…」
「…ただの、ヒモ。」
「一応働いてますぅ〜、ばーか。」

指差して批判すると、ルーアは、そう…とくだらなそうに言う。
まぁ、総合的に言えば俺の方が働いてないけどさ、ヒモと言われる筋合いはないよな。

「それはそうとして…はい、これ。」

ルーアは右手に持っていた籠を、俺に差し出す。

「お?待ってましたぁ〜。」

俺は心躍る心地で、その籠を貰った。
籠の中身には、何冊かの本と、パンと小瓶が入っている。

「この本の続き気になってたんだよねぇ、なんだか〜表紙を見るだけでも心踊るよ〜。」
「…そう。」

ルーアは喜ぶ俺を怠そうに見ながら、岸辺に座る。

「あ、この本、もう結構前に頼んだやつ。覚えててくれたんだぁ〜、なんかさ亡者がだいぶ熱心に語ってたから、読みたかったんだよね〜、ありがとう。」
「…そう。」

ルーアの肩ら辺が、ゆらりと青く光り、蝶が生まれた。
これはあくまでも俺の推論だけど、ルーアって嬉しい時や悲しい時、あとなんだっけ?…あぁ、満月まんげつだっけ?のときに出やすいらしい。
まぁ、あくまでも推測だけどさ、嬉しい時に思わず蝶々が出ちゃうみたいだったら、少し可愛いよね〜。




「ねぇ。」

ん?

「なに〜?」
「僕、いつも思うんだけどさ、死神だから死ぬことも僕らにはない…つまり食べなくても、寝なくても、苦しくても決して死なない。だから食べる必要なくない?」

まるで異星からやってきた宇宙人みたいなこと言うな、こいつ。

「いやさぁ、確かに死なないけど、俺らお腹は空くし、眠くなるし、傷ついたら痛いじゃん?それに出来るだけ苦しまない生き方していきたいし…」

パンを口に入れ、咀嚼しながら答えると、ルーアはそれでもよく分からないように、首を傾げた。

「…お前、そう言うってことは、食べたり寝たりしないわけ?辛くないの?」
「……今はもう辛くない、食べても味しないし、眠くもない。」
「それってまるで、干された魚みたいな生き方。」
「魚じゃないよ。」

パンの最後のひとかけらを呑み込むと、それまで黙っていたルーアが珍しく自分から喋ってきた。

「…そういえば、今日はいないの?」

ゴンドラの中を見ながら、ルーアが聞いた。

「ん?あぁ、いるよ〜。ずっとここで寝てたみたい。」

俺は着ていたコートの袖口に手を突っ込み、ソレ・・をずるりっと出す。
ぴーっと鳴きながら、俺の手に絡みつく白蛇は、ジタバタと暴れている。

「あ〜ごめんね、せっかく寝てたのに、起こしちゃったね〜。」

白蛇くん(多分オス)を宥めながら、肩に乗せると、白蛇くんは不満そうに片方の肩から顔を覗かせた。
ルーアはその蛇をじっと見ながら

「…まだいるのか…。」

と、どこか気味が悪いものを見るかのように呟いた。

「本当、変なヤツだよね〜、いないなぁ?と思ったら急に現れるし、いない時は本当にいないし、船の中って狭いからさ、見つけられない訳ないし。神出鬼没 っていうの?これ。」
「…さぁ……。」

ルーアは興味がなさそうな返事をする。まぁ、いつものことだけど。

「そういえば今日は亡者いないんだね〜、まだ説得途中なわけ?」
「ん…そんなとこ。」


ルーアのお仕事は案内係。
死神は分けて三つの種類の役割がある。

一つ、現世で魂を取り出すやつ。これが多分人間の中のイメージそのものの仕事だね。でも今のところ一人しかいないかな。
精霊とか妖精を殺す奴が一人いるんだけど、そいつだけ論外。
だって生き物はほっとけばいつか死んでくれるしね。

二つ、魂を川まで案内するやつ。これがルーア、あちこちに行って迷子の魂を回収したり、駄々こねられたら説得したり、強引に連れてきたりする。
他に案内係がいるかは知らない。
だってルーアしか見たことないし。
ルーアも知らないらしい。

三つ、その魂を川の向こうに連れてくやつ。

「ルーアはいいよなぁ〜、いろんなところに行けてさ〜、俺なんて川から出られないのに。」
「それは仕方ない、だって君は橋渡しなんだから。川に愛されて、川に閉じ込められてしまったんだから、仕方がない。」
「そんな無粋な〜、慰めてくれよ〜!寂しいんだよ〜…」
「仕方ないでしょ…君はそういう死神なんだから。」
「あーあー、やだねぇ、無駄に物分かりの良くなっちゃった年寄りは。」

頬を軽く膨らませる。でもルーアは無表情のまま。
まぁ、いつものことだけどさ。

「エリーサが物わかりが悪いんだよ…馬鹿だから。」
「あ、それ言っちゃう?」
「100年くらい生きてれば、どんなことにも寛容になれるよ。」

その結果が睡眠欲求と食欲、痛みの解放じゃん…あんまりなりたくないなぁ、その体。
楽しみもないし、何より人間らしくない。
死神だけど。

「寛容…ね。干された魚になれば良いってこと?」
「魚じゃないよ。」
「ククっ…分かってるよ。」

さっきと似たようなやりとりに、おもわず笑ってしまうと、ルーアは少し不満そうに眉を潜めた。

「外の世界ってどんなとこなのかな?ここに比べて暖かい?それとも寒いの?」

話題を変えてみた。

「…寒いところもあれば、暑いところもあるよ。」

ルーアは眠そうな目をしながら、日陰に咲く百合の花みたいな声で答える。
…日陰の百合の花も見たことないけどさ、きっとこんな感じなんだろうな。
ひっそり、ゆっくり…って。

「じゃあ、明るい?暗い?」
「明るい時もあれば、暗い時もあるよ…夜
月が出てる時は多少明るいけど、それでも辺りは暗いんだ…だから明かりがなくちゃいけないから、いつもこれを持ち歩いてる。」

そう言ってルーアはコートの内側から、ランタンを取り出した。
長方形のガラス箱には、丸い金属製の輪っかが付いていて、そこが持ち手になるらしい。
なるほど、それで夜道を照らすのか。

「ふーん、なるほどねぇ…勉強になりますわ。」
「でも、君は川から出られないんだから要らない知識じゃないの?」
「ただの暇つぶしだよ、今を保つだけの。」

そう答えると、ルーアは納得した様子で肩を落とした。
そうそう、やってられないんだよな。
ここに生まれてこの方、俺は川から出たことがない。
ここは静かで暗い場所。
だから明かりと、話し合い手と、暇つぶしがなくちゃ、俺は生きていけない。

そういう風に、生まれてきてしまった。

それはルーアも同じ。

「ねぇ、ルーアはさ。」
「……なに?」

ルーアは月みたいな色の瞳でこちらを見る。

…月の色なんて、本でしか見たことないけど。

「…あー…。」

綺麗な色してるよな…

不思議な色で光彩が綺麗だ。

「…忘れちゃった。」
「そう…。」

ルーアはふいっと目を逸らす。


その日、ルーアは長めにそこにいた。

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