3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G

4話 始まりの異世界3

「あ............お酒は......ちょっと......」 


「ここに座っておいて、まさか
ジュースでもたのむ気?」


肩までかかった綺麗な髪を耳に
かけながら、隣の女性が尋ねてくる。


「いや、別に何か飲みたくてここに
来たんじゃなくて.......」


どう説明すればいいのやら......


というか、そもそも何故あの青年は
ここに行ってみろと言ったんだ?

見た感じ、居酒屋のようにしか
見えないが......


「どうしたの? そんなに
黙りこくっちゃって」


俺がどう返答しようか迷っていると、
隣の女性が更に質問を投げてきた。


えーっと...............もういいや。
とりあえず、今俺が一番知りたいことを
聞いてみよう。


「あの......すみません......
ここってどこですか?」


その俺の突発的な問いかけに、
彼女は目を丸くした。
そして



「アハハハッ!!! 何それ! アハハッ!」


店中に響き渡る声で彼女は笑いだした。


「あ、あの! ちょっと声がでかい
ですよ......」


「え? あ、ごめんごめん......だって
いきなりそんな馬鹿みたいな質問されたら
......誰だって......笑うよ......」


彼女は未だに笑いを堪えていた。


「俺......真剣なんですけど......」


「ごめんって。で、その今の質問って
どういう意味?」


「どういう意味とかじゃなくて、ここが
どこかって意味です」


その俺の真剣な表情を見て、彼女は
はっとしたような顔をした。


「もしかして、君異世界人?
 私もなんだ~」


まただ。あの青年と同じ言葉を
彼女も口にした。


「その異世界人ってどういう意味ですか?」


「別の世界から来た人のこと。
それも知らないってことは、君って
まだ新米なんだね。ちなみにさ、この
世界に来る前に誰に会ったか覚えてる?」


何を言っているのかわからないが、ここに
来る前に会った人なら覚えている。


「老人です。自分のことを
神様とか言ってました」


そう答えると、彼女から先ほど
までの笑みが消えた。

一瞬、ぞくりとしたが、再び彼女は
笑い


「じゃあ君は転生者だ」


と言った。


「転生者?」


「そう。異世界人には主に二つの
種類がいるの。一つは君みたいな
転生者で、もう一つは私のような
転移者」


「なんすかそれ。何か違いが
あるんですか?」


「うーんとね......簡単に言うと、
転移者は自由に別の異世界へと
移動できるけど、転生者は
できない」


「それって転生者は不便なんじゃ......」


「そうだよ。でも、転生者は
受けた傷が、別の異世界に
転生すると、完全に元に戻ってるっ
ていう利点もある。逆に転移者は、
受けた傷は治さない限り、転移した
異世界でも元に戻らない。まあ、どっちも
どっちかな」


「はあ......」


 まだ何を言っているのかわからないが、
とりあえず相槌を打つ。


「それで......ここはどこなんですかね......」


俺が一番知りたかったのは
さっきからそれだった。


「だから言ったじゃん。
ここは異世界だって」


「あの......からかうのはもう
止めてください。本当に困ってるんです」


「うーん.......まあ、今は信じられないかも
しれないけど、その内私の言っていた
ことが真実だってことに気づくよ」


俺の相手をするのが面倒になったのか、
彼女は自分のグラスを手に取り、
ぐびっと飲んだ。


まずい......ここで見捨てられるとマジで
終わる......


そんな俺の切羽詰まった顔を見て、哀れに
でも思ったのか、彼女は再び口を開いた。


「とりあえず、この世界で
生き残りたいんだったら、そこの
受付で話を聞いてきた方がいいと
思うよ。じゃないと、何も始まらない」


そう言って彼女は指差した。


生き残る。なんとも物騒な言葉だが、
今は彼女の助言に従うほかなかった。


「あ、そういえば君お金持ってるの?」


「え? あ、はい。これだけなら......」


俺はあの青年からもらった残りの
お金を彼女に見せた。


「へー。じゃあさ、そのお金で、今から
私が凄腕の護衛兵を雇ってきてあげようか? そしたら、少しは安全になると思うよ。」


「え!? ま、マジですか!」


「マジマジ!」


「じゃ、じゃあ......お願いしようかな......」


そう言って俺は彼女に残りの四枚の
コインを手渡す。


「三枚で十分だよ」


すると、彼女はその内の一枚を俺に返した。



「じゃあ、ここで待っててね。」


「はい! お願いします!」


俺は意気揚々と立ち上がる彼女に
お辞儀をした。


「あ、そういえば君名前は?」


「服部隼人です。あなたは?」


「私?」


すると、自分の名前を名乗るだけなのに、
彼女は何かを黙考しだした。
そして、数秒後、彼女は再び口を開いて


「ウィンク。お姉さんって呼んでも
いいよ?」


と、答えたのだった。

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