3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G

二百九十一話 到着8

           【魔王城 一階】


「ジャ、モウソロソロ、シネ。」


結局右足を切り落とされ、痛みによって
今にも意識が飛びそうなルドルフに、
マッドサイエンは言った。


「......ルド......ルフ......さん......」


サッちゃんは敵に押さえつけられ
ながらも、何とか杖に手を伸ばそうと
する。


「......もう......いいですよ。
回復魔法士を......信じた僕が......
間違ってた。」


リオン......これは君を守れなかった
罰なのかもしれない。
今、そちらに謝りに
行くから、待ってて......


ルドルフは天国にいるであろう
弟にそう伝えながら、ゆっくりと
目を閉じたのだった。


ドカンッ!


が、その時ルドルフは何かが
物凄い勢いで壁にぶつかる
音を聞いた。


ドカンッ!


その音は何度も聞こえてくる。


「!? オマエ、ダレダ。
イケ。アイツヲ、コロセ。」


どうやらマッドサイエンは
何者かと戦っているようだった。


だが、ルドルフは血を流しすぎて
少しも体を動かすことができない。
ただ音が聞こえてくるだけ。

やがて、何かが壁にぶつかる音は止み、
代わりに足音がコツコツとこちら
に向かって来る。



誰だ? 敵?



そう思ったルドルフは、遠退く意識の
中であの言葉を聞いた。
自分が今まで一番嫌っていた言葉を。
信用していなかったあの魔法を。



「ヒール。」


体がとてつもなく熱くなっているのを
ルドルフは感じた。
そして何より心地良かった。

そらからしばらくして、ルドルフは
ゆっくりと目を開けた。


「無事ですか? 俺が見えますか?」


彼の前にいたのは......


「あなたは......確か......回復魔法士の......」


「服部隼人です。」















「すごい......」


ルドルフは完璧に元に戻った
自分の右足をまじまじと見る。
彼を助けた張本人の隼人は今、
魔力の使い過ぎで意識を失った
サッちゃんの治療を行っていた。

ちらっと音のした壁の方に目をやると、
そこには何体もの魔族やあの化け物達
の死体が山積みになっている。


彼が殺ったのか?


ルドルフは再び隼人に目を向ける。


「あなたがこれを?」


「そうです。」


隼人は治療に専念しながら答える。


「嘘でしょ?」


「?」


「回復魔法士のあなたなんかに
こんなことができるわけ無いじゃ
ないですか!」


「......そう言えば......お前、回復魔法士
のこと嫌ってたよな。」


急に口調が変わった隼人に
ルドルフはビクッとする。


「なんで?」


「な、なんでって......それは......」


「オイ。」


すると、どこからかあの声がする。


「オマエ、オラッチノ、ペット。
ゼンブ、コロシタナ。」


ルドルフはまだマッドサイエンが
生きていたのかと、天井を見上げた。


「何だ......さっきは逃げたくせに
戻って来たのか。」


動揺するルドルフと対称的に
隼人は堂々と地面に落ちてきた
マッドサイエンに話しかける。



「ヨクモ......オラッチノ、ペットヲ......」


マッドサイエンは体長一メートルと、
さほど大きい体格では無かったが、
隼人に怒り狂ったマッドサイエンは
変態し、体長が五メートルを超える
大きさまで巨大化した。


「ひっ!」


ルドルフは変わり果てたマッドサイ
エンを前にして後ずさりする。


そんな彼の前に隼人は立った。


「お前が何で回復魔法士を
嫌ってるのか俺は知らない。
確かにこの世界の回復魔法士の人達は
そこまで強くないよ。
だけど、そんなの彼女達が一番
知ってんだよ。
それをわかってて、この船に乗った
んだ。
決してお荷物になるためなんかじゃない。
戦いの邪魔になるためでもない。
誰かを一人でも助けるために、
震える足に鞭打ってこの船に
乗ってんだよ!
一番最初に狙われるのは自分達
だって知ってるのに。
そんな彼女達を馬鹿にするのなら、
俺はお前を許さない。
決してお前が過去に回復魔法士と
どんな因縁があろうと、回復魔法士
を見下し続けるお前なんかよりも、
サッちゃん隊長達の方が立派だ。」


「......何も知らないくせに......
勝手なことを言うな! 
あいつらは僕の家族を! リオンを
殺したんだ! そんな......何も救えない
回復魔法士なんかを......どうやって
信じればいいんだよ!」


「なら俺がお前を救ってやるよ。」


「......?」


「グギャアアアアア!!!!」


その時、巨大化したマッドサイエンは
猛獣の如く、座り込んだままの
ルドルフに襲いかかる。


「鉄壁シールド!」


隼人は自分の防御力を爆上げし、
ルドルフの盾となってマッドサイエンを
止めた。
そして、力強く握り絞めた拳で
マッドサイエンを反対側の壁まで
殴り飛ばした。


「そのまま嫌いな回復魔法士に
自分が救われるのを見とけ。
そして、自分が弱者である
ことを痛感しろ。」


隼人は惨めに座り込んだままの
ルドルフに挑発的に言って
殴り飛ばしたマッドサイエンを
追った。


......わかっていた。
今、地べたで寝ている彼女は
リオンを殺したあの回復魔法士達とは
違うことを。
彼女がどれだけ陰で努力している
のかを知っていた。
けど、僕はそれを見てみぬふりを
していたんだ。


自分はただ、リオンを失ってしまった
怒りを、この船に乗った勇敢な
回復魔法士達にぶつけていただけ
だったのだとルドルフは
改めて気づいた。


彼女に詫びよう......
今まで散々馬鹿にしてきたことを
彼女が目を覚ましたら、自分の
気持ちが晴れるまで謝ろう。


ルドルフは目の前に転がっていた
弓を力強く握る。


「けど......僕を弱者で呼ばわり
したのは......許せませんね......」


そう呟いて目一杯弓を引く。
自分の体が壊れそうなくらい
思い切り力を込めて......


「グルシス!」


矢を放った。


ルドルフの放った矢は三本に分裂し、
それぞれに黄金の羽が生えていた。
その三本の矢は速度をどんどん上げ
ていき、前を走っていた隼人を
追い越して


「ギャィアアアア!!!」


マッドサイエンに直撃した。


そして、止めを刺すかのよつに
その三本の矢は光を放ちながら
大爆発した。


「......」


隼人は矢が飛んできた後ろを
振り向く。

そこには、誇らしげにこちらを見ている
ルドルフの姿があった。


「あなたが強い回復魔法士である
ことはわかりました。それも飛び抜けて。
けど、僕は弱者ではないです。」


そんな迷いの無くなった顔をする
彼を見て、隼人は微笑んだのだった。

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