3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G

二百四十九話 フリーズランド9

「タチアナ。ゴムボート出してくれ。
俺が膨らませるから。」


ペルーと別れてから俺たちは
着た道を最速で戻ってきた。
今はタチアナの持参したゴムボートで
上の大陸に向かおうとしている。


「ありがとう、隼人。では頼む。」


俺はタチアナからゴムボートを
受け取ると、ふぅーーーー!!!!
とゴムボートの中に空気を
送り込む。


「おお!」


謎にタチアナは楽しそうだった。


俺はちょっとずつゴムボートが
膨らんでいくのを感じながら、
更に空気を吹き込んでいく。


て、あれ? 嫌な予感する。


「? 隼人。 これ以上膨らまないぞ?」


「え、嘘だろ。」


俺はせっかく吹き込んだ空気が
逃げないように栓を塞ぐ。


「そんなはず......」


ない。と言いかけたところで
俺はゴムボートがどんどん縮んで
いるのに気がつく。


「あ、あの......タチアナさん。」


「どうした。何故いきなり敬語──」


「これ穴空いてますよ。」


「!? 馬鹿言うな!」


「いや、だってなんかプシューって
音もするし。ちゃんと確認したのか?」


「無論だ! 事前に船で膨らむかどうか
確認してきたのだ!」


「ほんとか?」


「もういい! 私がしてみる!」


すると、俺からゴムボートを奪い取り
今度はタチアナが息を吹き込もうとする。


「あ......」


それ......間接キス......


と、俺はそんなことを思いっていたが
当のタチアナは必死にゴムボートに
息を吹き込んでいる。


あれ、俺だけ? 
今こんなにドキドキしてるのって
俺だけ?


「ふううううっ!!! はぁ......はぁ......!
何故だ! 何故膨らまないんだ!」


「いや、だから穴空いてるって......」


すると、タチアナは若干涙目に
なりながらもう一度試そうとする。


流石に俺はかわいそうになって


「船の中では本当に膨らんだのか?」


と尋ねた。


「......本当だ......信じてくれ......」


「わかった。信じるよ。てことは、
そのリュックに入れてから穴が空いた
んじゃないのか?」


「リュック?」


タチアナは流れてしまった涙を
俺に見られないように素早く拭いて、
自身のリュックに手を突っ込む。


「......」


その後、タチアナは顔を真っ青に
しながら、壊れたコンパスの針を
震えた手で取り出したのだった。

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