3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G

二百十八話 仲間の捜索16

互いに背を向け合い、少しの
物音にさえ神経を尖らしてから
どれくらい経っただろうか。
十秒? いや、もしかしたら一分、
逆にまだ五秒も経っていないのかも
しれない。
そんな緊張状態を消し去ったのは
ヨーテルの声だった。


「何がいるって言うのよ......
こそこそと隠れてないで出て
きなさいよ。」


ヨーテルはピリピリとした口調で
先の見えない霧に向かって
吐く。
だが、次に襲われるのは
自分かもしれない。
そう思うと他人の心配など
している余裕などはなく、
ただただ、タチアナ達の
呼吸だけが微かに聞こえてくる。


「隼人......サーマクリフエント
ロマナーニは先程まで確かにいたな?」


「ああ。さっきまで俺の前にいたよ。」


「じゃあ、あんたなんでいなくなった
瞬間を見てなかったのよ!」


「本当に一瞬だったんですよ。」


俺がほんの一瞬、瞬きをしている
間に目の前にいたはずの
サッちゃん隊長の姿が消えた。
これはもう沼にはまったどころの
話ではない。
何かがここにいる。
俺たち以外の何かが......


「......しかし......何も物音もせぬし、
何より魔族の気配がないのう......」


「いえ、長老。間違いなく近くに
魔族はいます。」


「......なぜそう言えるのじゃ?
タチアナちゃん。」


「私の勘です。」


「そうか......お主の勘はよく当たる
からの。特に......魔族に関しての勘は。」


「自負しています。とりあえず今は、
警戒体勢を解かないほうが得策かと......」


「それはいいけど、じゃあいつまで
この状態を続ければいいのよ。
身動きが取れないじゃない。」


確かに。このままではらちが明かない。
それに、ずっとこの状態が続けば、
精神からやられてしまいそうだ。
もしかしたら、相手はそれを狙っている
のかもしれない。
だが、ここまで姿を隠している
敵の正体が不明だと何も手をうつ
ことができない。
少しでも何か敵の情報が有れば
いいのだが、あいにくこの霧。
敵の正体どころか、外見すら
拝むことも難しいかもしれない。


何か......何かないか?


俺はひたすら辺りを見渡し、
とあることに気がついた。


もしも、仮に敵がサッちゃん隊長を
襲ったとしたら、必ずその
足跡がこの残るはず。
この島の地面は泥に覆われている。
だから、どんな小さな動物が通っても
足跡はくっきりと残るはずだ。
そう思って俺は地面に目をやる。


だが、それは逆に俺の心を不穏にさせた。


ない......どこにも......


自分達の足跡はある。
俺とタチアナ、長老。
ヨーテルのはほうきにまたがって
いるため足跡はないが、サッちゃん
隊長らしき足跡もある。
けれど、そのサッちゃん隊長の足跡
はどこに向かうでもなく、ここで
途切れていたのだった。

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