爆ぜろ!魔法少女いちごちゃん

空空 空

空白の幽霊 その4

 ショッピングモールの駐車場では、棘の生えた根が蠢いていた。
根は、地面を穿ち建物にも絡みついている。
「立つ場所もない感じだね......」
 となりのいちごちゃんに言う。
 いちごちゃんが笑う。
「無いなら作ればいい!」
 言葉と同時に腕を振り上げる。
それに続く閃光と轟音。
それも一度や二度じゃない。
ドミノ倒しみたいに、連鎖的に爆発する。
「煙で魔獣が見えません!」
 火の粉混じりの煙の中から海月さんの声がする。
「あちゃぁ......」
 いちごちゃんが後頭部を掻く。
 確かにこの煙じゃ何も見えない。
「でも......」
 爆煙が風に流される。
そこから覗く光景は......。
「おわっ......!」
 根が鞭のようにしなる。
風を切る音が通り過ぎる。
いちごちゃんの頰は、薄っすらと血が滲んでいた。
「大丈夫?」
 尻餅をついたいちごちゃんを助け起こす。
 今、動きが確認できる根は十数本。他の根は千切れていたり、横たわったままだ。
「効いてるみたい......」
「よし!ならもっと......!」
「いちごステイ!」
 食い気味に海月さんが言う。
「でも効いてるよ?」
 そう言ういちごちゃんの横に、海月さんが滑り込んでくる。
「根に人が埋もれています」
「え?人?」
「......おそらく魔法少女です」
 いちごちゃんが困った顔をする。
「じゃあどうすれば......?」
「いちごや大牙のような広範囲の攻撃は避けなければなりません」
 そう言う海月さんの後ろでは、大牙が襲いくる根を捌いていた。
「とりあえず足の踏み場は大丈夫そうだね」
 鎌を握りしめる。
棘も動かないなら大した脅威じゃないだろう。
「行こう......助けに」
 海月さんが、姿勢を正す。
「彼女はなかなか重傷のようです。私が救出に向かいます」
「それじゃあ、私たちは」
 いちごちゃんが私の横から顔を出す。
「根の相手をしていてください。後......死なないでください」
「分かった」
 死ぬつもりは毛頭無いよと、即答する。
「いちごちゃんだっているし」
 いちごちゃんに目配せする。
「私が小鳥ちゃん死なせるわけがない!」
 絶対にねと、小声で付け足していた。
「言質は取りましたよ。そんなに時間はかからないはずです。その間任せましたよ」
 海月さんが飛び去るのを見て、直ぐ駐車場に踏み込む。
 いちごちゃんが小爆発を起こしながら走る。
 根がのたうち回る。
かと思えば、こちらに飛んでくる。
 反応出来ない速度じゃない!
 今にも私を吹き飛ばさんとする根を切り上げる。
手ごたえは薄く、衝撃はない。
しかし、視界の端には確かに切り離された根を捉える。
「やった」
「うしろ!」
 背後に回ってきた根をいちごちゃんが体で受け止める。
幸い棘はない部分だ。
「ごめん!大丈夫?」
「大丈夫、めっちゃ痛い!」
 声を荒げて、ひっ摑んだ根を爆破する。
その手からは、炭が崩れ落ちた。
 根の攻撃にはキリがない。
右から左から、息もつかせぬ速さで迫る。
 振り下ろされる根を切る。
身を翻して今度は後ろ。
 次はどこから......?
「海月が襲われてる!」
 近づいてきたいちごちゃんが言う。
私とは違って、周りを見る余裕があるみたいだ。
 根を刻みながら走る。
太い根が幾重にも重なっている場所。
そこに海月さんは居た。
大剣の上には紫色の髪の少女が横たわっている。
迫る根を、即席の氷の盾で防いでいる。
「海月!大丈夫!?」
「大丈夫です!救出しました!撤退しましょう!」
 地面すれすれを、根を避けながら滑る。そこに大きな影が多い被さる。
「海月さん!上!」
 海月さんを、巨大な目玉が見下ろしている。
その目玉は、青白く輝き真っ直ぐ海月さんを見つめていた。
 いちごちゃんが、目玉に手を伸ばすが、もう間に合わない。
 目玉の光が炸裂する。
音もなく、その視線の先が結晶化し、瓦解する。
「みっきー!?」
 遅まきながら、大牙が気づく。
 海月さんは、青白く輝く結晶の破片に飲み込まれていった。




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