爆ぜろ!魔法少女いちごちゃん

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激走!電車型魔獣!その5

 引っ越してから初めての休日が訪れた。
と言っても、時間があるならしなきゃいけないことがある。こんな時にも、どこかで誰かが消えている。
 とりあえず、四人で街を徘徊している。
 いちごちゃんが、木の枝を振りながら言う。
「ねぇ......これ意味あるかな?」
「あなたの直感が頼りなんです。さっさと、なんか感じ取ってください」
「そう言われても......。ほら、かたまってないで、バラけたりした方がいいんじゃない?」
「その方がいいかもしれませんし、そうしない方がいいかもしれません。とにかく今回の方針としては集団行動です」
 今の活動の根っこには、いちごちゃんが気配を感じると言う前提がある。だから、散会するべきではないのだ。
「なぁ、いちご?ところでどこに向かってるんだ?」
 大牙が問う。
「そりゃあ......相手は電車だよ?駅に行くでしょ」
「あ、そっか......」
 今の会話を聞いて、少し疑問に思ったことがあるので、海月さんに訊く。
「実際、線路でしか出てないんですか?」
「それもハッキリしません。ただ、今までも繰り返し線路上に出現していますから、でしか出ないとは言えませんが、線路には出ると言えるでしょう。私たちがターゲットにしたのも、ある程度出現場所が絞られているからですし」
「なるほど......」

 最寄り駅に着くと、平日に比べて人がかなり少ないのが見て取れた。
「魔獣が出るって分かってるんだもん。わざわざ、乗りに来ないよ」
 いちごちゃんが、俯くようにして独りごちた。
 今、ここにいる人たちは、私たちのような変わり者と、どうしても電車に乗らなければならない人だけだ。
「で、どうなんですか?いちご?」
 海月さんが、大して期待していないような表情で訊く。
「それが......実は薄っすら感じてたんだけど、その......消えました」
 いちごちゃんが項垂れる。
「どうやら気配というのは、ただの勘違いみたいですね」
 海月さんが、表情を変えずに眼鏡の位置だけ直す。
 その時だった。
「これは......」
「......ブランクですね」
 世界から色が消えていた。
「では、いちごは小鳥の近くに着いていてください。ここからは別行動です」
 海月さんの髪が青く染まる。体はより一層深い青色の衣装に包まれている。その右手には、海月さんの長身を上回る大きさのサーフボードみたいな形をした大剣が握られていた。
 その大剣を地面と水平にし、その上に乗る。
「では」
 そう言い残して、空中を滑り飛んでいってしまった。
 後には、飛行機雲みたいな光の筋が残っている。
「なに......あれ?」
 それを見届けた大牙は、スカートの上から巻いた革製のベルトを強調するようなポーズをとって、そこからまた大袈裟に動く。
「変身!」
 髪が黄色に変わり、服も変わる。
その拳は金属の鎧のようなものに覆われ、甲からは四本の鉤爪が伸びている。
しかし、何よりも目を引くのは、尻尾だ。
衣装に最初から、それ専用の穴が開いていて、そこから太い尻尾が生えている。尻尾の上面には、三列の棘が並んでいて、帯電しているようだった。
「しっ......ぽ?」
「怪獣みたいで、かっこいいでしょ」
 そう言って、思い切り地面を蹴る。
 体は軽々と、空に吸い込まれていった。
「私たちもいくよ」
 そう言う、いちごちゃんの姿も初対面の時の姿に変わっていた。
「えぇと......」
「大丈夫。私はこう見えてかなり強いから。ついて来て!」
 いちごちゃんと一緒に改札を抜けて、ホームに出る。
 目に入ったのは、線路を塞ぐように並べられた巨大な氷の柱だった。
「海月だよ」
 瞬間。
魔獣が、目の前の氷を砕く。
氷片をばら撒きながら、目の前を横切る。
「......速度は、あんま落ちてないみたいだね」
 そう言ういちごちゃんの目は魔獣の方を向いている。
 すると、大きな衝突音と共に魔獣のスピードが少し落ちる。
「何が......?」
「大牙が、正面から押し返してるみたい。小鳥ちゃん、乗り込むよ」
 そう言って、いちごちゃんが手を伸ばす。
「乗り込むって......え?」
「私は二人みたいな機動力がないからね」
 言いながら、私が恐る恐る出した手を引いて、そして私をお姫様抱っこする。
「え......へ?」
 風の音に、目まぐるしく流れる景色。
 飛び上がったいちごちゃんは、既に私を抱えたまま、魔獣の上に立ち上がっていた。
 色をなくした街並みを、いちごちゃんの腕の中から見下ろす。
「危ないから、今はずっとこのままね」
「は、はい......」
 横から大剣に乗った海月さんが滑り出てくる。
「大牙が押して止まらないなら、多分私たちには止められませんよ、これ」
「ダメージは入ってそう?」
「氷も電撃も、足止め以上の意味はなさそうです。武器での攻撃はこっちが弾き飛ばされます」
「やっぱりダメかぁ......」
 大牙が上まで、よじ登ってくる。
「コイツ、どうしようもないよ。突進しか能がないみたいだけど、こっちの攻撃が全く通らないよ......」
「ちょっ......大牙上がって来ちゃマズいんじゃない!?」
 いちごちゃんの腕の隙間から言う。
「......前に車両がある。ボクには止められないし、このままじゃボクらが無事じゃすまない......」
 不意に、いちごちゃんが私を降ろす。
そのまま、無言で魔獣の先頭の方へ駆けて行く。
「全く、あの馬鹿はっ......」
「危ないよ!いっちー!」
 取り残された私は、立っていることが出来なくてその場にしゃがみ込む。
 先頭側から、海月さんたちの声が流れてくるがよく聞き取れない。
 やがて、爆発の振動がやってきて、煙と火の粉が帯を形作る。
 いちごちゃんが、魔獣を止めようと必死になっている。
何度も何度も何度も、振動は響いてくる。
 轟音が重なり、大気を揺るがす。
舞う火の粉が、魔獣の体を照らす。
 しかし、それが止まることはない。
 最後に、一際大きな衝撃がきて、私の体は......真っ白な空に投げ出された。
 魔獣が列車に衝突したことは容易に想像出来た。
 いちごちゃんはどうなったのだろう?
私は、どうなってしまうのだろう?
 空を舞う時間がやたら長く感じられた。

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