爆ぜろ!魔法少女いちごちゃん

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激走!電車型魔獣!その1

 突然、叔母の家に住まうことになった。
鏡 小鳥かがみ ことり。12歳。
詳しいことはよく知らないけど、気づいたら家から通えない中学に通うことになっていた。
 正直、今でも実感がわかない。
あの家を離れるなんてずっとないと思ってたし、向こうにだって中学校はあった。
「なのにこんなに遠くまで行くことになるとは......」
 実は1人で電車に乗るのも初めてだったりする。
 座席の表面を撫でながら、窓の外を見る。
知らない景色が流れていた。背の高い建物の多さに、少し萎縮する。
 新天地には、期待ちょっと、不安たくさんって感じだ。
 なんだか落ち着かなくて、前に抱えたリュックサックの中を漁る。
筆箱と、お母さんからもらったアルバム。それしか入っていない。
 そっとアルバムを取り出して、開く。最初の4ページ程までしか埋まっていない。
「はぁ......」
 こんなことなら、もっと写真撮っとけば良かったなぁ。
 自然と出たため息に合わせて、少し視界が潤んだ。
「......」
 リュックサックを閉じ、抱え直す。少し抱きつく。顔を埋めると家の匂いがして、ちょっとだけ元気になれそうだった。
 きっと楽しいことだってあるだろうし、叔母さんだって「子どもには優しい」ってお母さんが言ってた。
だから、きっと大丈夫。
 バッと、顔を上げる。
もう少しで、目的地だ。
と......その時だった。電車の揺れが止まる。当然、電車はこんなに一瞬で止まらない。普通なら。
 またか......。
 乗客が異変に気付き、少し騒めき始める。
そんな中、みるみるうちに世界から色彩が抜け落ちていく。
 どこかの誰かが、ほとんど息みたいな声で呟く。
「......魔獣だ」
 知っていても、見たことはない。見たことがあっても、覚えていられない。そんな理不尽な怪物。
それが、魔獣だ。
私以外にとっては。
 席を立ち、速やかに出口へ向かう。
「うっ......。閉まってるじゃんか」
 それでも、扉の隙間に指を入れて、開こうとする。
「あか......開かな......いぃ」
 1人悪戦苦闘していると、近くの男の人も手を貸してくれた。
 すると、何かのストッパーが外れたのか扉は勢いよく開いた。
 ナイス筋肉!と心の中で呟きながら、リュックサックを背負い直して線路の上に飛び降りる。
振り向いて、さっきの人にお礼を言う。もう会うことも出来ないだろうし。
「ありがとう。おじ......お兄さん?」
「あ、危ないよ!魔獣が出たときは基本的に動かない方がいいんだ!ここに来るとは限らないし......」
 それがわかってるなら、どうして扉を開けたのだろう?
「おじさん、お節介だね!」
 そう言って、さっさと駆け出す。私だけの蜘蛛の糸を探しに。
 色彩を欠いた世界を駆ける。
多分この世界は魔獣が作ったものだ。今までしてきたように、脆い場所を探す。
 脆い場所。よく分からないが、確かに世界の境目のようなものがあるのだ。その世界の壁を壊して仕舞えば出口の完成。単純だ。
 しばらく線路の上を走っていると、100メートルくらい先だろうか?そこにヒビが入っているのを見つける。隙間から紫色の光が漏れている。
 今まで最初からヒビが入っていたことはないが、壊すとこんな感じになるので間違いなくあそこが壁だろう。
 ヒビに向かって足を踏み出そうとするが......そのヒビが広がっていくのを見て、その足を引っ込める。
 嫌な予感がする。多分これ、ダメなやつだ。
 穴に姿を変えたヒビから、新幹線の頭が飛び出す。ただし窓の部分は水色に光り、正面には同じく水色をした大きな口がエサを求めて開閉していた。
 頭が真っ白になる。
私は明らかに特別だった。魔獣の世界に取り込まれた後でも記憶はそのままだったし、世界の壁に空いた穴を通ることが出来た。
全部普通の人には出来ないことだ。
 だから、私はいつの間にか「自分は死なない」と勘違いしていたんだ。
 迫り来る死に為すすべもなく、頭を抱えてその場所にしゃがみ込む。
 怖い。死にたくない。嫌だ。
 突然、大きな音と、振動が響く。頰に熱を感じる。
 恐る恐る、顔を上げると、揺れる紅いツインテールと、ピンク色のスカート、流れる煙が、視界の中で混ざり合っていた。
 少女が振り返って、笑う。
「魔法少女いちごちゃん、参上だ」
 情報が処理しきれない。
「あの......えっと、やっつけた?」
「ん?......いや、逃げられたけどさ......」
「......」
「......」
「えっと......誰?」
「言ったでしょ。魔法少女いちご。あ......と、5歩?んー10歩くらい左にずれてた方が良いと思うよ」
 唖然としたまま、横にずれる。
すると少女は消えていた。
 すぐに世界に色が戻り出す。
 緊張した体から力が抜け、その場に座り込む。
 ホッと一息つこうとしたら、すぐ横を、乗っていた電車が猛スピードで通り過ぎて行った。
 

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