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屋根裏の吸血少女は騙してる

べるりおん

転生者


――ドオォォォ!!!

「なんだ!?」

 逃げる俺の耳に届いたのは、家が崩れる音だった――

 土煙が舞うのを見ながら、俺は唇を噛み、リリスのことを考える。

「大丈夫だよな……まさかやられたりなんか……」

 己の無力さに苛立ちを覚えながらも、リリスの行動を無駄にしないようにと、俺はさらに加速して逃げる。

「はっ、はっ、くっそ肺がいてぇ……」

 息を吸う度に乾いた肺が痛む。もう走りたくない、疲れた。
 そんな弱音が次から次へと出てくるが、リリスを思い、走り続ける――

 そして、村の入口とは真反対の柵があるところまで逃げた時だった。

「ねぇ君」
「……!?」
「大丈夫! 怖がらないで今助けてあげるから」

 俺の背後にいたのは、最初、聖剣持ちに帰還を促していた女だった。
 皮で出来た防具をつけ、背中にはいくつもの宝石が埋め込まれた弓を担いでいる。
 スレンダーで金髪ストレートの女は、いかにも弓使いという感じだ。
 
「あの……助けるって? さっきまで襲おうとしてたじゃないですか!」

 俺は激昂し、騙されねぇとばかりに護身用に持ってきた鎌を突きつける。
 無論。俺は訓練もしてなければ強くもない。転移する前とおなじ力だ。即負けるのは確実だが、それでも敵意、警戒を見せつけるにはそれだけで良かった。
 俺の目を見た弓使いは申し訳なさそうに両手を上げ、

「人間が生きてるなんて思わなかったのよ……まさか人質をとっていたなんてね……本当にごめん! 私達があの化け物を討伐したら、一緒に都市に帰りましょ?」

 そんな訳の分からない提案に俺は疑問を覚える。

「いやちょっと待ってくれ、人質? なんの話しだ、俺達は二人ともただの人間だぞ」

 俺の言葉を聞いた弓使いは、首をかしげ、「洗脳?」と答えを出したようだった。
 なるほど。そういうことか。
 今までの聖剣持ちの言葉と今の言葉。それらを繋ぎ合わせてやっと答えが出た。

「お前らはこの村に人に化ける魔物がいると聞き、討伐しに来た。しかし、二人いるのは計算外だった。そして何らかの理由でリリスの方を本物の化け物と扱い、俺は人質だと解釈したわけか……わからん。ある意味あいつは化け物だが、討伐する理由がわからない。それになんで俺を人質だと思った?」

 その通り。という顔で頷く弓使いは手を下ろし、経緯を説明してくれた――

「つまりここ半年、都市の近くに魔物が現れないという事と、この村に人がいなくなったことが確認されていたってことか。そして、リリスの魔力を感知した冒険者が、リリスがここ一帯を制圧したと勘違いし……」
「討伐依頼を出した……。まさかあなた達も転生者だったなんてね……それにしても彼女の魔力は膨大すぎるような……女神の祝福かしら……」

 首を傾げる弓使いを他所に俺はあることに気づいていた。
 この村に人がいなかったのは元からだ。なにか異常事態イレギュラーが起きてるのは間違いないのか? それに、あなた達も。ってこいつら転生者なのか、どうりで強そうなわけだ……。
 俺はリリスに転移させられて来たということは伏せ、転生してきたということにし、この世界でリリスに出会ったということにした。これ以上疑われても仕方が無いしな……。
 それにリリスの魔力の膨大さはさすが異世界人と言うべきなのか、俺がリリスに教えて貰ったのはリリスの住む世界では。特殊な能力が使える者がいるということだけだ。
 実際リリスが使える能力【奪取】【変幻】の事はある程度教えてもらった。【奪取】に関しては血を吸うことで敵の能力を奪えるという物だ。その副作用として吸われたものは貧血を起こし、一定時間気絶するらしい。【変幻】はただ姿を変えられるとしか言われていない。
 正直【奪取】に関してはチートレベルで強いと思うが、どれほどなのかは分からない。
 俺はとりあえずリリスを助けようと鎌を下げ、弓使いに、リリスに攻撃しないように仲間に伝えてくれ。と頼んだ。
 それには弓使いも頷き、今すぐ言ってくると駆け出して行った。
 
「ふぅ。とりあえず誤解も解けたようだし、一安心か……。さっきの音が気になるけど、少なくとも命までは取られずに済むよな」

 俺は胸をなでおろしながら、走った疲れを癒すため、近くの家の中に入り、木でできた丸椅子に座る。

「はぁ、人がいなくなったのは気になるけど、とりあえずリリスと一緒に都市に向かうか……」

 そんなことを呟きながら、窓から太陽によってオレンジ色に染め上げられた家を見る。
 太陽が暮れ始めているためか、家の影がより一層大きく見える。

「…………あれ?」

 分からない。何かが引っかかる。

 ただそれだけが頭の中でぐるぐると渦巻き、最後には弓使いの後ろ姿が映し出されていた――

「どういうこと……だ?」

 俺は弾かれたように家を飛び出す。

 何が正しいのかなんてわからない。ただ、俺の脳裏に浮かぶのは、


 影が一切ない、影なしの弓使いだった――
 


 
 


 
 

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