異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!

八百森 舞人

友と戦ったが、努力は万能かもしれない!

   「おーい! 和樹くーん!」


 俺は最終ラインとして、クラス棟まで数メートルのところに仕掛けをしてから笑顔で手を振りながら和樹に近寄る。


 「なんだ! 鎧も無しで近づくのは危険だぞ」


 ああ。そうか、風の魔法は不可視系が多いから普通じゃ見えないんだよな……今後の戦争に備えて和樹には魔力位は視えるようになって貰わなければ……。


 「大丈夫、風の鎧を来てるから」


 「ああ……この前のっ! 試合でっ! 殴ってもっ! 丈夫だったのはそのお陰かっ!」


 「俺も介入していいか?」


 流石にハルバードで貫いたり切り裂くのには抵抗があるのか、一々大振りで凪ぎ払っている和樹に問う。


 「寧ろっ! 頼むわ!」


 「了解『エア・バリア』『エア・ウォール』……『バースト』!」


 俺は和樹を風の守りで包んでから俺の背後に特大の風の壁を創り、暴発させる。

 突如生まれた暴風にバランスを崩し、敵の前線は大きく後退する。


 「凄いな……流石は魔法だ」


 「見とれてないでこのポーションを飲め」


 と、言った俺に転がる敵から視線を移し――兜も被っているため、視線がどこにあるかは分からないが――俺が放ったビンを手に取る。


 「これは?」


 「体力回復、血液増加……と、ちょっぴり痛み止めの麻酔」


 「麻酔……? 動きが鈍くなったりは?」


 俺のポーションが怪しいのか、質問してくる。


 「ない。良くも悪くも痛み止め程度だ。ま、体力回復がメインだな。後は付随効果とか」


 「そうか……」


 少しは納得したのか、兜が消え、ポーションを飲む。


 「手こずってるみたいだな。何か支給しようか?」


 「っはぁ……支給? 何をだ?」


 一気飲みした後、空になった瓶を俺に放り返す。


 「ポーションの類いだ。色々あるぞ……今の様な体力回復系は純粋な効果だけだったらもっと良いのがあるし、麻痺ポーションは得物に塗ればかするだけで相手は痺れる。同じように睡眠や痛痒なんてのもある」


 「ふむ……なら、あれ有るか? この前の、俺が痺れた奴」


 この前……ああ! ザッカロムの根か。


 「あるにはあるぞ。成分だけだがな……っとこれだ、はいよ」


 「っと。悪いな、助かる」


 和樹は麻痺毒をハルバードの尖端に掛ける。俺も拳の麻痺毒を確認する。俺にとっては少し痺れる位だが、これもエルフの種族特性という奴で、俺にはほとんど毒は効かない――意識して抵抗を弱めることも出来る――が、その俺が痺れる程だ。十分だろう。


 「おいレト、そろそろ来るぞ」


 和樹が言った通り、暴風はもう収まっており、相手の進軍? は再開された。


 俺は近くの生徒に強化麻痺毒パンチを食らわす。このパンチの掠り傷から麻痺毒が体内に入り、次第に動きが鈍くなり、遂には地面に倒れる。なお、致死性ではないし、十分もすれば次第に解けて消える安心設計? 調合? である。

 勿論指先や目位は自由に動かせるし、声だって呂律は回らないだろうが、叫ぶ位は出来る。


 なのに、それなのにどうして俺にやられたやつはピクリともせず、安心したかのように目を閉じるんだ!? 出来れば少しだけでも足掻いて欲しいんだが? ……だって後ろの人達が怖がってますし、そのせいで和樹の方に行ったらこっち見るわけで、見た目だけならどう見ても死体の山な訳で……。


 「お、おいレト、そいつらまさか死んで……くっ、殺すのは流石にまず――」


 「死んでねぇよ!? 勝手に殺してあげるな!? てか、この流れはキューテの専売特許だから! 存在意義だから! 奪わないであげような!」


 俺と和樹は強い。それはどんどんと積まれる死体……じゃなくて麻痺毒で動けない奴らが証明している。和樹は時々攻撃を受けるが、あれはわざとだと思う。攻撃を受けて、相手が硬直した時に攻撃を……確実に一撃で仕留めているのも硬直の隙を狙ったのだろう。俺は結構無双している。俺のエア・アーマーは今のところ貫かれて無いし、もし貫かれたとしても制服にダメージが入るだけで俺は無傷だろう。だから今回は制服を守る事で何かの訓練になるかと思ったが、まぁこれも積まれる行動不能者の山がどれだけ容易かったか証明しているだろう。


 こうして俺と和樹は無双している筈なのに、怯むことなく……いや、怯んで尚、突撃してきている。そして麻痺攻撃で動けなくなったら安心するって……。

 あ……良いこと思い付いた!


 「なぁ和樹! 当初の目的とはちょっとずれてるけどさ!」


 「なんだよっ! そういや、二人が居ない……? あの二人は? ……っと!」


 「それはまた後で……それでさっ! やっぱりこれって戦争じゃん?」


 ふぅ……俺の方は粗方終わった様だ。和樹も今相手をしている分で最後だろう……前衛で戦っていた近距離部隊は、だが。


まだ後衛の遠距離部隊は俺の造った土壁に阻まれ、回復ポーションにありつけない様で、半分は警戒、半分は壁の掘削に勤しんでいる模様。障害物がなければ、目に魔力を集めての視力強化が使いやすい。遠くを見ているときは近くが見えないデメリットもあるが、ま、大丈夫だろう。ちょっと足場にしている人の山には申し訳ないが、和樹の方に決着が着くまで俺はこっちの観察をするとしよう。


 今はなんだ……ライト・ウォールはあまり魔力を込めていなかったからか、消え、土の壁が丸見えだ。

 因みに、アース・ウォールで造った囲いなので、ドーム状ではなく、キューブ状になっている。地下から逃げるときに下の面も造って、完全にサイコロ状態である。もう下から潜ってみるのは試したのか、群がっている内の一人が泥だらけだ。

 今は、絶賛水魔法で溶かそうと奮闘中。そうそう、俺はだいぶ魔力を使って造った壁だからおそらく最初に掘削は試したのだろうが当然無理。何故なら滅茶苦茶硬いから。次に試したのは魔法で穴を開ける事だろう。俺が使ったアース・ホールとかだな。あれも無理。何故なら俺の魔力を浸透させてがっちり固めているので、少なくとも俺以上の魔力を使わなければいけない。使用魔力量軽減(特大)をもつ俺が持たずに発動させるアース・ウォールと同じくらい魔力を込めているのだから、相当量必要。


 そして今やっている水魔法での溶解は一番時間は掛かるが理にかなっている。俺の魔力は土と土を繋げて、糊のように固めているので、それを無理やり引き裂いて突破は力業だが、あのように水で溶かすのなら、土を繋げる俺の魔力ではなく、土自体を溶かすのだから。ま、土自体にも薄くコーティングしてるからこそのあの遅さなのだろう。


 「おーい! こっちは終わったぞ! 何してるんだ?」


 おっと、先に和樹が終わったか……仕方ない。和樹には少し待ってもらおう。


 「ちょっと待ってて。今良いところだから……」


 お、貫通したかな? おお、喜んでる喜んでる。あ……丁度後ろに穴が開いた様で、外からは中の様子が見えない。残念、もうちょっと近くにいたら解除も出来るんだが……。今は中の状態を確認して、出てきた所を観察するとしよう。

 あれ? 凄く今さらだが、あいつら、中に入ろうとしてたのって、中のポーション目当てか、俺目当てなんだよな……んで、中に入ってみるとポーションは全滅。しっかり屋台の下に隠されてた箱に入ってる分も回収済みで、さあ犯人はどこへってなると俺はここにいるわけで……これは予想以上の効果が期待出来るな……煽りって素晴らしい! ……冗談だが。


 まあ、俺の作戦の第二段階は概ね大成功だな……ふふふっ。


 「どうしたんだよレト、そんなににやけて……向こうまで行って殲滅は疲れたから断るぞ?」


 「いやいや、そんな事しないさ。それよりも、だ。和樹に聞きたい事が二つ……正確には聞きたい事と教えてもらいたい事がある」


 「ん、なんだ? 鎧の事か? それについては俺も使い方しか知らないし、俺と契約状態にあるからお前には使えんぞ?」


 まぁそれも期待していた部類には入るが、俺としてはもっと実用的な……。


 「威圧の仕方だ。あれは使える……教えてくれないか……?」


 「ああ……あれか……ま、良いだろう」


 俺には『強欲の書』があるので、そっちで調べてもいいが、友好関係を築くにはこう言った繋がりも大事だろう。流石に友達が二人だけってのもあれだからな。和樹が。


 だって、あれだ。もともと我関せずを貫く和樹が唯一話すのが俺を除き、あの無口な姉妹だから、どれだけ無口キャラを強めたいんだって話だ。

 俺に教える事をきっかけに他のクラスメイトとも仲良くして欲しい。親友として。


 「そうだな……俺のは威圧言語と言って、言葉に魔力をのせる感じで……『こんな感じだ』」


 俺は最後の一言を聞いて、蛙が蛇に睨まれた様な感じで背筋が凍った。


 「な、成る程……な、なら声帯に集めて……『どうだ?』」


 「……っ! 良い感じだ。レトはあれか? 天才肌という奴か?」


 いえ、努力の結晶魔力操作です。


 「これなら……よし、ありがとう。感謝するよ和樹!」


 『応用』も利きそうなので、手札が純粋に増えた。これは喜ばしい事だ。


 「で、もう一つの方は?」


 気になったのか聞いて来る。


 「そっちは簡単だ。なあ和樹、これって戦争なんだよな?」


 「ああ。先生も言ってたしな。擬似的なクラス対抗の戦争だ……と」


 「じゃあ、ちょっと俺を手伝ってくれないか? 手始めに、ここにいる生徒全員を運ぶ所から……」



 後に和樹はこう言った。あのときは本気で疑った、と。そして、あのときから、疑い始めた、とも。

 それが何に対してか……その答えは、このときの俺でも一瞬で解っただろうものだが……。


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