異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!
閑話 少女は、囚われていた。
「こっちか?」
「違う、こっち」
何故だろう、何故俺が向いた方向に目的地が無いのだろうか? そして何故俺が指した道と逆の道を進めばこうも簡単にたどり着いたのだろう?
俺とオークションで助けた少女は現在、貴族街の入り口に立っていた。
ここまでの経緯はさておき、貴族街と言っても、数メートルの壁で囲まれていて、その中と外では地面の清潔感から建物の大きさまで、あらゆる箇所が二段階程ランクアップされている位で、入り口にはアーチ状の門があるのだが、商店街の門にしか見えなくて笑えた――祭りとかクリスマスとかのイルミネーションで豪華になっているバージョンのやつ――。
特に屈強な男が警備しているとか、一歩踏み込んだら槍が振って来るとかも無かったので、先に進む。
「……こっち」
「……じゃ、こっち」
俺が指差した方向とは逆を差す。
あまりにも悲しい会話だ。色んな意味で。……進んでいると、休憩所と言わんばかりのベンチの横に木が一本生えているだけの小さな公園があったので、先程の怪我は塞がったが、少し血が足りない気がする俺はふらふらとベンチへ吸い寄せられ、倒れ混むように座り、背もたれに頭を掛ける。
「……?」
俺の足音が急に離れたからか、少女は振り向く。
「……休憩したい」
俺が呟くと、少女は少し躊躇いの様な表情を見せてからこちらに来て、隣に座り込む。
俺が少しの間、目を閉じて瞑想していると、隣から大きな深呼吸の音が聞こえる。胸がはち切れんばかりに吸い込み、震えながら吐き出す……そんな事を二、三回繰り返した後、少し微睡んでいた俺に声を掛けて来た。
「……ごめん……なさい」
「……んであやまる」
自分では別に言葉を発しよう等と思っていなかったからか、勝手に出た声は最初の音を飛ばした。
「……飛んで……来た時、お姉ちゃんと勝手に逃げたから」
「知らん。お前らが勝手に逃げようが、泣こうが、朽ちようが……それはお前らの勝手だ。もし謝るとしたら、俺の背中に出来た軽い火傷に対して謝れ」
少しピリピリする背中を指して俺が言う。
「ごめんなさい。勝手に逃げて捕まった挙げ句、助けてもらってごめんなさい」
「……はぁ。良いか? お前らが勝手にするから俺も勝手にする。これは道理だ。お前らを責めてるんじゃなく道理だ。常識だ。他人は勝手に動くものだ。なのにその勝手を謝られるのはこっちが困る。謝るなら背中の火傷を――」
「分かった、謝らない。……けど、他人だから謝らないのなら……その……謝れる様に……なり、たい」
「だから火傷――」
「……っ! あれ……!」
少女が視界に何かを捉え、息を飲む。つられて目線を追う。そこには一人の男がいたが、すぐに角を曲がって視界から外れる。
「見えたか!?」
俺が問うと、声は震えているが握りこぶしを作りながら答えた。
「あの……男……私とお姉ちゃんを襲った内の一人。」
「っ……追うぞ!」
俺たちはベンチから立ち上がり、すぐに男が曲がった角を曲がる。すると男は次の角を曲がった……いや、一つの屋敷に入って行った。
辺りの家より一回り大きいが、門から続く道には警備員らしき人物は見えない。
「ここか……」
ここが恐らく敵のアジト……ギルドの情報とは少し違う所だが、当事者が言うのだ。何らかの関係はあるに違いない。
「どうするの?」
「どうしような?」
正面の門をくぐり、ドアをノックでもするか? それともここは一旦保留してギルドの情報があった位置に向かうか……。
「……ここに……居る」
「ん?」
俺が扉を睨んでいると、隣で呟く声が聞こえた。
「ここにアインお姉ちゃんがいる……気がする」
「そ――」
「突入する」
有無を言わさず、聞かず、一人先陣を切ってズンズンと進む。
「ひぃっ……や、止めてく――」
「ぐぶぉ」と、断末魔を残し、また一人廊下に人が転がる。
「お姉ちゃんは……どこ!」
「ぎゃっぷ!」
俺は次々と火の玉で人を殴る様に次々とKOさせて歩く少女の後ろをとぼとぼと付いて歩く。
それにしてもおかしい。こんなに立派な屋敷――装飾品からも見てとれる――のに、メイドや執事など、側仕えの類いの服装をした人物が居ない。しかも元から居なかったのか逃げたのか、もうほとんど人影が見えず、あちこちの壁に焦げ焼けた跡と、その近くに倒れる人位しか無い。
いわゆる、もぬけの殻というやつだ。
やはり抜け道とか有ったのかもしれない。何時か忍者物の小説を読んだことがあるが、事前に察知して主を逃がし、当人は屋根裏で反応を見て笑うとか。
「屋根裏か……」
「ん? 何か言った?」
声に出てしまった様だが、八方塞がりなので、提案してみる。
「いや、一瞬屋根う――」
「地下か……」
「おい。ちょっとおかしい何かおかしい何故そうなる」
俺が上を指差したからといってそんな都合のいい事は――。
「あった」
「マジかスゲーな」
床に取っ手があり、それを引くと、地下に続く階段が現れた。
「流石和樹」
これには俺もびっくりなのだが。
「お姉ちゃん……」
「おいっ……はぁ」
俺が少し呆けて上と下と指を見比べていると、あちらも放心状態の様子で引き寄せられるように階段を降りて行く。
壁や階段は石で出来ており、そこから溢れ出すように冷気が出ていて、人が並んでは通れない幅が直に体を冷やす。
降り始めたときは先が見えなかったが、やがてたどり着いた。
そこは地下牢だった。大きな空間にそれぞれの牢屋を囲う石壁はなく、鉄の格子が仕切りの役割をしている。
大きな空間の筈なのに一番奥の壁が見えない程密集しているので狭く感じる。例えるなら壁が全て鏡のミラールームに入ったときの圧迫かんの様な感じだ。
そして、次に来るのは鉄の匂いだった。それは鉄格子の匂いかとも思えたが、明らかに血の匂いであることに気づく。
「お姉ちゃん!」
先にたどり着き、牢の中を見渡していて、その人物を見つけたのか、鋭い叫び声と共に駆け出す。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
「マイ……ン……なの?」
鉄格子ごしにか細い、今にも途切れそうな乾ききった声が聞こえる。
辺りは薄暗く、目を凝らして俺もようやくその姿を確認する。
服は所々破け、手首には枷が嵌められていた。
「お姉ちゃ……! 今助けっ……あ、でも……」
「退いてろ」
ここで魔法を使用すれば姉にも被害が及ぶかもしれない……。そんな表情で、少し躊躇いを見せるマインを手で牽制して、俺は『暴食の鎧』を発動させる。
バリィィバリィィと、二回喰わせる。その反動で治りかけていた腹部に、また、抉る様な傷ができる。
「くっ……」
「お姉ちゃん!」
左右に大きく壊れた鉄格子から入り、今度は手探りでしっかりと手枷の位置を確認して、切りはずす。アインは上から繋がっていたその手枷に体重を預けていた様で、その場に倒れ混む。
「うっ……」
「お姉ちゃん!」
「……よし、まだ大丈夫だ。俺が背負って上に戻るから、先に戻って動き出してる奴が居ないか確かめてくれ」
俺が脈と、呼吸があるのを確かめ、アインの体を背中にまわす。
「わかった」
「お姉ちゃん! 和樹!」
俺が階段を上りきると、マインが近寄ってくる。と、見たことのある人物が数人を連れてやって来る。ギルマスだ。
となると、連れはギルド職員と言ったところか。
「ボヤの通報で来てみればそこの嬢ちゃんが助けを呼んでるから応援に来たんだが……テニーとカイルはその嬢ちゃんの治療、デイはこいつの治療だ……お前ぇさんもよく頑張ったな。今、下に人を送り込んだが、恐らくは……ま、おお手柄ってこったぁ」
「ああ。そう……か……」
流石に、血が無くなりすぎた様だった。俺の意識は暗転した。
「違う、こっち」
何故だろう、何故俺が向いた方向に目的地が無いのだろうか? そして何故俺が指した道と逆の道を進めばこうも簡単にたどり着いたのだろう?
俺とオークションで助けた少女は現在、貴族街の入り口に立っていた。
ここまでの経緯はさておき、貴族街と言っても、数メートルの壁で囲まれていて、その中と外では地面の清潔感から建物の大きさまで、あらゆる箇所が二段階程ランクアップされている位で、入り口にはアーチ状の門があるのだが、商店街の門にしか見えなくて笑えた――祭りとかクリスマスとかのイルミネーションで豪華になっているバージョンのやつ――。
特に屈強な男が警備しているとか、一歩踏み込んだら槍が振って来るとかも無かったので、先に進む。
「……こっち」
「……じゃ、こっち」
俺が指差した方向とは逆を差す。
あまりにも悲しい会話だ。色んな意味で。……進んでいると、休憩所と言わんばかりのベンチの横に木が一本生えているだけの小さな公園があったので、先程の怪我は塞がったが、少し血が足りない気がする俺はふらふらとベンチへ吸い寄せられ、倒れ混むように座り、背もたれに頭を掛ける。
「……?」
俺の足音が急に離れたからか、少女は振り向く。
「……休憩したい」
俺が呟くと、少女は少し躊躇いの様な表情を見せてからこちらに来て、隣に座り込む。
俺が少しの間、目を閉じて瞑想していると、隣から大きな深呼吸の音が聞こえる。胸がはち切れんばかりに吸い込み、震えながら吐き出す……そんな事を二、三回繰り返した後、少し微睡んでいた俺に声を掛けて来た。
「……ごめん……なさい」
「……んであやまる」
自分では別に言葉を発しよう等と思っていなかったからか、勝手に出た声は最初の音を飛ばした。
「……飛んで……来た時、お姉ちゃんと勝手に逃げたから」
「知らん。お前らが勝手に逃げようが、泣こうが、朽ちようが……それはお前らの勝手だ。もし謝るとしたら、俺の背中に出来た軽い火傷に対して謝れ」
少しピリピリする背中を指して俺が言う。
「ごめんなさい。勝手に逃げて捕まった挙げ句、助けてもらってごめんなさい」
「……はぁ。良いか? お前らが勝手にするから俺も勝手にする。これは道理だ。お前らを責めてるんじゃなく道理だ。常識だ。他人は勝手に動くものだ。なのにその勝手を謝られるのはこっちが困る。謝るなら背中の火傷を――」
「分かった、謝らない。……けど、他人だから謝らないのなら……その……謝れる様に……なり、たい」
「だから火傷――」
「……っ! あれ……!」
少女が視界に何かを捉え、息を飲む。つられて目線を追う。そこには一人の男がいたが、すぐに角を曲がって視界から外れる。
「見えたか!?」
俺が問うと、声は震えているが握りこぶしを作りながら答えた。
「あの……男……私とお姉ちゃんを襲った内の一人。」
「っ……追うぞ!」
俺たちはベンチから立ち上がり、すぐに男が曲がった角を曲がる。すると男は次の角を曲がった……いや、一つの屋敷に入って行った。
辺りの家より一回り大きいが、門から続く道には警備員らしき人物は見えない。
「ここか……」
ここが恐らく敵のアジト……ギルドの情報とは少し違う所だが、当事者が言うのだ。何らかの関係はあるに違いない。
「どうするの?」
「どうしような?」
正面の門をくぐり、ドアをノックでもするか? それともここは一旦保留してギルドの情報があった位置に向かうか……。
「……ここに……居る」
「ん?」
俺が扉を睨んでいると、隣で呟く声が聞こえた。
「ここにアインお姉ちゃんがいる……気がする」
「そ――」
「突入する」
有無を言わさず、聞かず、一人先陣を切ってズンズンと進む。
「ひぃっ……や、止めてく――」
「ぐぶぉ」と、断末魔を残し、また一人廊下に人が転がる。
「お姉ちゃんは……どこ!」
「ぎゃっぷ!」
俺は次々と火の玉で人を殴る様に次々とKOさせて歩く少女の後ろをとぼとぼと付いて歩く。
それにしてもおかしい。こんなに立派な屋敷――装飾品からも見てとれる――のに、メイドや執事など、側仕えの類いの服装をした人物が居ない。しかも元から居なかったのか逃げたのか、もうほとんど人影が見えず、あちこちの壁に焦げ焼けた跡と、その近くに倒れる人位しか無い。
いわゆる、もぬけの殻というやつだ。
やはり抜け道とか有ったのかもしれない。何時か忍者物の小説を読んだことがあるが、事前に察知して主を逃がし、当人は屋根裏で反応を見て笑うとか。
「屋根裏か……」
「ん? 何か言った?」
声に出てしまった様だが、八方塞がりなので、提案してみる。
「いや、一瞬屋根う――」
「地下か……」
「おい。ちょっとおかしい何かおかしい何故そうなる」
俺が上を指差したからといってそんな都合のいい事は――。
「あった」
「マジかスゲーな」
床に取っ手があり、それを引くと、地下に続く階段が現れた。
「流石和樹」
これには俺もびっくりなのだが。
「お姉ちゃん……」
「おいっ……はぁ」
俺が少し呆けて上と下と指を見比べていると、あちらも放心状態の様子で引き寄せられるように階段を降りて行く。
壁や階段は石で出来ており、そこから溢れ出すように冷気が出ていて、人が並んでは通れない幅が直に体を冷やす。
降り始めたときは先が見えなかったが、やがてたどり着いた。
そこは地下牢だった。大きな空間にそれぞれの牢屋を囲う石壁はなく、鉄の格子が仕切りの役割をしている。
大きな空間の筈なのに一番奥の壁が見えない程密集しているので狭く感じる。例えるなら壁が全て鏡のミラールームに入ったときの圧迫かんの様な感じだ。
そして、次に来るのは鉄の匂いだった。それは鉄格子の匂いかとも思えたが、明らかに血の匂いであることに気づく。
「お姉ちゃん!」
先にたどり着き、牢の中を見渡していて、その人物を見つけたのか、鋭い叫び声と共に駆け出す。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
「マイ……ン……なの?」
鉄格子ごしにか細い、今にも途切れそうな乾ききった声が聞こえる。
辺りは薄暗く、目を凝らして俺もようやくその姿を確認する。
服は所々破け、手首には枷が嵌められていた。
「お姉ちゃ……! 今助けっ……あ、でも……」
「退いてろ」
ここで魔法を使用すれば姉にも被害が及ぶかもしれない……。そんな表情で、少し躊躇いを見せるマインを手で牽制して、俺は『暴食の鎧』を発動させる。
バリィィバリィィと、二回喰わせる。その反動で治りかけていた腹部に、また、抉る様な傷ができる。
「くっ……」
「お姉ちゃん!」
左右に大きく壊れた鉄格子から入り、今度は手探りでしっかりと手枷の位置を確認して、切りはずす。アインは上から繋がっていたその手枷に体重を預けていた様で、その場に倒れ混む。
「うっ……」
「お姉ちゃん!」
「……よし、まだ大丈夫だ。俺が背負って上に戻るから、先に戻って動き出してる奴が居ないか確かめてくれ」
俺が脈と、呼吸があるのを確かめ、アインの体を背中にまわす。
「わかった」
「お姉ちゃん! 和樹!」
俺が階段を上りきると、マインが近寄ってくる。と、見たことのある人物が数人を連れてやって来る。ギルマスだ。
となると、連れはギルド職員と言ったところか。
「ボヤの通報で来てみればそこの嬢ちゃんが助けを呼んでるから応援に来たんだが……テニーとカイルはその嬢ちゃんの治療、デイはこいつの治療だ……お前ぇさんもよく頑張ったな。今、下に人を送り込んだが、恐らくは……ま、おお手柄ってこったぁ」
「ああ。そう……か……」
流石に、血が無くなりすぎた様だった。俺の意識は暗転した。
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