異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!

八百森 舞人

閑話 学園から放り出されたら、道に迷った。

 今、俺こと和樹はクラスメイトであるレトに火の球をけしかけられ、間一髪、アイテムボックスから『暴食の鎧』を出して、魔法を鎧に食わせる。俺はアイテムボックスに鎧しか入っていないので、出したいものを選ぶという一瞬の工程を省くことが出来るのだが――私物がほとんど無いという理由はさておき――効率化として一瞬速く装備出来るのだ。
 そのお陰……というのも何だが、こうして至近距離からの魔法にも対応できる。それが思わぬ形で証明された訳である。


 とまあ、今のことはさておき、この状況を生み出した原因というか要因というか基因というか真因というか……。


 「何故!? どうしてそうなったんだよ!?」


 と、レトが叫ぶのも俺ではなく左右にくっつく二人の事を言っているのだろうとは予測がつく。






 さて、では少し前から現在に至るまで。丁度一週間。正確に言えば最初の二日を除き五日弱。


 その期間に何があったのか。俺の主観で思い出して見ることにしよう。






















 「よし! 次はお前達だ。和樹、アイン、マイン」


 俺と二人を縛る縄を引っ張られ、抵抗する間もなく、レト達と同じく窓から放り出される。なんとなく想像していたが、一メートルも落下しない内に魔方陣が展開される。そして魔方陣に睡眠魔法的な仕込みがあったのか眠くなり、すぐに意識が暗転した。
















 「いい……しら……イン」


 「いいと……もう……イン」


 ふと背中に熱を感じ意識が浮上する。熱い。


 ……まだ少しまどろむ中、熱いが痛いに変わった瞬間に意識は覚醒し、瞬時に『暴食の鎧』を発動させる。
 まだ手足や顔の感覚が無いが、鎧が反応し、何かを食う感覚が伝わって来る。魔法に関しては何もせずに食ってくれる鎧が反応するということは魔法的な攻撃をされていると等しい。しばらくして反応しなくなったので、目を開き、視界を確保するために鎧は一度収納し、目を開ける。


 目を開けると飛行……否、落下していた。そんなことはどうでもいい。


 のだ。縛っていた縄は消え、俺だけで落下していた。
 俺は服の裾……縄で縛られていた部分を鼻に押し当てると、少し焦げた匂いがする。確実にあの姉妹が使った魔法の影響だろう。
 落ちているのでなのに焦げた匂いとは、焼けてすぐに俺が目覚めたのか、持続するような火の魔法を使ったのか。


 




 ……何にせよ、俺が不時着した場所が深さのある泉で良かった。


 俺は息を切らしつつ水辺に倒れ混む。泉の底から浮上し、ここまで泳いで来るのに体力をほとんど使ってしまった。少し休もう……。


 そう思い、目を閉じ、横になる。しかし先程まで深い眠りの中にあった俺の意識は睡眠を拒んだ。


 起き上がろうとすると、腹の回りが痛い。服を捲って見るとどうやら火傷のようだった。あの姉妹……次あったらどうしてくれようか……。


 俺は溜め息を一つつき、回復魔法を詠唱省略で発動させる。詠唱など覚えていないからだ。


 「ファイアー・ヒール」


 俺が使ったのは火属性の回復魔法。回復魔法には種類があり、それぞれの属性の傷はそれぞれの属性で治せるという感じだ。分かりやすく言えば、火傷は火属性の『ファイアー・ヒール』、毒は水属性の『ウォーター・ヒール』、出血は風属性の『エア・ヒール』、全般を治せる『ライト・ヒール』等だ。ちなみに土と闇は高度の治癒魔法に使われるらしい。
 ま、俺には火と光属性しか適性が無いし、軽度の火傷やかすり傷を治すのに十秒以上かかる。例として出した負傷も初歩的なものとして最初に聞いただけのものなので他にも治せるのであろう。


 数十秒かかり、肋骨の少し下辺りに出来た火傷を治し、今度こそ起き上がる。
 辺りを見回すと、そこは泉ではなく、少し大きめの滝壺のようなところだった。滝と言っても二、三メートル程からチョロチョロと水が垂れている程度の物だ。他に何か無いかと見渡せば、遠くに街のようなものが見えたので、回れ右してそちらに歩き出す事にした。


 落ちてきた方向から考えても多分軌道上にあろう街だ。二人を見つけるにしろ拠点を確保するにしろ、立ち寄って損は無いだろう。










 数十分は歩いだろう。


 街がはっきりと見えてきた。街の回りは壁で囲われているようで、回り込むと門のようなところへたどり着く。門には十数人の人、二台の馬車が並んでいた。おそらく検問だろう。そう思って列に加わろうとしたとき、ふと検問官の声が聞こえて来る。


 「通行料、銅貨三枚」


 しまった……金、持ってないわ。ポケットを探るも燃えて灰になった紙切れのような物しか出て来ない――ん? この紙……ああ、そうか。何かが書かれている紙か……燃えたんだが……。


 どうしようかと考え込んでいた間、体は自動運転で列に並び、順番を待っていた……。


 「名前は?」


 「ん?」


 俺はふと声を掛けられて自分が検問の列に並んでいた事に気づいた。しかし、金がない。が、ここで無視するのも何かと面倒そうだ。正直に話す事にしよう。


 「チッ……んじゃねぇよガキが、名前はっつってんだろうが」


 この検問官……態度が悪いな。


 「福田和樹」


 「チッ……通行料……」


 俺が持ち合わせていないことを告げようと口を開きかける。


 「


 「は?」


 「はじゃねぇよ、とっとと出せよ」


 「いや、先程から耳に入っていた通行料は一律に銅貨三枚だったが?」


 俺が抗議すると、これまでの呆けたような顔をイライラした言動が爆発……と言うのだろうか? ダムが決壊したかのようにみるみる顔が真っ赤に染まる。
 が、ハッと何かを思い出したのか、イラつきを抑えるようにイライラした声で再度問いかけてくる。


 「……銅貨……三枚」


 ふむ。流石大人? な感じだ。しかし、手持ちは出てくる筈もなく、無いわけだ。
 ここはやはり正直に言うのが一番だろう。後ろの行列には少し申し訳無いが、もう少し話を続けよう。


 「すまない、持ち合わせていない」


 「……こんの野郎っ!」


 と、それはもう顔から火が……というより血が出そうな勢いで赤くなり、拳を振り上げ、殴りかかって来る。
 俺は即座に鎧を出し、魔力を通し、食える様にする。魔力は自動で食うが物体は俺から魔力を食わせないといけないのだ。


 そして俺の鎧に検問官の拳が触れるか触れないか、その時。検問官の脇腹から一本の脚が生えて……もとい、背後から脚が伸びて来るとそのまま検問官の脇腹を捉え、華麗に打ち抜いた。完璧な回し蹴りだ。


 俺が何が起こったのか理解する前にその人物から声を掛けられる。


 「はぁ。また書類が増える……。ごめん、一応聞くけど君だよね、うちの部下に絡まれたのは?」


 「ああ。俺だ」


 俺は鎧を解除して直接向き合う。


 「ごめんね、なんか。出来れば事後処理の協力をしてもらえればと、思うんだけど、いい?」


 「あ、ああ」


 何故か少し慣れた様子で小屋まで案内され、お茶を出され、色々聞かれ、謝られ、気づけば慰謝料をもらっていた。


 「そうだ、まだ自己紹介してなかったね、僕はグラフィル」


 「福田和樹だ」


 「珍しい名前だね。えと……それで、見たところ冒険者だったり旅人だったりには見えないんだけど……この街には何を?」


 「あー……王都の魔法学園は知っているか?」


 学園の名前が出てこなくて少し焦ったが、その心配はいらなかったようだ。


 「ああ。知ってるよ、ヘヴィールだっけ?」


 「多分それだ。……で、俺はそこの生徒何だが授業の一環でここまで飛ばされてな。あと二人いるんだがそいつらともはぐれて探したいのもあるんだが、とりあえず王都まで戻りたいんだ」


 俺は出されたお茶を飲みつつ説明する。聞き上手の雰囲気を纏うグラフィルに事の成り行きを説明する。


 「なるほどね……なんとなく分かったよ。ただ、歩きじゃ半月以上掛かるし……うん、馬車を使えば速いかな? もう二人のこともあるだろうしギルドへ向かう事を進めるよ。良かったら紹介状も書くし……ちょっと待ってて」


 といってグラフィルは立ち上がり、書類棚から紙を一枚取りだし、書き始める……書き終わるとそれを封筒に入れて、俺に手渡してくる。


 「はい。これギルドに持っていけば融通してくれる筈だ。ギルドはここを出て大きな通りを街の中心に歩けばすぐに着くと思うよ」


 「ああ。ありがとう」


 俺はそれを受け取り、礼を言って外へ出る。そして言われた通りに大通りを街の中心に向かって歩き始める。


 数分後……俺は路地裏で道に迷っていた。




 「何故、何故……たどり着けない!?」


 確かに一瞬路地裏から怒鳴り声がして覗きに行ったが、それだけだろう。すぐに振り替えってもと来た道を戻ったと思うのに……。


 ここはどこだ?


 

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