異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!

八百森 舞人

サバイバル学習、ニュークス編! 三日目 昼

 「明日……いや、もう今日か」


 俺は既に影も形も無くなったニュークスがいた場所を見つめ、ポツリと呟く。
 既にニュークスは薙ぎ倒された木々をはっきりと目視出来る距離まで近づいている。と、言っても強化した目での話だが、今のペースだと明日には俺が作った拠点が踏み潰されるだろう。


 昨日は輪郭しか見えず、巨体である事しか分からなかったが、明け方――つい先程、空が白んで来た時、その全貌を見ることができた。


 その脚、体はまるで象のような形でずっしりとした重量感を感じさせる皮膚を持っている。全体を見て象のようと思ったのだが、違う所があるとすればそれは顔だ。正面を向いていたその顔には長い鼻は無かった。そこにあったのはまるで塗装前の様に真っ白な仮面だ。恐らく目が有るのであろう場所は窪みができているが、それ以外の部分は傷ひとつない、最早神秘的さを感じ取れる曲線だった。その横の隙間からは白い牙が左右に一つづつつき出しているが、仮面と並んでいるからか、少しくすんだ色をしていた。


 「ふぁぁあ……いててて」


 俺は大きく欠伸すると共に伸びをして体をほぐす。ずっと同じ体勢で監視していたため、夜風に当たっていた身体中がバキバキと悲鳴を上げる。朝日が俺の顔に当たり、本来なら目が覚めるのだが今は徹夜した事もあり、睡魔が明るさに乗ってやって来る。
 俺はその朝日から逃げる様に小屋の屋根から飛び降り、ドアを開け中に入る。


 「っ!? ……なんだレト君か。どこに行ってたの?」


 俺は出来るだけ音を立てない様に開けたつもりだったが、ロイルを起こしてしまったらしい。咄嗟に身を起こして一瞬警戒の色を見せたが、俺だとわかると「はぁ」と息を吐く。


 「悪いな起こして、アリスは……寝てるか」


 俺は念のためにとロイルに外へ来るように言う。


 「決行は今夜、俺はニュークスを討伐しに行く。予定通りアリスは置いて行くが、ロイルも残って欲しい」


 「え、なんで? 確かに僕は戦力にならないかも知れないけど回復役は必要でしょ?」


 「ああ。確かにロイルという回復役がいなくなるのは厳しいかもしれないが、ニュークスが近づいて来ている事で何が起こるか分からないし戦闘中に新手が出現する可能性だってある。念のため小屋の中で待機してくれると助かる」


 俺はその方が安心出来ると言う。これも理由の一つではあるが一番大きい理由として戦いに巻き込む可能性だ。ロイルに気を取られて集中できないのは困る。
 これに対しロイルは「心配だけど……」と、承諾してくれた。


 「まあ俺にはがあるからそんなに心配しなくても大丈夫だ」


 と、俺はアイテムボックスから小瓶を数本取り出す。中に入っている液体は赤色と黄色、あと緑色もある。


 「それ……もしかして昨日の?」


 「ああ。俺特製のポーションだ。色とか味とか見た目とかいろいろ違うが効果は保証出来る」


 昨日の午前中に作った薬は殆どが回復系の薬草を使っている。市販のポーション等は味とかを除けば基本的に水と同じような物だが俺のは少しドロッとしているし、不味い。製法上仕方ないのだが母さんから教えて貰ったエルフ流の製薬方法の方が効果は高い。


 「んっ……レト君? ぉはよ……」


 「おはよう、アリス」


 「おはよう、アリスちゃん」


 俺はポーションをアイテムボックスに再び戻し、外に出ようとする。が、目眩がして壁に手をつく。


 「だ、大丈夫!?」


 「ああ、ちょっとした寝不足だ。すまないが朝食は作れそう……に……」


 手足に力が入らなくなり、俺は倒れ混む。次第に意識が遠退き、ロイルが駆け寄って来るのが見えたと同時に俺は意識を手放した。
















 俺はまた薄暗い空間で影と対峙していた。
 何度目だろうか? 覚えている限りでは三度目だが。


 ――お目覚めか。


 お前か……今は休んでおきたいんだ。放っておいてくれ。


 ――お前呼ばわりした上、構うなと言う主はあの黄色い髪の小娘より強情なのじゃないのか?


 うるさい。俺は休んでいたいんだ。


 ――そうか。なら……ふむ、私はどうするべきだ?


 知るか! 好きにしろよ!


 ――しかし、『好きに』と言われても私は何をすれば良いのか解らぬぞ?


 じゃあ、前言ってた占い師について教えろ。


 ――了解した。しかし今の情報を解答したところでその占い師は転々と移動しているため、主にとってあまり意義のある話にはならぬだろうがそれでも良いか?


 じゃあいい。どうせ聞いても聞かなくても会いに行く事は決定してるんだ。それこそ意義が有るかは直接会って占ってもらう。


 ――そうか。なら代わりに駄弁ろうではないか。


 会話してるように見えて誘導されてないか? 俺。


 ――まあ『好きに』と言ったのは主なのだから良いではないか。さて何を題とするか……では、魔法が発展した末、どうなるのか? と、いうのはどうだろう。


 壮大だな。そういうのが好きなのか?


 ――好き嫌いは無いが既に起こった事への謂わば感想より未だ起こらぬ事への予測の方が会話の種として尽きぬであろう?


 そう……だな。なんか哲学的だな。


 ――うむ。やはり主もそう思うだろう? どこぞの犬が飼い主を噛んだ……とか、今年は雨が多く降って作物がよく育った……とか、主の友の和樹が離れ離れになって死にかけてた姉妹を救った……とか、そんな起こった事よりこれからの可能性について駄弁ろうではないか。


 うん。俺としては猛烈に和樹の事を聞きたいんだが駄目だろうか?


 ――駄目だ。今は私と魔法の行く先について……はぁ、全く。運が無いのは主か私か。


 ん? なんだ?


 ――もう夜、主お待ちかねの相手が来たぞ。


 ……分かった。ありがとう。








 俺は深い眠りから目覚め、静かに小屋の外へ出た。





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