異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!
サバイバル学習、ニュークス編! 一夜目
「……っ!?」
ドスン……ドスンと一定のリズムで足音のような音が響く。
俺はまだ木の湿っぽさが残る床から顔を上げる。
この小屋に張り巡らされた俺の魔力が結界の様な役割を果たし、外の音を聞くことが出来る。中まではこの地響きは聞こえていない様で、アリスとロイルはすぅすぅと寝息をついている。
「なんだ?」
俺は音に集中するあまり、声を漏らす。起こしていないか振り向くが、起きてはいない様子だ。
俺はドアを開け、外に出る。少しだけ強化した脚で跳躍し、小屋の屋根に飛び乗る。少しだけ辺りの木より低い屋根なので確認はできないだろうが、念のためだ。
音の方向を向くと、果てしなく続く森の先に大きな山の様な影が見えた。ここからでも視認出来るって事は相当大きい筈だ。
ズシン、ズシンと少しづつ大きくなる音を聞けばこちらに近づいて来ているのが分かる。
明け方なのだろうか、少し空が白んで来た。その黒い影は白んで来た空を後ろに進んで来る。……しかし、よく目を凝らすと、白い空の色に塗りつぶされるが如く、影が薄くなり、遂には完全に視認できなくなり、地響きも消えた。
それは日の出と同時だった。
「……なんだったんだあれは……『強欲の書』」
――――――――――
ベビー・ニュークス――
ナイト・ロードの異名をもつ超大型の魔物。
夜にしか現れない特性を持ち、昼は姿を消す。その体長は山を彷彿とさせるが年齢と共に小さくなる。世界に散らばる魔樹に実がつく頃に現れ、その実を栄養源としている。そして悪魔(魔族)が召喚し自分の魔力で使役していると言われている。完全に成長を終えると二、三メートル程になり悪魔へと進化を遂げる。
その素材は加工すれば特殊な効果を発揮するが、夜のうちに討伐、回収、加工を行わなければ消滅し、その素材は二度と回収する事は出来ないが『アイテムボックス』でのみ保管出来る。しかし、特殊な性質上、昼は収納するのに倍の魔力が必要。
――――――――――
「魔樹ってこの大樹の事なんだろうな……でも拠点もあるしこの近くは食料も豊富だから離れたくはない。俺に出来るのか? アイツの討伐は……?」
あの後も寝付けなかった俺は、明け方と言うこともあり、散策ついでに植物の採集を行っていた。植物に関しては殆どを母さんに教えて貰ったが、当然家の周りに無い種類の方が多い訳で、俺のコレクションとして集めているのである。
採集中には毒や眠りの効果があるものもあったがそれらも集め、食用の葉物や野菜、木の実を主にサラダを作り、長芋を擦って焼いてステーキを作る。芳ばしい匂いが辺りに広がる。その匂いに釣られたのか、小屋からロイルが出てくる。
「良い匂い……おはよう、レト君。匂いの元はこの美味しそうな朝食だね……アリスちゃんを起こして来ようか?」
「いや、いい。それより……ロイル、話があるんだ」
「何? 話って」
俺は再び小屋に戻ろうとしたロイルを止め、土魔法で作った石のテーブルセットに向かい合って座る。
「昨日の事だ。昨日は寝れたか?」
「うん、快適だったよ。ありがとう」
「そうか……」
昨日は俺でも寝ていたら分からない程の揺れだった。音は耳を最大強化していた俺でなければ外に出ていても聞こえなかっただろう。
しかし、それはあくまでも昨日の時点での話だ。こちらに向かっていると言うことは段々と地響きや木々が薙ぎ倒されていく音が聞こえる様になる。アリスはともかくロイルには伝えておかなければいけないだろう。
「俺は昨日、こちらに向かって来ている魔物を確認した」
「魔物っ!? 討伐は……?」
ロイルは驚いて立ち上がり、俺に討伐出来たのか質問してくる。
「いや、討伐はまだ出来ていない……落ち着け」
「お、落ち着けるわけ無いでしょ! 討伐出来てないなら今も向かって来てるんじゃ……」
「大丈夫だ。相手は単体、今は向かって来てない筈だ」
アリスにも伝えなくちゃ――と、小屋に入ろうと戻るロイルの腕を掴み、引き留める。
すると、俺に止められ少し落ち着いたのか、こちらを向く。
「何で止めるの?」
「アリスは駄目だ」
「何で? 同じチームだからみんなでこの情報を共有しないと……」
その目は少し俺にピントがあっていないように思えた。
俺は教師ではない。一個人の教えは大勢の教えから見れば間違っている様に見えるだろう。しかし、それでも少し、少しだけロイルはズレている気がした。
掴んでいる腕を放し、胸元を掴む。何故か知らないが今のロイルには俺の言葉が聞こえていない。
「おい。ロイル……学園に入るまでは騎士見習いとして訓練してたって言ってたよな?」
初日に棟内を見て回っていた時にそんな事を言っていた気がする。
「そ、それがなんだって言うんだ?」
ロイルはいきなり俺に胸ぐらを掴まれ、目を丸くするが、すぐに言い返して来る。
騎士とは仲間との連携が何より遵守される物だと俺は教えて貰った。
「一つだけお前の認識に誤りがあるとすれば、アリスは騎士じゃ無い事だ」
俺がそう言うとロイルは俯き、ボソッと口を開く。
「……違う」
「何がだ?」
「みんな騎士なんだ……人は全員。例え騎士じゃなくても……人は常に人を守るために行動しないといけないんだっ!」
教科書の言葉だろうか……まるで聖人の様な言葉だ。騎士として尊敬出来る言葉だ。ただ真っ直ぐに俺を向いて言うその目には迷いは無かった。
「そうか。じゃあ俺から質問させてくれ。何故アリスに言わなければいけないんだ?」
「仲間だからだよ」
そう、キッパリと言う。が、その返事に違和感を覚え、更に質問する。
「守るためじゃ無いのか?」
「仲間だから守るんだよ!」
「何故、アリスに教える事が守る事になる?」
「知らなかったら咄嗟に自分を守れないからだよ」
「知ることが殺す事と同義でもか?」
「な、何でそんな事を言えるんだよ!?」
質疑応答を繰り返す内に俺が言った事にロイルは動揺した。
「なぁロイル……話を聞けよ。何故アリスに教えてはいけないのか、俺には理由がある」
「り、理由って……」
良かった。多少強引だったが、話を聞いてくれそうになった。俺は手を放し、深呼吸する。それを見て、ロイルも深呼吸する。
「そうだな……レミルとドラヴィスの試合、覚えてるか?」
俺は見ていなかったが、ロイルは見ていた筈だ。
「……うん。確か二人とも風魔法を使っていたけど、ドラヴィス君が勝ったんだよね?」
「そうだ。二人の属性は風、それともうひとつ……火と水だ。だがあの試合では使わなかった。何故か分かるか?」
魔法使いの中では常識なのだが、ロイルは知らない様で首を横に振る。
「それは……相殺が起こるからだ」
「それ位なら分かるよ! 剣とかで言うつばぜり合いでしょ?」
どうやらそれ以前の問題らしい……。
「違う。いや、意味は同じ様な物だが、解釈が違う。魔法使い同士が戦うとき、相殺は最も忌避される。それは何故か……無駄だからだ。仮に騎士のつばぜり合いが起こったとしよう、それは次の一手に動く為の布石になる。でも相殺が起こった時、状況は変わらない。一から二に進むのではなく、一のまま、現状維持だ。だから魔法使い同士の戦いは動かず、ただ集中し、相手より少しだけ強い魔法を交互に打ち合うのが定石だ」
まだあまり分かっていない様なので更に続ける。
「これは俺の言葉じゃ無いが、的を射ているのがひとつある。「剣士は体力さえあれば死ぬまで剣を振れる。だが魔法使いはMPが無くなればそれはHPが無くなったも同然だ」……MPが無くなれば戦いは終わるって感じだ。だから相殺という無駄な行為は命を削る事そのものなんだ。って事で本題だ」
やっと分かってくれた様なので本題に入る。
「ここに近づいて来るであろう相手、それはニュークスという魔物だ」
「ニュークス? 何それ?」
ええ……知らないのか……。
「騎士団長の息子なら魔物の情報とかも色々知ってる気がしてたんだけど……」
「ごめん。……うーん確かにお父さんから色々話は聞くけどニュークスっていう魔物の話は聞いたことがないよ」
「そうか……端的にいえば悪魔の使いって感じだ」
まだ姿は影しか見たこと無いけど……。
「悪魔……まさかっ!」
「そのまさかだ。悪魔と精霊は相殺対象だ。少なくてもアリスが戦闘に参加すれば、為す術もなく殺られるだろう」
もしくは光があれば闇が薄くなる様に居るだけでダメージを受けてしまうかも知れない。相手にとっても同じことだが、リスクが高すぎる。もし伝えて、小屋で待っていてもらうと約束しても、心配で追いかけてくるかも知れない。
「レト君……その……ごめん。考えなしに動こうとしちゃって」
「いや、分かってくれたら良いよ。俺も無理に引き留めてごめん。じゃあ起こしに行ってくれるか?」
ロイルは分かったと言い、小屋に向かった。
和樹、キューテ、ロイル……魔法学園のSクラスなのに無頓着すぎやしないだろうか?
ドスン……ドスンと一定のリズムで足音のような音が響く。
俺はまだ木の湿っぽさが残る床から顔を上げる。
この小屋に張り巡らされた俺の魔力が結界の様な役割を果たし、外の音を聞くことが出来る。中まではこの地響きは聞こえていない様で、アリスとロイルはすぅすぅと寝息をついている。
「なんだ?」
俺は音に集中するあまり、声を漏らす。起こしていないか振り向くが、起きてはいない様子だ。
俺はドアを開け、外に出る。少しだけ強化した脚で跳躍し、小屋の屋根に飛び乗る。少しだけ辺りの木より低い屋根なので確認はできないだろうが、念のためだ。
音の方向を向くと、果てしなく続く森の先に大きな山の様な影が見えた。ここからでも視認出来るって事は相当大きい筈だ。
ズシン、ズシンと少しづつ大きくなる音を聞けばこちらに近づいて来ているのが分かる。
明け方なのだろうか、少し空が白んで来た。その黒い影は白んで来た空を後ろに進んで来る。……しかし、よく目を凝らすと、白い空の色に塗りつぶされるが如く、影が薄くなり、遂には完全に視認できなくなり、地響きも消えた。
それは日の出と同時だった。
「……なんだったんだあれは……『強欲の書』」
――――――――――
ベビー・ニュークス――
ナイト・ロードの異名をもつ超大型の魔物。
夜にしか現れない特性を持ち、昼は姿を消す。その体長は山を彷彿とさせるが年齢と共に小さくなる。世界に散らばる魔樹に実がつく頃に現れ、その実を栄養源としている。そして悪魔(魔族)が召喚し自分の魔力で使役していると言われている。完全に成長を終えると二、三メートル程になり悪魔へと進化を遂げる。
その素材は加工すれば特殊な効果を発揮するが、夜のうちに討伐、回収、加工を行わなければ消滅し、その素材は二度と回収する事は出来ないが『アイテムボックス』でのみ保管出来る。しかし、特殊な性質上、昼は収納するのに倍の魔力が必要。
――――――――――
「魔樹ってこの大樹の事なんだろうな……でも拠点もあるしこの近くは食料も豊富だから離れたくはない。俺に出来るのか? アイツの討伐は……?」
あの後も寝付けなかった俺は、明け方と言うこともあり、散策ついでに植物の採集を行っていた。植物に関しては殆どを母さんに教えて貰ったが、当然家の周りに無い種類の方が多い訳で、俺のコレクションとして集めているのである。
採集中には毒や眠りの効果があるものもあったがそれらも集め、食用の葉物や野菜、木の実を主にサラダを作り、長芋を擦って焼いてステーキを作る。芳ばしい匂いが辺りに広がる。その匂いに釣られたのか、小屋からロイルが出てくる。
「良い匂い……おはよう、レト君。匂いの元はこの美味しそうな朝食だね……アリスちゃんを起こして来ようか?」
「いや、いい。それより……ロイル、話があるんだ」
「何? 話って」
俺は再び小屋に戻ろうとしたロイルを止め、土魔法で作った石のテーブルセットに向かい合って座る。
「昨日の事だ。昨日は寝れたか?」
「うん、快適だったよ。ありがとう」
「そうか……」
昨日は俺でも寝ていたら分からない程の揺れだった。音は耳を最大強化していた俺でなければ外に出ていても聞こえなかっただろう。
しかし、それはあくまでも昨日の時点での話だ。こちらに向かっていると言うことは段々と地響きや木々が薙ぎ倒されていく音が聞こえる様になる。アリスはともかくロイルには伝えておかなければいけないだろう。
「俺は昨日、こちらに向かって来ている魔物を確認した」
「魔物っ!? 討伐は……?」
ロイルは驚いて立ち上がり、俺に討伐出来たのか質問してくる。
「いや、討伐はまだ出来ていない……落ち着け」
「お、落ち着けるわけ無いでしょ! 討伐出来てないなら今も向かって来てるんじゃ……」
「大丈夫だ。相手は単体、今は向かって来てない筈だ」
アリスにも伝えなくちゃ――と、小屋に入ろうと戻るロイルの腕を掴み、引き留める。
すると、俺に止められ少し落ち着いたのか、こちらを向く。
「何で止めるの?」
「アリスは駄目だ」
「何で? 同じチームだからみんなでこの情報を共有しないと……」
その目は少し俺にピントがあっていないように思えた。
俺は教師ではない。一個人の教えは大勢の教えから見れば間違っている様に見えるだろう。しかし、それでも少し、少しだけロイルはズレている気がした。
掴んでいる腕を放し、胸元を掴む。何故か知らないが今のロイルには俺の言葉が聞こえていない。
「おい。ロイル……学園に入るまでは騎士見習いとして訓練してたって言ってたよな?」
初日に棟内を見て回っていた時にそんな事を言っていた気がする。
「そ、それがなんだって言うんだ?」
ロイルはいきなり俺に胸ぐらを掴まれ、目を丸くするが、すぐに言い返して来る。
騎士とは仲間との連携が何より遵守される物だと俺は教えて貰った。
「一つだけお前の認識に誤りがあるとすれば、アリスは騎士じゃ無い事だ」
俺がそう言うとロイルは俯き、ボソッと口を開く。
「……違う」
「何がだ?」
「みんな騎士なんだ……人は全員。例え騎士じゃなくても……人は常に人を守るために行動しないといけないんだっ!」
教科書の言葉だろうか……まるで聖人の様な言葉だ。騎士として尊敬出来る言葉だ。ただ真っ直ぐに俺を向いて言うその目には迷いは無かった。
「そうか。じゃあ俺から質問させてくれ。何故アリスに言わなければいけないんだ?」
「仲間だからだよ」
そう、キッパリと言う。が、その返事に違和感を覚え、更に質問する。
「守るためじゃ無いのか?」
「仲間だから守るんだよ!」
「何故、アリスに教える事が守る事になる?」
「知らなかったら咄嗟に自分を守れないからだよ」
「知ることが殺す事と同義でもか?」
「な、何でそんな事を言えるんだよ!?」
質疑応答を繰り返す内に俺が言った事にロイルは動揺した。
「なぁロイル……話を聞けよ。何故アリスに教えてはいけないのか、俺には理由がある」
「り、理由って……」
良かった。多少強引だったが、話を聞いてくれそうになった。俺は手を放し、深呼吸する。それを見て、ロイルも深呼吸する。
「そうだな……レミルとドラヴィスの試合、覚えてるか?」
俺は見ていなかったが、ロイルは見ていた筈だ。
「……うん。確か二人とも風魔法を使っていたけど、ドラヴィス君が勝ったんだよね?」
「そうだ。二人の属性は風、それともうひとつ……火と水だ。だがあの試合では使わなかった。何故か分かるか?」
魔法使いの中では常識なのだが、ロイルは知らない様で首を横に振る。
「それは……相殺が起こるからだ」
「それ位なら分かるよ! 剣とかで言うつばぜり合いでしょ?」
どうやらそれ以前の問題らしい……。
「違う。いや、意味は同じ様な物だが、解釈が違う。魔法使い同士が戦うとき、相殺は最も忌避される。それは何故か……無駄だからだ。仮に騎士のつばぜり合いが起こったとしよう、それは次の一手に動く為の布石になる。でも相殺が起こった時、状況は変わらない。一から二に進むのではなく、一のまま、現状維持だ。だから魔法使い同士の戦いは動かず、ただ集中し、相手より少しだけ強い魔法を交互に打ち合うのが定石だ」
まだあまり分かっていない様なので更に続ける。
「これは俺の言葉じゃ無いが、的を射ているのがひとつある。「剣士は体力さえあれば死ぬまで剣を振れる。だが魔法使いはMPが無くなればそれはHPが無くなったも同然だ」……MPが無くなれば戦いは終わるって感じだ。だから相殺という無駄な行為は命を削る事そのものなんだ。って事で本題だ」
やっと分かってくれた様なので本題に入る。
「ここに近づいて来るであろう相手、それはニュークスという魔物だ」
「ニュークス? 何それ?」
ええ……知らないのか……。
「騎士団長の息子なら魔物の情報とかも色々知ってる気がしてたんだけど……」
「ごめん。……うーん確かにお父さんから色々話は聞くけどニュークスっていう魔物の話は聞いたことがないよ」
「そうか……端的にいえば悪魔の使いって感じだ」
まだ姿は影しか見たこと無いけど……。
「悪魔……まさかっ!」
「そのまさかだ。悪魔と精霊は相殺対象だ。少なくてもアリスが戦闘に参加すれば、為す術もなく殺られるだろう」
もしくは光があれば闇が薄くなる様に居るだけでダメージを受けてしまうかも知れない。相手にとっても同じことだが、リスクが高すぎる。もし伝えて、小屋で待っていてもらうと約束しても、心配で追いかけてくるかも知れない。
「レト君……その……ごめん。考えなしに動こうとしちゃって」
「いや、分かってくれたら良いよ。俺も無理に引き留めてごめん。じゃあ起こしに行ってくれるか?」
ロイルは分かったと言い、小屋に向かった。
和樹、キューテ、ロイル……魔法学園のSクラスなのに無頓着すぎやしないだろうか?
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