異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!

八百森 舞人

サバイバル学習、発射編!

 「なぁなぁー」


 昨日の試合の後、本気だすってなんだよ! と、一晩中悶えていて寝不足な俺は現在、教室で勉強中である。魔術学園と言っても、基本放任主義なこのクラスでは授業などあるはずもなく、今は新魔法についての研究をしているのである。


 「おーい! 聞いているのかー?」


 珍しくこの教室にクラスメイトが全員揃っているこの状況。何故俺が一人で魔法の研究をしているのか疑問に思う人も少なからずいるだろう。


 「おーい! 生きているかー?」


 どこから取り出したのか、本を開いて微動だにせず読書している和樹や、変なポーズで瞑想の様な事をしているドラヴィスは除いて、アリスやロイルとの会話や、俺が教師となって基本属性の簡単な魔法位は教えられるだろう。しかし――。


 「た、大変だ! 誰か! レト君が死んで――」


 「死んでないから! 生きてるから! 勝手に殺さないでくれますか!?」


 何をするにしてもキューテが邪魔なのである。話しているとずっと続くし、トイレに行こうとしても付いてくるし、黙ったら死んだことにされるし。


 「……つぷはははは」


 「おいロイル。笑っていられる余裕があるなら引き剥がすの手伝ってくれよ」


 と、俺は堪えきれなくなり吹き出したロイルを傍目にキューテと机ごしに格闘する。


 「ごめんごめん。なんか息ピッタリだったから……ぷはは」


 「はぁ」


 俺は溜め息を一つ吐いて立ち上がり、自分の部屋へと歩を進める。


 しかし、二歩進んだところで、教室に入ってきた先生の「アルトレアは席に座れ」との一声で回れ右して座り直す。
 キューテめ、危機を察知したのかちゃっかり自分の席に着いている。


 「よし、今日は珍しく揃っているな。……ということで今から皆には三人一組でどこかへ行ってもらい、何かをしてもらう」


 曖昧過ぎません? 


 「あの、質問いいですか?」


 和樹が本を畳み、手を挙げる。


 「うむ。私が回答出来るかは分からないが、いいだろう」


 「どこかへ、というのは分かったのですが、何かというのはどうやって知るのですか?」


 「予めこちらで課題を用意している。まずは三人に分かれろ。課題はそれから配る」




 色々話し合った結果、俺・ロイル・アリス、和樹・アイン・マイン、ドラヴィス・レミル・キューテという組み合わせになった。


 「よし、ではこれを」


 と、各チームにきっちりと折り畳まれた紙が配られる。
 俺が開こうとすると、先生が「着いてから見ろ」と言いつつ何故か俺をアリス、ロイルと縄で巻き、身動きが取れなくなる。まるで人質の如く束ねられた俺達は先生に引きずられ、二階にあるこの教室の窓から放り出される。


 「……え?」
 「……ひゃ!」
 「……ひっ!」


 困惑と驚きの余り、意図せず息を吸ってしまう。


 「着くまで寝てろ」


 先生がそう言ったのが聞こえた。そのまま落下して行き、地面に叩きつけられるかと思ったが、その前に縄が魔方陣に変わる。が、固定されたままの俺達は動けず、先生が掛けたであろう睡眠魔法で瞼が重くなり、力が抜けていく。


 「あ、そうだ、着いたら――」


 と、先生が何か言おうとしていたが、既に眠気に抗えなくなっていて聞こえない。
 俺はそのまま眠りに耽る。あれ? 今日ってこんなに風、強かったかな? と、同時に大砲からドカンと打ち上げられたと、浅い眠りの中で思ったことは覚えている。


 












 俺はまた、夢……だろうか、薄暗い空間で黒い靄と対峙していた。


 ――今回はどうやら起きているらしいな。


 お前は……?


 ――前回の時からさほど時間は経っていないように思うが、忘れたか?


 いや、覚えている……と思う。


 ――そうか。?


 知りたい? 俺は何か知りたいと思ったか?


 ――いや、知りたいとは思わなかったみたいだな。しかし私に疑問を……質問をしたな。


 ここはどこだ?


 ――ここは今居る場所であり、何処かの事……いや、前回も同じ様に答えたな。そうだな……仮にここはお前の心の中と定義することにしよう。


 お前は俺が知りたい事を教えてくれるのか?


 ――ああ。何でも教えよう。


 それなら、俺の両親……レティア・アルトレアとジーク・アルトレアは生きているのかを教えてくれ。


 ――生きている。


 ……っそれなら、二人の居場所を――。


 ――無理だ。


 え……。


 ――何故、と問われても私が答える解答は無理だからとしか伝えられない。


 ……。


 ――はぁ……まったく。ぬしもまだまだ幼いのだな。


 ……。


 ――答えは解らぬが道なら教えてやれる。どうする?


 ……どうすればいい?


 ――いや、もう時間が迫って来ておる様だ。一度には話せないと解った事だ。少し駄弁ろうではないか。


 ……。


 ――ん? もう終いか? まあいい。ぬしが話せなくても私が話したい。主は『強さ』とは何だと思う? ……そうじゃったな。問いは不用じゃな。私は強さも、人としての生も魔法も弱さも全て同じに見える。


 ――占い師に会いに行け。




 俺の夢はここで途切れた。
















 胃腸が引っ張られる様な体感で俺は目を覚ます。眼下に広がるのは広大な森。俺は。もとい、既に放射線に飛んでいる様で、既に森が少しずつ近づいている。


 「……っまじか!?」


 体を縛る縄から抜けて少しでも体勢を立て直そう。そう思ったが、背中合わせにロイルとアリスがいるのを思い出す。今俺が縄から抜ければ二人とバラバラになってしまう。
 そう思った俺は無理を承知で『フライ』を使い、慣性に逆らう。しかし、俺一人ではなく、二人を背負ってともなると、厳しく、フラフラと宙を漂いながら、目印になりそうな一本だけ大きな大樹の下に不時着する。


 「はぁはぁ」


 地上に降りて縄を抜け、大樹に手を付き寄りかかる。すると思っていた以上に魔力を消耗していたのか、目眩がして、俺は樹にもたれ掛かり、今度こそ本当の眠りについた。












 「レト君……レト君」


 俺は体を揺さぶられ目を開ける。


 「んぁ……アリスか。おはよう」


 「ぅん、おはよう……体は大丈夫?」


 アリスが大樹にもたれ掛かっている俺をのぞきこんでいる。その顔は夕日を後ろに影がかかっているからか、少し赤く思える。


 「……ありがとう」


 俺が立つと、唐突にアリスから感謝される。


 「ん? 俺は感謝される様な事はした覚えが無いぞ?」


 「ううん、ここに来るまで墜落? しなかったの、レト君のおかげだよね」


 「ああ、起きてたのか? 別にそれも感謝される程じゃないと思うけどな」


 俺は辺りを見回しながら答える。あれは夢だったのか? そんな疑問で頭の中がいっぱいだった。


 「起きてはいたけど、たぶん魔法の影響で動けなくて、苦しそうに木にもたれ掛かったレト君も見えてたけど、声、掛けられなかったの……」


 「だから、ごめんね」と、謝ってくる。


 「それも謝る事じゃないと思うけどな。……それよりロイルが見当たらないんだけど、どこに行ったか知ってるか?」


 もうすぐ日が暮れそうだ。目印になるこの大きな大樹に着地したのは迷わないためと思っていたが……。


 「さっき、周りを見てくるって言って向こうの方に行ったけど、大丈夫。私のくま、貸したから場所はわかるよ。もうすぐ戻って来る」


 「そうか。ありがとな」


 俺が感謝すると、はにかんで「感謝されるほどじゃないよ」と笑う。


 「そうだ……あの紙、見るか」


 俺はズボンのポケットに入っていた一枚の紙を取り出す。少しシワになっていたが、開くと、一文だけこう書かれていた。


 [七日間生き残り、自力で帰って来い]


 と……。







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