異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!

八百森 舞人

精霊使いと戦ったけど、最早精霊じゃない!

 「各々消耗はあるだろうし、そろそろ昼だからロットとアルトレアの後、コードと福田が終わり次第今日は終わりにしよう」


 と、フェーン先生が俺とアリスの試合の前に予め予告する。これは吉報だ。次の試合の事を思わなければ出し惜しみする必要も無いだろう。


 俺はアリスと一緒に結界に入る。


 「よ、よろしくっ! ……お願いします。魔法の事、レト君にもっと聞きたいし、見たいから」


 アリスがこちらに向き直り深々と頭を下げる。


 「ははっ……そんなに畏まらなくてもいいと思うけど。こちらこそお手柔らかによろしく。俺もアリスが使う魔法、見てみたいよ」


 と、お互いに挨拶を交わしてから、俺は結界の奥に駆ける。


 「準備はいいか? では……始め!」


 先生の合図で俺はレジストを発動させ、攻撃に備える。


 が、数十秒が経っても攻撃が来ない。ので、こちらから攻める事にした。


 戦い方はキューテを真似し、エア・ナイフをもっての突撃。脚にパワーを振って跳躍し、一気に距離を詰める。


 最初にアリスは攻撃を仕掛けて来なかったので、俺と同じ、相手に合わせる反撃型かと、思っていたが、違った。
 距離を縮めて分かった。跪く様に両手を合わせ、祈るような格好で固まっているアリスは攻撃して来ないのではなく、ずっと詠唱していたのだ。


 「っ!? 不味いな……」


 どんな魔法が来るにしても近いほど危険だ。選択肢は二つ。このまま突っ込むか、急いで距離を取るか。俺は前者を選んだ。


 ナイフで狙うは左肩。俺は急いで右手を前に突き出す。しかし、後数センチという所で、アリスの詠唱が終わってしまった。


 「『精霊魔法……神霊・九十九つくも神』」


 「――っ!?」


 俺は目線を更に落とし、アリスの足元、そこに横たわるくまのぬいぐるみを見る。


 のそっ――そんな風に、何もおかしい所なんて無いだろう? そう語っているようなぬいぐるみは自分の足で起き上がり、こちらを向く。


 九十九神――長い年月を経た物に精霊が宿り、物から者になり、神格化した者をそう呼ぶ。


 「なぁ、アリス……これ、少し精霊魔法とは違うのは気のせいか?」


 「ふふっ……気のせいですよ? ……くまさん。後はお願い」


 アリスは気丈に笑う。が、恐らく大半のMPを使い果たしたのだろう。顔色は悪く、重心はフラフラと安定していない。


 「くまっ!!」


 そんなアリスに向かってぬいぐるみはビシッと敬礼する。
 そしてまた俺に向き直り、「フシャー」と、熊なのに猫の様な威嚇をしてくる。


 これは……凄いけど、強いのか? 動いているが、ぬいぐるみだし……動いているんだが……。


 しかし、その考えが間違っていた事をすぐに知る。


 「――っ!?」


 予備動作無しの跳躍。顔を狙って突撃してくるそれに俺はギリギリの所で反応し、仰け反りつつ回避。


 熊はそのまま俺の頭上を飛び越えると思えた。しかし――。


 「――っくっっそ! 二段ジャンプとかアリかよ!?」


 その場でピタリと止まり、今度は丁度俺のいる真下方向へ加速してきた。


 「『エア・バースト』!」


 俺は緊急回避のため、プロテクトでの方向指定をせず、ただ暴れ狂う風に身を預ける。
 今のでアリスとの距離が大きく開いてしまったが、体勢を建て直すのには丁度いい。


 「はぁっはぁ……ふぅ。おいアリス!」


 「な、なぁに?」


 予想以上に消耗するであろうこの試合にあたって、どうしても聞きたいことがある。
 勢いで怒鳴るように聞いてしまい、アリスがビックリしているが……。


 「、死なないよな!?」


 そう、俺には見えたのだ。ぬいぐるみの柔らかそうな手に仕込まれていた針が。


 「う、うん……ちょっと痺れるだけ……だから、安心して」


 それは何より。一発食らっただけでアウトじゃなくて良かった。


 それにしても……あの熊……踊ってるのではなくじゃなく、煽ってる様に見えるんだけど……。


 燃やすか? いや、アリスが悲しみそうなので止めよう。
 なら水に濡らすか。濡れたら重くなって動けないだろう。


 「『ウォーター・ボール』」


 俺から放たれた直径三十センチ程の水球は真っ直ぐ熊に向かって行くが、ギリギリで避けられ、そのまま結界に当たり、魔力ごと吸収され、霧散する。


 うん。これは煽り認定して良さそうだ。こちらに背を向けて尻尾を振っている。


 ふっ……油断大敵! 最大までパワー・レジストしていた脚で跳躍し、一気にゼロ距離へ。


 ガシッ! 


 そんな効果音が聴こえるくらいに俺は両手で熊を掴む。


 「ふはははっー! ジタバタしても遅いわ!」


 「レト君……悪者っぽい……」


 あ、つい調子に乗ってしまった……冷静になろう……。


 手がチクチクする。多分中にも針が無数に散らばっているんだろう。
 だがしかーし! 今の俺の手はレジストを限界まで掛けている鋼の手。皮膚を針が通ることは無いだろう。


 「く、くま!? くま! くまくま」


 「くまくまって言われても分からないからな!?」


 さてどうしたものか水に濡らしても動きが鈍くなるだけだし……やっぱり燃やすか……ん? まてよ……。


 精霊魔法の種類は大きく分けて二つ。一つは精霊の力を契約者が行使する事で発動させるタイプ。もう1つが契約者の魔力を精霊に渡し、発動してもらうタイプ。


 アリスの場合、圧倒的例外な気もするが、どちらかと言えば後者であろう。アリスが消耗でぐったりしているのもその証だ。
 因みに契約者とは精霊魔法を使用するにあたって、特定の精霊と契約的関係を結ばなければいけないからだ。契約的……というのも随分曖昧だが、代償が必要でない場合も、逆に、とてつもない代償が必要だったり、まさに十人十色なのだ。


 ともかく、アリスから渡されている分の魔力が尽きれば動かなく――動かせなくなるだろう。


 が、しかし。見るからにアリスは膨大な量の魔力を使っている。
 ただ戦って消耗させるのは厳しいだろう……。何か無いか? 


 「あっ――」


 気づいてしまった。あるじゃないか! 一瞬で魔法の魔力エネルギーを吸収し、外に漏らさない――結界が!!


 俺はトントントンと、軽い足取りで最寄りの結界へ近づき、静かにくまのぬいぐるみを押し当てた。


 「案外簡単な物だな……ま、種が分かっても環境が大きかったけど――」


 ここが結界に囲まれた試合場ではなく、何の制限もない戦場ならこんな勝ち方は出来なかった。


 「そこまで! 勝者、アルトレア!」


 フェーン先生の声に、俺はくまをアリスに渡してからレジストを解除する。


 「レト君! ……ずるいよ?」


 「ま、そう言うな。俺だって好きで苦労はしたくないさ」


 アリスから透き通る声で怒られる。
 当然だろう。なんせアリスは俺の魔法を見たいが為に頑張ったのであろうから。


 「それは……そうだけどさぁ……なんかずるい」


 ずるいって……ちょっと胸にグサッと刺さる一言だが、反論するつもりは無い。


 「ま、まあ俺の魔法の事はまた今度、な?」


 「また今度……うんっ! 許してあげる」


 良かった。機嫌を直してくれた様だ。


 アリスは疲れたから眠ると言ってそのまま自分の部屋に帰って行ったが、俺はそのまま、ドラヴィスと和樹の試合を見学する事にした。


 結果は圧倒的差での決着となった。魔法使い対騎士。下手な魔法使いだと即座に決着し、敗北だろう。しかし、ある程度……それこそドラヴィス程の実力があれば、逆に勝利出来るだろう。


 結果はそんな常識を覆す、騎士和樹の勝利だった。






 




 


 

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