異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!

八百森 舞人

ランクアップ試験、筆記テスト!

 いよいよ――と、言うほどでもないが、俺は今、冒険者ギルドの会議室にて行われる筆記試験を受けるため、部屋に居る俺と同年代位の十数名の一人となっていた。


 普段は壁側に集められている椅子や長机は綺麗に列に並べられ、全員が座っている。
 その場の空気は緊張でピリピリし、声を出そうにも出せない状態が三十分間続いた。


 しかし、突如としてその空気は破られた。


 「ガハハハハー! おいおいひよっこ共みんなガチガチだな。そんな緊張するか? 普段は戦いこそ一番の緊張だと思うんだが」


 ドアを豪快に開けて紙束を抱え、部屋に入って来たのは勿論、ギルマスことガレッタさん。


 先程までの張りつめた様な緊張感は一瞬で凍りつく緊張感に変わった。
 俺は怖くないのを知っているが、他の冒険者――この場で言えば受験者はギルマスに怯えている。
 試験じゃなく、ギルマスに緊張している事に当の本人は気付かず、試験の説明を始める。


 「今から配る用紙にある問題、質問に答えて貰う。各問題の下に枠で囲ったスペースが在るだろ? これだ。ここに自分が思うように答えを記入してくれればいい。……んじゃ質問が無い様だったら配るけどいいか?」


 と、一人ずつに区切られた枚数の用紙を渡して回るガレッタさん。見た所、配られる枚数はそれぞれで、問題の数も内容も違う。個人専用の問題を作ったのだろうか?


 全く勉強していない俺にとっては喜ぶべきか、それとも気を引き締めるべきか……。
 だが、俺に配られたのはたった一枚だけだった。


 これだけ? そう思った。一枚だけの紙には裏に問題が書いても無く、表に一つだけ、質問が書かれていた。


 問【自分は好きか?】


 本当に一言だけ。でも、だからこそ雑学より礼儀より言葉が重い。


 そうだな……正直に言えば自分自身に好意が持てるとは言い難い。だが、人とはそんな物だろう。欠点は自分が一番よく分かっている。人から聞いた自分の良い所――それは本心かも知れないし、お世辞かもしれない。はたまた言わされていたり、仕方なく言っていたり。


 だが、結局のところ、好感や悪感は人と付き合って交流を持って初めて自分を判断できるのでは無いだろうか?


 【自分は好きか?】それは事ではなく、――思う事だろうか? なら簡単だろう……俺はこう書き込んだ。


 [好きだ]と。


 「ふぅー」


 特に考えるまでも無かった問題だが、いざ自分を振り替えって見るとしんどいな……自分の事を考えていてもマイナスな事しか思い浮かばない。


 俺は椅子に持たれかけ目を瞑る。瞬きしていなかったのか目が染みる。まぶたの裏が潤うのを感じ、背筋を伸ばしながら少しだけ眠りについた。














 薄暗い空間。俺は夢を見ていた。目の前には黒い靄が掛かった何かがいる。何かは一つため息をついて話し掛けてくる。


 ――またお前か……。


 お前は誰だ?


 ――私か? 私は私だ。


 どういう事だ?


 ――そのままだ。私は私でしかない。お前は誰だと聞かれたら『人間』ですって言うのか? 人間であるが、お前だろう?


 ここはどこだ?


 ――ここは今居る場所であり、何処かの事でもある。お前が居るギルドかもしれない、お前の家かもしれない、かもしれない。


 ……っなんで――いや、知っている?


 ――『』だ。私は全てを知っている。しかし全ては解らない。寧ろ解らない事が多い。


 これは夢か?


 ――お前が夢と定義するならこれは夢なのだろう。しかし、繰り返すが私は判断するのはお前だろう。


 ……。


 ――なんだ、だんまりか? お前は同じ質問をしてはそれだな。


 ……。


 ――そろそろ新しい質問でも考えたらどうだ?


 ……じゃあ……俺は……。




 「おい! 起きろぉ! 終わったぞ!」


 俺は大きな声と共にうつらうつらと見ていた夢から現実に引き戻された。


 こんな時、一瞬で目が冴える。羞恥心からだろうか? 俺はあえて寝ぼけ眼のまま、周りを見渡す。
 殆どの人が疲れている顔をしているが、眠そうな目をした人は他にもいた。どうやら寝てしまっていたのは俺だけでは無かったようだ。
 ここまで確認して俺はようやく目をパッチリ開ける。


 「すみません。うとうとしてました」


 「いや、別にいいぜ? ……それより答案を返してくれや」


 俺はガレッタさんに答案を渡す。どうやら俺が最後だったようで、前に戻って二つに分けられた答案の右に俺の答案を置き、


 「枚数が多い奴は後日の発表だが、三枚以下の奴は今、この場で発表する」


 と、言う。既に採点が終わっている様だ。


 「んじゃ言ってくぞ。――――レト・アルトレア、合格――」


 しばらく名前と合格か不合格を言って行き、俺の名前が呼ばれ、合格だった。


















 かくして俺は無事にランクアップすることが出来たのだ。




 

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