異世界転移に間に合わなかったので、転生して最強になろうと思う!
ランクアップ試験、実戦試合! 後編
現在の時間は昼下がり。場所はギルドの地下。空気は重く感じられ、自分が緊張しているのを自覚する。
魔物相手には何度も戦いを繰り広げ、勝利してきた。だが、人を相手にするのはこうも緊張するものなのか……。
先程までは居なかった観客もチラホラと見える。それどころか、まだ続々と入って来ている。
俺はノートスと距離を取って対峙し、真ん中にガレッタさんが立つ
「時間は無制限。どちらかがギブアップするか、俺が止めた場合にだけ試合は終了する。互いにどんな手を使ってもいい。勝負に卑怯はない。……レト、言い忘れていたが、相手は正真正銘の化け物だ。軍一つと互角の強さとAランクは言われているが、こいつは違う。国一つと互角以上と言われているSランクの一歩手前まで来ている。油断はするな。ノートス……これは試験だ。お前がこいつの力量を見定めろ。……御託はこのぐらいでいいか。よし! これよりレト・アルトレアのランクアップ試験、実戦部門を始める! 対戦者は『虚飾』ノートス……始めっ!」
虚飾……二つ名か。確かに外見だけで中は薄い男だ。的を射ている。でも違う。二つ名を決めるのは王様だけじゃないってガレッタさんが言っていた。つまり、戦い方のヒント……。
「うんうん。ちゃんと相手を観察するのは良いこと。加点だね。でも、観察と警戒は違う」
「……っ!? がはっっっっ」
突如俺の左脇腹に鈍い衝撃が走る。
咄嗟に後ろに跳び、追撃を警戒する。が、俺が元いた場所には砂の鞭が舞っていた。文字通りに透明な鞭が砂を舞わせて、巻き込んでいた。
俺は不思議に思った。魔法――風魔法の類いなら魔力を感知出来る筈だ。なのに、魔力を感じない。
「今の攻撃は視野を広く持てば回避出来た筈だ。減点」
そしてまた俺を狙って鞭が伸びて来た。何とか避けつつも、何度か当たる。
ニヤリ……いや、ニコニコとしながら採点する様子はいつだかのタシューさんを彷彿とさせる。
そう……いつも俺は反撃できずにいた。……でも、この攻撃は――。
「ぬるいっ! 『エア・プロテクト』、『バースト』っ」
俺は一気に距離を詰め、相手の懐に入る。そこから出来る限りの『パワー・レジスト』で拳を強化し、鳩尾に向かって正拳突きを叩き込む。ゴスッ……そんな音がした。骨ぐらい折れていても良いのでは無いか? 一瞬そう思った。が、俺は目を疑った。
「なっ!?」
距離がある――俺の拳は体に届く前に止まっていた。ただそれだけの事。しかし、それはあまりにも、おかしく、悔しく、もどかしい距離だった。
だが、刹那……ほんの一瞬だけ。ベールが剥がれた……何もない筈の空間から、白銀に輝く鎧が見えた。
「虚飾……」
俺は意図せず呟いてしまった。
虚飾――実際には無い、外見だけの飾り。
「おいおい、勝算があっても不用意に相手に近づく事は評価できないなー。減点。でも、『鎧』を見れたのならそれはそれで加点っと」
逆に俺が鳩尾を叩かれ、そのまま吹き飛ばされた。
「僕ってば隠し事が苦手でねー。奥の手っての? そんなの無いわけよー。この鎧についても特に隠してない。え? 聞きたいって? いいよー教えてあげようとも」
俺は立ち上がりながら初めて聞きたいと思った。ま、聞きたくなくても聞かされるのだろうが。
「ああ。聞かせてくれ」
時間稼ぎ……にはならなそうだが。
「おお! ノッてくれる人は久しぶりだよー。この鎧……『虚飾の鎧』はその名のように、あるようで無い鎧なんだよ。……僕は思ったんだ。皆は「有るようで無い」こんな風に言われたら実際には無い。存在していないから意味が無いって言う。でもさ、結果に無くても過程に答えが有るとするならば……ってね。……あ、ギルマス! タイム! 休憩! 中断!」
いつの間にか端の壁にもたれ掛かっていたガレッタさんに一時中断の要求をする。
「ああ!? ……勝手にしろ!」
せめて何て言ったか直ぐに理解できるくらいの距離まで来てほしい。
……そして俺はノートスの話の続きを聞く。
「そこで僕は試したんだ……変化をね。するとこの鎧は何にでもなった。燃え盛る炎の鎧。表面に霜が出来るくらい冷えた鎧。常に高速の風が表面を吹き荒れている鎧。変化している時は持ち上げることすら出来なかったけどね……。それでも熱くもなければ冷たくもなく、触れても何もない……というか触れる事さえ出来ない。それだけだった……。僕は歓喜した!! それ以来僕は二つの鎧を着けるようにした。一つは最高の素材を、最高の鍛冶屋に持って行って作って貰った最強の鎧。そしてもう一つは勿論『虚飾の鎧』さ」
「だが、どうして……何でもう一つの鎧も見えないんだ?」
虚飾の鎧……その鎧の形や性質を変えられる。当然、鎧を無いように見せるのも出来る筈だ。しかし、どうしてもう一つの方まで消えるのだろうか? 無いように見せれば光は透過して奥にある鎧が見える筈なのに……。
「うーん……なんか難しくなりそう? だからやめとくよ。自分で考えて?」
こいつ……考えることを諦めたな……。
まあ、中断している今なら休憩の意味も込めて、落ち着いて考えても良いだろう。
虚飾の鎧は有るようで無い。姿、形を変えられる。答えは結果では無く、過程にある……。
何だか、頭痛がしてきた……。頭の中がこんがらがって上手く纏められない……。
鎧……ん? 鎧……鎧……あ……あれ? 何考えてたっけ?
何か一瞬だけ答えが出た気がする。俺は疲れているから集中出来ないのは当然だ。焦らず、ゆっくり……。
鎧だ。鎧は何のために? 相手の攻撃から体を守るために。これは違う。当てはまらない。
虚飾を偽装と考えればどうだろう? 有るようで無い。存在しているのは外見……そして概念だ。そこにある、それを装備している概念がある筈だ。
無いように見せかければ、無いようで無い。ここまで来ると質量どころか外見も存在していない。残るは概念のみ。……言い換えれば概念は残っている。存在している。機能している……。
「鎧を鎧で隠している……のか?」
質量は無いんだ。被せるのではなく、合わせたらいい。そしてその状態で外見を無くせば……芯にのみ質量がある状態になる。
「正解だよー。その鋭い洞察力があるのなら、Aでも十分通用すると思うよ。試験はクリアとします! ……あ、因みにだけど、ここも鎧の中なんだー。だから外には休憩が終わってまた戦い始めているように見えている……。ここなら何を話しても外には聞こえない。さて……話をしようか……強欲君?」
背中がゾワリとする。それは手足に広がり、震えとなる。俺は拳をギュット握りしめ、この感覚が過ぎ去るのを待つ。
強欲? 俺の事を強欲と言ったのか? まさか……本の事を……。
「あははは、そんなにいきり立たなくても。僕は誰かに教える様なことはしないよ? ま、信用してくれ――とは言えないけどさ。君の事は『強欲』としか聞かされていない。特に詮索するつもりもないし、されるつもりもない。じゃあそろそろ戻すから……えっと少し左にずれて……そうそう。そこで腰をついて息が切れてる感じに……範囲はギルマスまでしか届いてないから、観客に怪しまれちゃう」
そう言うノートスは、会ったときから変わらないニコニコした顔のままだ。それが俺は少し気味が悪いと思っている理由だ。何かを隠すように――被せるように取って付けたような笑顔。それはまさに――。
「まさに『虚飾』だな。お前」
「ああそうとも。僕は虚飾。『虚飾』のノートスさ。そして君は、『強欲』さ」
強欲か……確かに元いた世界では物欲が強かったかもしれない。結局、金がなくて買えない物だらけだったが。
「君は……もっと欲張ってもいいんじゃないかな? 自分をさらけ出す、と言えばいいかな?」
「自分をさらけ出す、ねぇ」
なら俺は――。
「解いたよ。……ギルマスー!! 終了!」
ノートスに声を掛けられて、ギルマスが寄ってくる。
俺が欲しいのは――。
「この勝負、『虚飾』ノートスの勝ちとする!」
いつの間にか観客席は殆どが埋まっていた。そこからは歓声、野次、そして視線が集まる。
「どうだ? 何かお互いに言うことはないか?」
言いたいこと――。
「僕からは特には……注意点なら戦っているときにその都度言ったんでー」
「レトからは何かあるか?」
「じゃ――ノートス」
俺が今言いたいこと――。
「その鎧……俺にくれ――」
ランクアップ試験、実践試合は終わった。
俺は三日後にある筆記試験に備え、直ぐに宿に戻って本を開いた。
結局、……いや、案の定と言うべきか、鎧は譲って貰えなかった。あの鎧があれば、一気に戦力が上がった筈なのに……。
それからもう一つ。何故かこの日以来、俺を『強欲』と呼ぶ人が増えた……。
魔物相手には何度も戦いを繰り広げ、勝利してきた。だが、人を相手にするのはこうも緊張するものなのか……。
先程までは居なかった観客もチラホラと見える。それどころか、まだ続々と入って来ている。
俺はノートスと距離を取って対峙し、真ん中にガレッタさんが立つ
「時間は無制限。どちらかがギブアップするか、俺が止めた場合にだけ試合は終了する。互いにどんな手を使ってもいい。勝負に卑怯はない。……レト、言い忘れていたが、相手は正真正銘の化け物だ。軍一つと互角の強さとAランクは言われているが、こいつは違う。国一つと互角以上と言われているSランクの一歩手前まで来ている。油断はするな。ノートス……これは試験だ。お前がこいつの力量を見定めろ。……御託はこのぐらいでいいか。よし! これよりレト・アルトレアのランクアップ試験、実戦部門を始める! 対戦者は『虚飾』ノートス……始めっ!」
虚飾……二つ名か。確かに外見だけで中は薄い男だ。的を射ている。でも違う。二つ名を決めるのは王様だけじゃないってガレッタさんが言っていた。つまり、戦い方のヒント……。
「うんうん。ちゃんと相手を観察するのは良いこと。加点だね。でも、観察と警戒は違う」
「……っ!? がはっっっっ」
突如俺の左脇腹に鈍い衝撃が走る。
咄嗟に後ろに跳び、追撃を警戒する。が、俺が元いた場所には砂の鞭が舞っていた。文字通りに透明な鞭が砂を舞わせて、巻き込んでいた。
俺は不思議に思った。魔法――風魔法の類いなら魔力を感知出来る筈だ。なのに、魔力を感じない。
「今の攻撃は視野を広く持てば回避出来た筈だ。減点」
そしてまた俺を狙って鞭が伸びて来た。何とか避けつつも、何度か当たる。
ニヤリ……いや、ニコニコとしながら採点する様子はいつだかのタシューさんを彷彿とさせる。
そう……いつも俺は反撃できずにいた。……でも、この攻撃は――。
「ぬるいっ! 『エア・プロテクト』、『バースト』っ」
俺は一気に距離を詰め、相手の懐に入る。そこから出来る限りの『パワー・レジスト』で拳を強化し、鳩尾に向かって正拳突きを叩き込む。ゴスッ……そんな音がした。骨ぐらい折れていても良いのでは無いか? 一瞬そう思った。が、俺は目を疑った。
「なっ!?」
距離がある――俺の拳は体に届く前に止まっていた。ただそれだけの事。しかし、それはあまりにも、おかしく、悔しく、もどかしい距離だった。
だが、刹那……ほんの一瞬だけ。ベールが剥がれた……何もない筈の空間から、白銀に輝く鎧が見えた。
「虚飾……」
俺は意図せず呟いてしまった。
虚飾――実際には無い、外見だけの飾り。
「おいおい、勝算があっても不用意に相手に近づく事は評価できないなー。減点。でも、『鎧』を見れたのならそれはそれで加点っと」
逆に俺が鳩尾を叩かれ、そのまま吹き飛ばされた。
「僕ってば隠し事が苦手でねー。奥の手っての? そんなの無いわけよー。この鎧についても特に隠してない。え? 聞きたいって? いいよー教えてあげようとも」
俺は立ち上がりながら初めて聞きたいと思った。ま、聞きたくなくても聞かされるのだろうが。
「ああ。聞かせてくれ」
時間稼ぎ……にはならなそうだが。
「おお! ノッてくれる人は久しぶりだよー。この鎧……『虚飾の鎧』はその名のように、あるようで無い鎧なんだよ。……僕は思ったんだ。皆は「有るようで無い」こんな風に言われたら実際には無い。存在していないから意味が無いって言う。でもさ、結果に無くても過程に答えが有るとするならば……ってね。……あ、ギルマス! タイム! 休憩! 中断!」
いつの間にか端の壁にもたれ掛かっていたガレッタさんに一時中断の要求をする。
「ああ!? ……勝手にしろ!」
せめて何て言ったか直ぐに理解できるくらいの距離まで来てほしい。
……そして俺はノートスの話の続きを聞く。
「そこで僕は試したんだ……変化をね。するとこの鎧は何にでもなった。燃え盛る炎の鎧。表面に霜が出来るくらい冷えた鎧。常に高速の風が表面を吹き荒れている鎧。変化している時は持ち上げることすら出来なかったけどね……。それでも熱くもなければ冷たくもなく、触れても何もない……というか触れる事さえ出来ない。それだけだった……。僕は歓喜した!! それ以来僕は二つの鎧を着けるようにした。一つは最高の素材を、最高の鍛冶屋に持って行って作って貰った最強の鎧。そしてもう一つは勿論『虚飾の鎧』さ」
「だが、どうして……何でもう一つの鎧も見えないんだ?」
虚飾の鎧……その鎧の形や性質を変えられる。当然、鎧を無いように見せるのも出来る筈だ。しかし、どうしてもう一つの方まで消えるのだろうか? 無いように見せれば光は透過して奥にある鎧が見える筈なのに……。
「うーん……なんか難しくなりそう? だからやめとくよ。自分で考えて?」
こいつ……考えることを諦めたな……。
まあ、中断している今なら休憩の意味も込めて、落ち着いて考えても良いだろう。
虚飾の鎧は有るようで無い。姿、形を変えられる。答えは結果では無く、過程にある……。
何だか、頭痛がしてきた……。頭の中がこんがらがって上手く纏められない……。
鎧……ん? 鎧……鎧……あ……あれ? 何考えてたっけ?
何か一瞬だけ答えが出た気がする。俺は疲れているから集中出来ないのは当然だ。焦らず、ゆっくり……。
鎧だ。鎧は何のために? 相手の攻撃から体を守るために。これは違う。当てはまらない。
虚飾を偽装と考えればどうだろう? 有るようで無い。存在しているのは外見……そして概念だ。そこにある、それを装備している概念がある筈だ。
無いように見せかければ、無いようで無い。ここまで来ると質量どころか外見も存在していない。残るは概念のみ。……言い換えれば概念は残っている。存在している。機能している……。
「鎧を鎧で隠している……のか?」
質量は無いんだ。被せるのではなく、合わせたらいい。そしてその状態で外見を無くせば……芯にのみ質量がある状態になる。
「正解だよー。その鋭い洞察力があるのなら、Aでも十分通用すると思うよ。試験はクリアとします! ……あ、因みにだけど、ここも鎧の中なんだー。だから外には休憩が終わってまた戦い始めているように見えている……。ここなら何を話しても外には聞こえない。さて……話をしようか……強欲君?」
背中がゾワリとする。それは手足に広がり、震えとなる。俺は拳をギュット握りしめ、この感覚が過ぎ去るのを待つ。
強欲? 俺の事を強欲と言ったのか? まさか……本の事を……。
「あははは、そんなにいきり立たなくても。僕は誰かに教える様なことはしないよ? ま、信用してくれ――とは言えないけどさ。君の事は『強欲』としか聞かされていない。特に詮索するつもりもないし、されるつもりもない。じゃあそろそろ戻すから……えっと少し左にずれて……そうそう。そこで腰をついて息が切れてる感じに……範囲はギルマスまでしか届いてないから、観客に怪しまれちゃう」
そう言うノートスは、会ったときから変わらないニコニコした顔のままだ。それが俺は少し気味が悪いと思っている理由だ。何かを隠すように――被せるように取って付けたような笑顔。それはまさに――。
「まさに『虚飾』だな。お前」
「ああそうとも。僕は虚飾。『虚飾』のノートスさ。そして君は、『強欲』さ」
強欲か……確かに元いた世界では物欲が強かったかもしれない。結局、金がなくて買えない物だらけだったが。
「君は……もっと欲張ってもいいんじゃないかな? 自分をさらけ出す、と言えばいいかな?」
「自分をさらけ出す、ねぇ」
なら俺は――。
「解いたよ。……ギルマスー!! 終了!」
ノートスに声を掛けられて、ギルマスが寄ってくる。
俺が欲しいのは――。
「この勝負、『虚飾』ノートスの勝ちとする!」
いつの間にか観客席は殆どが埋まっていた。そこからは歓声、野次、そして視線が集まる。
「どうだ? 何かお互いに言うことはないか?」
言いたいこと――。
「僕からは特には……注意点なら戦っているときにその都度言ったんでー」
「レトからは何かあるか?」
「じゃ――ノートス」
俺が今言いたいこと――。
「その鎧……俺にくれ――」
ランクアップ試験、実践試合は終わった。
俺は三日後にある筆記試験に備え、直ぐに宿に戻って本を開いた。
結局、……いや、案の定と言うべきか、鎧は譲って貰えなかった。あの鎧があれば、一気に戦力が上がった筈なのに……。
それからもう一つ。何故かこの日以来、俺を『強欲』と呼ぶ人が増えた……。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
37
-
-
1
-
-
353
-
-
1
-
-
159
-
-
58
-
-
4405
-
-
55
-
-
17
コメント