ペンの勇者 勇者の秘密

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翻訳

投票騒動のその後は静かなものだった。どうやら、色々と思うところがあるらしく。とりあえず最初の一週間は全て自由行動になった。


ラインから授業に誘われたが今更なので、断りをいれ別の作業に入っている。


ライク「はぁ」


と思わずため息がでてしまう。心はわかっても体が拒否をする。


そして以降後悔に。


??? 「なーにためいきついちゃっているの」


椅子越しに僕に抱きつき、作業の邪魔をする。


ライク「先生作業の邪魔です」


イデア「ここではイデアお姉さんでしょ」


この人はイデア先生。僕がはじめてあったときお姉さんといった人だ。もう一人の僕いわくかなりの重要人物らしい。


ライク「はぁ」


後ろに抱きつかれたのがラインだったらなぁと思ってしまう。


既知の魔王? 『そこまで後悔するなら一緒に居ればよかっただろうに』


ライク「駄目だね。口を開けたら悪口を言ってしまう」


積み重ねとは酷いもので、その場では酷いことがズラズラと出てしまう。


イデア「○」


ライク「結局治らないんでしょこれ」


既知の魔王? 『あぁ、そのレッテルは治らないな』


僕がラインを言えない理由は単純に自分ではなくウルを選んだことそれにつきる。


彼女の前に立つと、隣にウルの残像が見える。そうして口にでるのは被害妄想。やれウルと仲良くとか、やれウルとやればとか。


ウルが見えるいじょうそう答えるしかない。それぐらい根は深いのだ。だてに幼少期に苛められてきたわけではない。


イデア「○○」


ライク「はぁ」


ため息をつきながらも、写本する手は止まらない。もう目と手だけを別のように動かす作業もなれたものだ。


言語のわからない本の写本を行い、写本から知識を吸収しまた別の本にかく。


思考と記憶が別々の領域に隔離され。今記憶した内容は隣のノートに書かれる。これを繰り返すことにより。現代語訳の本が完成する。自分の記憶も明日になれば忘れる。ひょっとしたら残っているかもしれないがそれほどの強烈な本は1冊しかなかった。


既知の魔王? 『ところでいいのか?』


魔王はフランクに僕へと話しかける。この写本の提案も魔王からの助言である。


理由はわからないがこの写本のある一冊が後に重要な出来事に関わってくるらしい。


ライク「なに?」


既知の魔王? 『後ろを向いてみろ。それでわかる』


ライク「後ろって・・・」


イデア「・・・」


そこには無言でこちらを見つめているイデア先生が居る。


ライク「怒ってます?」


イデア「いーえ、全然」


あっこれ、それなりに怒っている奴だ。


ライク「無視してごめんなさい」


イデア「だから怒ってないですよ」


そういっている顔は無表情だ。昔たまに母さんが本気で怒ったときに見たことのある顔だ。父いわく。こういうときは


ライク「それでも、ごめんなさい」


ただひたすら謝るもしくは、強気に出るのがいいらしい。なお強気に出て暫く飯抜きになった父を見ると謝り続けるのが得策だと思う。


最初は言葉だけで謝る。怒っていないと言ったら次に顔を下げて謝る。だいたいこれで何とかなる。ならない場合は。


椅子から立ち上がり謝罪を行う。そして次は土下座。とどんどん誠意というか謝罪を強くしていくと本気度が伝わって良いらしい。


ちなみにここで、もうしないと言うのも好評価になるというが、それは女性によるらしい。なんせ治す気はないのだ。次に余計に怒られる人間か仕方がないと流す人間かは見極めないといけない。ちなみにイデア先生は前者だと思う。教師だし。


結果土下座姿勢時に許しを貰えて、また作業に移る。


イデア「全くもう」


先に先生の方が音を上げる。それを聞いて少しした後。


「ごめんなさい」


と浅く謝る。そうして、写本の手を止め先生の方を見る。


既知の魔王? 『相変わらずの効能だな』


うん、僕もそう思う。


「別にいいわよ」


「では、一旦休憩します。タタでいいですか」


「えぇ、棚にリッヒがあるから出していいわよ」


棚から燻されたタタの葉をとり、それをコップに入れる。水をいれかき回す。かき回すと透明だった水が徐々に黒くなっていく。僕はこの色が茶色程度のものが好きで、先生は真っ黒なものが好きらしい。一回飲んでみたが、僕には苦くて合わなかった。


棚にある。可愛い装飾がされた袋と皿を取り出し。皿の上にコップをおき戻る。


机に置かれた黒い水を先生は飲む。


「うーん、ちょっと甘いわね65点」


かきまわす事により味が変わるらしいけれど。葉毎にかき混ぜる濃度が変わるから僕にはどうしようもないってか感じなのだけれどね。


「まぁいつかわかるわよ」


タタの水を飲みながら、リッヒを食べる。最近の日常だ。


「それで、どこまで進んだの」


先生は翻訳具合を聞いてくる。


「この分ですと半月もすれば終わりますね」


「そう、そんな早く終わっちゃうんだー」


若干悲しそうに先生は言う。


「早く終わる分にはいいことだと思うのですけど」


「この本ね、私の家系で代々伝わる由緒ある本なんだ。まぁ誰も読めた人がいなかったんだけどねぇ」


たまに聞く話が始まる。


「読めないのに、由緒ある本なのですか? 」


「そう、そこなのよ」


毎度の事ながら愚痴が始まる。翻訳が進むたびに自分の不甲斐なさが現れているのか。長くなって言っているような気がした。


まぁ気がするだけで、実際この環境は楽しかった。色々な物に触れて、他愛のない話をする。特に1つの本が面白かった。


「特にあの本よ、あの絵本。あれ本当は捨ててしまおうと思ってた1冊だったのに1番貴重な本なんてね」


黒い絵本。先生が持ってる本の中で唯一字がない本……だと先生も思っていた見たいだけれど。


「気づかないわよ、まさかあの中に古代文字が書かれているなんて」


翻訳している最中の記憶から、どれが古代文字かわかり、先生に結界を張って貰い試したところ。文字で魔法ができる事が確認できた。


「今が魔王厳戒態勢だから静かだけど、平和なときだったら死んでたかもしれないわ」


それくらい、古代文字……魔法を出せる文字は重要なものらしい。


「少なくとも私は見たことないものだから、最低でも数百年前の文字ね」


それがどれくらいすごいかはわからないが、数百年というのは多分間違っているだろう。


だってこの本の作者は喋れないのだから。


そう僕が惹かれたのはそこだった。喋れない誰かが誰かと喋ろうと必死になって頑張り、文字を作った。その誰かが好きだからこそ、続きが見たくなり翻訳したくなる。


しかしこの本の翻訳には時間がかかった。記憶だけでは足りず、見えない何かを見ようとしないと別の何かが見えないからだ。


文字の記憶だけでなく、もう1つの記憶。もう1人の主役も黄金の目を通すことで感じることができた。だからこの本の翻訳だけは短時間しかできなくて進みが遅くなっている。


「ひょっとしたら、初めての魔法かもしれませんね」


「そうね。……そうだったら私は最初の魔法使いの家系ってことね」


フフフと、先生は笑った。


キーンコーンカーンコーン。


チャイムがなる。


「もうこんな時間ですか、すみません」


「はいはい、片付けはしておくわ。怪我しないようにね」


「はい」


そういって先生の研究室を後にする。


こうして翻訳が終わった後は、学園地下の迷宮に1人で潜っていく。


中間地点まで行けばそこからスタートもできるらしいが、まだそこまで行った事はない。


手で触れ、ドアを開く。開く際には体に文様が刻まれ。脱出の言葉が浮かぶ。それを唱えるとドアの門まで戻ってこられる優れものだ。


ドアを一歩入りドアが閉じれば。もうドアは存在しなく、先の2つの扉しかない。片方は開かないのでいつもの扉を開き階段を下りる。


階段が終わればそこからは迷宮だ。早足ですすみ階段を探す。階段が見つかれば降り、敵性生物はなるべく無視し、先を目指す。


自分の戦闘スタイルははっきり言えば。複数には向いていない。それに上手いことは時間稼ぎぐらいだ、戦闘自体は大丈夫だがそれに体力がついていかないことはわかっているのでとっとと先に向かう方針となっている。


複数人で来れば良いと思うかも知れないが、現状それは無理に近い。


なんせ人が少ないのだ。おまけに最初のように魔王化賛成の人物が居る。仲の良かったジョッシュは血走った目で何かをやろうとしているし、僕が誘える人物はウルに渡してしまった。


ようは誰とも組めない状態だ。またそれでいいと思っている。なんせ僕は、


こっちに攻撃してくるなにかを剣で斬る。何かは真っ二つになり、黒い何かが僕の中に入る。


浅い階層なら、負けないのだから。


それは最初の数回でわかったことだった。浅い階層なら囲まれても問題なく対処できる。


だから僕は自分にあった階層に行き。そこで適当に戦い、疲れたら帰還する。それを繰り返し行っていった。


最初は浅めの浅めだったのが今はその階層よりかなり先の方まで進むことができるようになったと思う。むしろそこまで行くのに時間がかかりすぎているとも感じる。


階層を降り、手頃な奴を斬り自分の限界を確認する。


「今日はこの上か」


1回で倒れていなかったり、相手の攻撃が当たりそうになったらその上の階に戻り。そこで倒せるだけ倒していく。その時間が何分かはわからないが。数時間はたたないだろう。


敵を見つけ斬り、探しまた斬る。徐々に敵が集まってきて。数十分も立てば囲まれる。どうやら戦い続けると寄ってきやすいらしい。


そうして集まったのを相手し続ける。そうすると今度はモンスター自体が変化していく。


より硬く、より速く、より賢く、より強く。斬った後の黒い物も濃く多くなっていく。


そうして戦闘方法も変わっていく。斬りにいくのではなく、攻撃をかわしながらのカウンターへ、宙を舞うペンは常時灯りや最近翻訳した魔法で妨害をし対処していく。


そうしてそれすらも難しくなったら、言葉を出し、帰還する。


一度言っても帰還できない時もあったから注意が必要だ。その時はオッゾさんを呼び、逃げ出す。どちらにせよ、ある程度余裕を持った戦いしかしなかった。


それが良いことか悪いことかはわからないけれど、少なくとも今の僕はそれほど生き急ぐ必要はないと思っている。なんせ僕が急いでいないのだ。恐らくまだ猶予があるのだろう。


そうして日々が過ぎていく。あれ以降は所々で僕と会話することはあるけれど、最初の時とは違い切羽詰まる物はなかった。


そうこうしているうちに月日は経つ代わり映えしない中。変わっていくものは……


「終わった」


翻訳と階層の進み具合だった。



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