ペンの勇者 勇者の秘密

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1人の日

 夢を見ている。


 何回か見た夢だ。夢の中の僕は綺麗な手をしていてあのペンでノートを書いている。


『○○××の日記』


 名前は読めないがそれが日記ということはわかる。


『ペンの機能その1 書ける文字は3つ。【普通の文字】【魔法の文字】【秘密の文字】』


 何回か見たそのノートのページを再度確認される。毎回書かれる文字だ。


『普通の文字は物に書ける文字、消すのは難しく。普通のペンよりも長持ちするので文字を綺麗にしましょう』


 この夢を見るようになってから、字を綺麗に書くように心がけている。母さんもこれについては嬉しい誤算っていってたっけ。


『魔法の文字は何処でも書ける文字。魔法も起動できるし、相手にコンタクトもできる。悪戯で使うのは駄目』


 魔法の文字は文字が宙に浮かぶ。見えるのは僕と魔法に精通している人が目に魔力?を集中させると見えるらしい。文字は数分から数時間残っており。僕が触ることで発動したり、相手と情報の伝達ができる。他にもできるらしいけど。夢で見てる限りはそれはわからない。


『秘密の文字は私にしか見えない文字。私以外には見えず、認識することもできない。速筆も頑張ろう。ただし悪戯は駄目』


 最後に秘密の文字、毎回出てくるだけど、毎回覚えていない言葉。いつかこの文字を書ける日は来るのか。


『さてここからが今日の日記。今回は……』




 日の光で起きる。


「ん~」


 時計を見て時間を確認する。


「ん、この時間ならギルドか」


 歯磨きをし、身支度を整え。家を出る。


 父さんと母さんはあの日以来、冒険者に戻った。新たな家には僕1人の日が増えた。


 キルダ「大人になるんだろ」


 ミヒト「大丈夫ちゃんと帰ってくるから」


 そういって数ヶ月間帰ってこない。この生活がもう1年は続いていた。


 人が恋しかった。誰かと一緒に居たかった。1人の夜で泣いたこともあった。


 そのせいか、人と一緒に居られる、ギルドや司書がいる図書館には毎日通うようになった。


 呼び鈴をならし。


 ライク「おはようございます」


 アリューゼ「おはよう、坊主。今日ははええな」


 ライク「早起きは得なんでしょ。おじさん」


 アリューゼ「はは、違いねぇ。ほら着替えて準備しろ」


 ライク「へーい」


 朝の日課はギルドでのバイトだ。やるのは依頼の張り出し、食事の注文及び配給。他にも最近は冒険者の相談なんかも増えてきた。


 ウェンディ「おはよう、ライク」


 ライク「おはよう、ウェンディ」


 ウェンディは僕の2つ上の女性で、このギルドを経営しているアリューゼの子供らしい。


 ウェンディ「また冒険者が呼んでいたわよ」


 ライク「わかった。ありがとうウィンディ」


 敬語を使おうとしたら、このままがいいって言われたので普段の口調で話している。


 ライク「おはようございます」


 リリ「おはよう、坊や。さっそくで悪いんだけどこれわかる」


 女性冒険者のリリから単語が渡される。最近の仕事の殆どはこういった単語の確認だった。


 ライク「聞いたら、全員注文に……今回は仕事も請けてもらいますよ」


 リリ「はいはい、わかりましたよ。ねぇ坊や王国来るつもりない?推薦するわよ」


 二年後には行くつもりだけど。今は行くつもりはない。


 ライク「検討します、それでこれなんですけど」


 例のペンで単語をなぞる。頭の中にその情報が入ってくる。


 ライク「これは特殊な鉱石みたいですね。リギオンっていう魔物の中で作られる鉱石みたいです」


 リリ「リギオン?聞いたことないわね特徴は?」


 さらにリギオンを書く。前に書いた鉱石の情報等すっかり抜け、新たな情報が入ってくる。


 同時に少しめまいがする。ご飯食べてないときの連続書きはきつい。


 ライク「大型の魔獣で荒野にいるみたいです形は……」


 手に入れた情報をそのまま話していく。


 リリ「なるほど、少しやっかいそうね。対策は?」


 ライク「さすがに勘弁してください」


 アリューゼ「おいこら、リリ。いつまで坊主を拘束してやがる。仕事しろ仕事」


 こっちの状況にアリューゼおじさんがフォローを入れてくれる。ここにきてから頼れる大人が増えた。


 リリ「あら、ここに私に相応しい仕事なんてあったかしら?」


 アリューゼ「そういうと思って特別なのを用意してやった。とっとといってこい」


 依頼書を見て、リリさんはため息をつく。


 ライク「リリお姉さん頑張ってください」


 リリ「坊や、もうお姉さんってとしじゃないのよ私」


 ライク「でもこの呼び方嫌いじゃないでしょ」


 ニコッと笑い返答を待つ。リリさんは笑い。


 リリ「いっそ、無理やり攫っちゃおうかしら」


 アリューゼ「おい」


 リリ「はいはい、じゃあ仕事に行ってきますよー」


 リリさんの床に紋様が浮かぶ。


 アリューゼ「飯は?」


 リリ「夜には戻ってくるは」


 そういい残し、リリさんは消えた。


 アリューゼ「全く、行くだけで数日かかる場所なのによ。おぉ坊主悪かった。他の仕事に移ってくれ」


 ライク「はい」


 ???「おーい、空いて終わったらこっちも頼む」


 ???「ライク君、こっちもお願い」


 アリューゼ「てめぇら、子供使わずに自分で何とかしろ」


 こうして朝の時間は過ぎていく。ここに来て半年を過ぎた頃から、仕事が情報を教えることがメインになってきた。


 1つの情報で全員の注文1つづつ。3つで仕事1つ。5個で少し細かいことも教える。最近は小さい賢者みたいな呼ばれ方もしていて恥ずかしい。


 そうして、今日の繁盛記を乗り切り、落ち着いた後。図書館に向かう。


 ライク「おじさんこれ」


 帰る間際に、リリさんの情報の追加を渡す。


 アリューゼ「坊主、リリを贔屓しすぎじゃないのか?」


 ライク「上客には丁寧な接客を、態度が悪いのは上客に追い出してもらう。そうでしょおじさん」


 アリューゼ「全く、こんな繁盛すると休む暇がなくなるんだがなぁ」


 ライク「僕は数年後には学校に行くからここには戻らないよ」


 アリューゼ「わかってる。そこまで精々蓄えを作っておくさ。ほら今回の駄賃」


 晩御飯にデザートをつけてもおつりが出るくらいのお金と、遅い朝食をもらいギルドをでる。


 ライク「じゃあ、また」


 アリューゼ「おぅ、早めに頼むぜ」


 朝食を食べながら、お昼の日程を決める。


 お昼は基本自由時間にしている。基本は図書館か教会で勉強、2年後に備えて筆記試験の準備は万全だ。その代わり実技が少し不安になる。だからたまに引退した冒険者に手ほどきを受けている。魔法の基礎もその時に受けている。


 うーん、今日はお爺さんの所に行くか。


 貰った駄賃で、茶葉とお菓子を買って。エンヤ爺さんの所へ向かう。


 エンヤ爺さんの家は、郊外にありそこに行くまでに結構な時間がかかる。走った所でたいした時間はかわらず、お菓子を駄目にした経験から、最近はゆっくり歩くことにしている。


 イスズ「あら、ライン君。今日はお爺さんのところかい」


 ライク「はい、剣を教わりに」


 イスズさんは教会で冒険を教えてくれるシスターだ。


 イスズ「今度は薬草の調合も教えてあげるから気になったら来てね。何時でも待ってるから」


 教会には昔はよく行っていた。寂しくて、悲しい時は教会に行き、司教と一緒に寝させて貰っていた。だから教会の人たちとは基本仲良しだ、不良神父は除くけど。


 ライク「では、近いうちに行かせて貰います」


 イスズ「待ってるわよ」


 そうしてイスズさんと別れ、郊外に向かう。


 ライク「魔物か」


 郊外に出るあいだに魔物が現れる。生態系と呼ばれるものはなく、ある日突然湧き上がるものらしい。


 数は3、このレベルなら問題ないし。


 ライン「行く前にちょっと運動しとくか」


 ペンを取り出し、魔法を書いていく。詠唱と違い音を出さずに書くことができるのが利点だ。


 書くのは火球の魔法。威力も低いが今居る相手なら十分に通用する。


 ペンを戻し。タイミングを見計らう。できれば3匹一片に食らわせたい。






 このタイミングだ。火球を発射し3匹巻き込まれる。


 ライク「よし」


 すかさず走りこみ、そのまま1匹攻撃し吹き飛ばす。


 カランと鉱石が落ちる。これが魔石と呼ばれ、大型の物だとその魔物すら一時的に使役できるものらしい。


 残りの2匹がこちらに襲い掛かってくるが、片方は足がやられているらしく速度が遅い。


 当然狙うのは遅い方、攻撃をかわし、裏に回り一撃を入れる。


 一撃一撃には魔力を込める。魔物に当たった時、込めた魔力を放つことにより普通じゃ考えられないダメージを与えられる。剣や盾にもそういったことができるらしいが今は自分の拳や蹴りにしかできない。


 勿論放てばその分魔力を使うので疲れる。今の僕ならば十発も戦闘中に打てばガス欠だ。なので一撃一撃慎重に確実に当てていく。


 2匹目も倒し、魔石を落とす。魔石は小さくても溶かしてある程度の大きさにすれば、多様な使い方があるので小さなものでも換金してもらえる。ようはお小遣い稼ぎにもなるのだ、まぁこれで稼ごうとは思わないが。


 ライク「さぁどうする」


 最後の1匹と対峙する。


 ???「キュー」


 最後の1匹は逃げていった。追いはしない、追ったところでいいことなんてないから。


 そもそも、魔物も襲い掛かってこないものも居るので無作為に戦いを挑むのも良くない、ちゃんと勝てて、危険じゃなく、見つかったら攻撃される奴だけを狙った方が道中は楽になる。ここらへんの知識はリリさんや他の冒険者に教えて貰った。


 さて少し時間がかかったが無事エンヤ爺さんの家に到着した。


 郊外に佇む大きな家、昔は有名な剣士だったらしい。


 リッヒー「ライン様、今日はご主人への御用で」


 ライク「リッヒーさん、お疲れ様です。今回はエンヤ様に稽古をつけてもらおうかと」


 リッヒーさんからはマナーを教えて貰ってる。おかげで両親が感謝している人のトップスリーにはリッヒーさんは入っており。帰ってきたときはよくエンヤ邸にお土産を買ってきている。


 茶葉とお菓子を私、エンヤ邸を案内してもらう。


 リッヒー「ご主人様、ライン様がお見えです」


 エンヤ「入れ」


 ライク「失礼致します」


 家の平面の半分を使ったこの部屋には壁には剣が置かれており、その中心で自分同じぐらいの剣をエンヤ爺さんが振っていた。


 エンヤ「ふっ」


 ビュッいう風きり音が一振りごとに聞こえてくる。


 リッヒー「私はこれで」


 リッヒーが部屋からでて、僕とエンヤ爺さん二人きりになる。


 そうして僕もエンヤ爺さんと同じように自分と同じ高さの剣を持ち。エンヤ爺さんの横で振るう。


 ライン「ふっ」


 エンヤ爺さんと同様に、肩の後ろぐらいまで剣を振り上げ、振り下ろす。


 そうして、また振り上げ、振り下ろす。それを繰り返す。


 3分、5分、10分、30分。


 時間がたつにつれ剣がぶれ、腕が震える、リズムも崩れ一振り、一振りが遅くなる。


 エンヤ「ふっ」


 しかし横には、僕が来るまで剣を振っているエンヤ爺さんがいる。エンヤ爺さんは一定のリズムでぶれることなく一定の間隔で振り続ける。


 ビュッ、と音がするたびに、剣を振り上げようとする。音が四つ五つすることにようやく振りあがり、音もしないで下に振り下げる。最後の方はいつもこんな感じだ。


 そうしてまた時間がたった後。


 エンヤ「これでしまいだ」


 ゆっくり剣が持ち上がる。僕もそれと同じように必死に振り上げる。


 エンヤ・ライン「ふっ」


 そうして、ビュッ今日聞いた中で1番いい音を鳴らし。稽古が終わる。まぁ何も稽古だと思っているのは僕だけかもしれないが。


 ライク「ありがとうございます」


 エンヤ「・・・」


 その言葉に返答もせず、部屋を出る。


 僕は剣を置き大の字で寝る。


 ライク「あ~しんどい」


 リッヒー「お疲れ様です」


 リッヒーさんがタオルとドリンクを持ってきてくれる。


 ライク「有難うございます」


 生暖かいドリンクを飲み、汗をふく。


 リッヒー「今日はどうでしたか」


 ライク「きつかったです」


 ただ振り上げ、振り下ろす。それだけなのに腕はパンパンで帰りに買い物をする余裕もない。


 リッヒー「ははっ、ご主人様は喜んでいましたよ、また来て欲しいと」


 あの態度で喜んでいるのか、僕はわからなかったがご厚意には甘えることにした。


 ライク「ちょっと休憩してからまたきます」


 リッヒー「いつでも待ってますよ」


 そうして、時刻は夜となり。そそくさと帰っていく。


 道中は魔物に会わないようにひっそりと移動していく、エンヤ邸から郊外まではまた修行ポイントだ。


 息を潜め、他と同調し空気のように歩いていく。そうして町についたら、うちに帰り勉強やら剣振りやらをするのだが今日は疲れたので寝る。お腹もすくけど水を浴び寝る。


 そうして筋肉痛で身体中が痛いので何日か休んでまたいつも通りの生活をする。ここに来てからはそんな毎日だ。


 転機が、訪れたのは1年と3ヶ月、両親がそろそろ帰ってくる時期。その人は突然現れた。


 その日はいつも通り酒場で朝の対応をやっていた。いつも通り、相談をし、いつも通り注文を聞き、いつも通り配膳する。そこに


 ???「小さい賢者と呼ばれる者に会いにきた」


 純白の鎧を纏った騎士が現れた。



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