姉さん(神)に育てられ、異世界で無双することになりました
ヒッポグリフ
チッケを背負子に乗せて、俺はとりあえず東を目指した。
彼女の案内で、途中にある村に立ち寄った。
しかし、そこを村と呼んでいいかどうかは微妙だ。
建物はほとんどボロボロで、かろうじて馬小屋が使えるくらいか。
人が住んでいる気配はまるでない。
「チッケ……ここは?」
「おいらがいた村だよ。生まれ育った村とかじゃなくて。住んでたのも一年くらいだし。ポーターとしてここを拠点に働いていたんだ。開拓村を渡って手紙や物資を届けてたんだ」
チッケはそう言って、村の隅に置いてあった石の前で手を合わせる。
そうか、ここがグリフォンに襲われた村か。
この石はお墓の代わりなのだろう。
「全員いいひとだったよ。よそ者のおいらをみんな可愛がってくれて。自分達の生活も苦しいのに、採れた野菜を分けてくれたりしてさ。おいらより小さい子供もいたんだよ。おいらのことお姉ちゃんって呼ぶんだぜ。他の人もおいらのことを娘とか妹みたいにかわいがってくれてさ。この村で手紙と荷物を預かって町まで届けに行ったんだ。その日、知り合いの冒険者があぶく銭を得たからっておいらに飯を奢ってくれて、村に戻るのが予定より一日遅くなったんだ。それで、村に戻ろうとしたら、ギルドに連絡が入ったよ。開拓村がグリフォンに襲われて、全員死んだって」
チッケは思ったんだ。
自分が温かいご飯を食べている間に、村人が襲われていたと。
もしも、自分が誘いを断って、村に戻っていたら。
当然、チッケは理解している。自分ひとりが村にいたとしても、誰も助けることなんてできないと。
それどころか、自分が無駄死にするだけだったと。
でも、そう思わずにはいられなかったのだ。
「もしかしたら、師匠が倒したグリフォンが、この村を襲ったグリフォンだったのかな。だとしたら、みんな喜んでくれるかな」
「……みんな喜んでくれるとしたら、チッケが元気にこの村に来てくれたことだよ」
「え?」
「だって、村の人はチッケを家族みたいに思ってくれていたんだよな? ならば、チッケが久しぶりに帰ってきて、元気な姿を見せてくれたんだ。絶対に喜んでいるに決まってるだろ?」
「……そう……だったらいいな」
チッケはそう言って、手を合わせてほほ笑んだ。
その日は村にある納屋に泊まることにした。
この村には井戸はないため、近くの川で水を汲んで、広場で火を熾し、そこで煮沸させて使う。
「納屋かぁ……まぁ、馬小屋よりはマシなのかな」
「師匠。グリフォンが出る可能性のある村では、絶対に馬小屋で寝たらダメだぞ」
「そうなのか? 逃げる時にも馬に乗ったら逃げきれるかもしれないと思うけど」
「グリフォンは馬が大好物なんだ。だから馬に乗って逃げたら真っ先に狙われるよ。ことわざでも言うだろ?『馬に乗ってグリフォンから逃げる』って」
そんなことわざは知らない。
きっと、愚かな行動という意味のことわざなのだろう。
鍋を煮沸させている横で、昨日焼いて食べた分と雑貨屋の店主に渡した分を除いた残りのグリフォンの肉を串に刺して焼く。
「そうだ、ちょっと待ってて」
チッケはそう言うと、近くの崩れた家の中に入っていき、一つの赤みがかった黒い石を持って戻ってきた。
その石をカリカリとナイフで削り、削りカスを肉にかけた。
「それ、もしかして岩塩?」
「ああ。家にあったのをもらったんだ。ある場所は知ってたから」
味付けは塩だけだったけれど、疲れた体に塩気はありがたく、俺はグリフォンの肉に舌鼓を打った。
残りの肉は腐ったら怖いので、捨てることにしようかな。
チッケはまだ食べられると言ったけれど、食中毒は怖いからと言ったら、彼女はしぶしぶ納得してくれた。
食料は携帯食料がまだ十分あるからね。
「……あぁ……それに、新鮮な肉なら直ぐに手に入るから」
俺はそう言ってナイフに闘気を纏わせた。
こっちに近付いてくる獣の気配を感じたからだ。
しかも、グリフォンにも勝ると劣らぬ大きさ。
恐らく、魔物の一種だろう。
「あ……」
チッケがその魔物の姿を見て、驚愕した。
俺も驚いた。
「グリフォンか……もしかして、こっちが村を滅ぼした……」
「違うよ、師匠。こいつはグリフォンじゃないよ」
「え?」
「身体の部分が獅子じゃなくて馬だろ?」
見ると、確かに体は馬みたいだった。
頭より下は茶色いペガサスみたいだ。
「あれはヒッポグリフ――グリフォンと雌馬の間に生まれた魔物だよ」
「……グリフォンと馬の混血児ってことか。おいおい、馬ってグリフォンの餌じゃなかったのか」
なにをどう間違えたら食べる側と食べられる側の間に子供ができるんだ?
「ちなみに、ヒッポグリフは馬みたいに草食だったりするのか?」
「好きなのは馬肉と人肉だって聞くけれど――」
……馬の子のくせに馬肉食べるのかよ。
そして――と俺は手元の肉を見る。
「どうやら、グリフォンの肉に釣られてやってきたみたい」
……肉ならなんでもいいのか。
ヒッポグリフの節操の無さに、俺はため息をついた。
彼女の案内で、途中にある村に立ち寄った。
しかし、そこを村と呼んでいいかどうかは微妙だ。
建物はほとんどボロボロで、かろうじて馬小屋が使えるくらいか。
人が住んでいる気配はまるでない。
「チッケ……ここは?」
「おいらがいた村だよ。生まれ育った村とかじゃなくて。住んでたのも一年くらいだし。ポーターとしてここを拠点に働いていたんだ。開拓村を渡って手紙や物資を届けてたんだ」
チッケはそう言って、村の隅に置いてあった石の前で手を合わせる。
そうか、ここがグリフォンに襲われた村か。
この石はお墓の代わりなのだろう。
「全員いいひとだったよ。よそ者のおいらをみんな可愛がってくれて。自分達の生活も苦しいのに、採れた野菜を分けてくれたりしてさ。おいらより小さい子供もいたんだよ。おいらのことお姉ちゃんって呼ぶんだぜ。他の人もおいらのことを娘とか妹みたいにかわいがってくれてさ。この村で手紙と荷物を預かって町まで届けに行ったんだ。その日、知り合いの冒険者があぶく銭を得たからっておいらに飯を奢ってくれて、村に戻るのが予定より一日遅くなったんだ。それで、村に戻ろうとしたら、ギルドに連絡が入ったよ。開拓村がグリフォンに襲われて、全員死んだって」
チッケは思ったんだ。
自分が温かいご飯を食べている間に、村人が襲われていたと。
もしも、自分が誘いを断って、村に戻っていたら。
当然、チッケは理解している。自分ひとりが村にいたとしても、誰も助けることなんてできないと。
それどころか、自分が無駄死にするだけだったと。
でも、そう思わずにはいられなかったのだ。
「もしかしたら、師匠が倒したグリフォンが、この村を襲ったグリフォンだったのかな。だとしたら、みんな喜んでくれるかな」
「……みんな喜んでくれるとしたら、チッケが元気にこの村に来てくれたことだよ」
「え?」
「だって、村の人はチッケを家族みたいに思ってくれていたんだよな? ならば、チッケが久しぶりに帰ってきて、元気な姿を見せてくれたんだ。絶対に喜んでいるに決まってるだろ?」
「……そう……だったらいいな」
チッケはそう言って、手を合わせてほほ笑んだ。
その日は村にある納屋に泊まることにした。
この村には井戸はないため、近くの川で水を汲んで、広場で火を熾し、そこで煮沸させて使う。
「納屋かぁ……まぁ、馬小屋よりはマシなのかな」
「師匠。グリフォンが出る可能性のある村では、絶対に馬小屋で寝たらダメだぞ」
「そうなのか? 逃げる時にも馬に乗ったら逃げきれるかもしれないと思うけど」
「グリフォンは馬が大好物なんだ。だから馬に乗って逃げたら真っ先に狙われるよ。ことわざでも言うだろ?『馬に乗ってグリフォンから逃げる』って」
そんなことわざは知らない。
きっと、愚かな行動という意味のことわざなのだろう。
鍋を煮沸させている横で、昨日焼いて食べた分と雑貨屋の店主に渡した分を除いた残りのグリフォンの肉を串に刺して焼く。
「そうだ、ちょっと待ってて」
チッケはそう言うと、近くの崩れた家の中に入っていき、一つの赤みがかった黒い石を持って戻ってきた。
その石をカリカリとナイフで削り、削りカスを肉にかけた。
「それ、もしかして岩塩?」
「ああ。家にあったのをもらったんだ。ある場所は知ってたから」
味付けは塩だけだったけれど、疲れた体に塩気はありがたく、俺はグリフォンの肉に舌鼓を打った。
残りの肉は腐ったら怖いので、捨てることにしようかな。
チッケはまだ食べられると言ったけれど、食中毒は怖いからと言ったら、彼女はしぶしぶ納得してくれた。
食料は携帯食料がまだ十分あるからね。
「……あぁ……それに、新鮮な肉なら直ぐに手に入るから」
俺はそう言ってナイフに闘気を纏わせた。
こっちに近付いてくる獣の気配を感じたからだ。
しかも、グリフォンにも勝ると劣らぬ大きさ。
恐らく、魔物の一種だろう。
「あ……」
チッケがその魔物の姿を見て、驚愕した。
俺も驚いた。
「グリフォンか……もしかして、こっちが村を滅ぼした……」
「違うよ、師匠。こいつはグリフォンじゃないよ」
「え?」
「身体の部分が獅子じゃなくて馬だろ?」
見ると、確かに体は馬みたいだった。
頭より下は茶色いペガサスみたいだ。
「あれはヒッポグリフ――グリフォンと雌馬の間に生まれた魔物だよ」
「……グリフォンと馬の混血児ってことか。おいおい、馬ってグリフォンの餌じゃなかったのか」
なにをどう間違えたら食べる側と食べられる側の間に子供ができるんだ?
「ちなみに、ヒッポグリフは馬みたいに草食だったりするのか?」
「好きなのは馬肉と人肉だって聞くけれど――」
……馬の子のくせに馬肉食べるのかよ。
そして――と俺は手元の肉を見る。
「どうやら、グリフォンの肉に釣られてやってきたみたい」
……肉ならなんでもいいのか。
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