姉さん(神)に育てられ、異世界で無双することになりました

トキノサエズリ

力の差を見せつけた

 とはいえ、ここで大暴れしたり、殺したりしたらリディーさんにも迷惑がかかるよな。
 さて、どうしたものか。

「バッカ・スホーさん! 冒険者ギルド内での乱暴行為は禁止です! あなた、謹慎期間が解けたばかりでしょ! なにをやってるんですか」

 リディーさんが注意を入れる。他の職員は逃げ腰なのに、かなり強気な姿勢だ。
 この男、前にも問題を起こしていたらしい。
 
「あぁん、うるせぇよ。俺がちょっと休んでる間にこういうクズが冒険者になっていることが気に食わねぇんだ」
「他の冒険者が持ってきた素材を横取りしていい理由にはなりません。ここにいるふたりは私が審査を行い、冒険者としてふさわしい素質を持つと認めたれっきとした冒険者です。それより、冒険者の名を汚しているのはいまのあなたのふるまいです」
「なんだとっ! もういっぺん言ってみろっ!」
「俺が代わりに言ってやるよ。冒険者の名を汚してるのはあんただ……ええと、バカカスアホだったか?」
「バッカ・スホーだっ!」
 殴りかかってくる男の拳を少し軽く払いのけ、俺は部屋の隅に置いてあった樽を持ち上げ、床に置いた。
 後ろから息を飲む音が聞こえてきた。
「なぁ、俺と勝負しないか?」
 俺はそう言って、樽の上に肘を置いた。
 それだけで、俺がどんな勝負を持ちかけようとしているのかわかるだろう。
「腕相撲で勝負だ。俺が負けたら、そうだな。俺が持ってきたグリフォンの素材を全部あんたにやるよ。ついでに銀貨を十枚つけてやってもいい。ただし、あんたが負けたら、今回の騒ぎの責任をしっかり償って、チッケとリディーさんに謝れ」
「――よし、いいだろう」
 男は俺の挑発にいとも簡単に乗った。
 俺に負けるなんて微塵も思っていないようだ。
「やめてください、テンシ様! 彼はランク13の冒険者、腕力だけならこの町でも屈指の実力者です」
「大丈夫です、腕相撲は腕力だけじゃありませんから」
「ガハハ、その通りだ。腕相撲は腕力だけじゃない」
 男はそう笑った。
 いつの間にか輪になるように集まった観客の中心で、俺と男が手を合わせる。
(……こいつ)
 どうやら、男も、完全な馬鹿ではないらしい。
 握り方、姿勢、指の位置まですべて腕相撲の攻略法に乗っ取っている。圧倒的な有利を確信しながらも、それでも負ける可能性を失くそうとしている。
「獅子は兎を狩るにも全力を尽くすってところか」
「そいつはいい言葉だな。なるほど、俺様が油断していたところを一気に攻めるつもりだったようだな。おい、誰か、審判を頼む」
 男が周りの観客に声をかけた。
 すると、人の壁の奥から声が聞こえた。
「私がしよう」
 そこに現れたのは、黒衣を纏った金色の髪の美女だった。服が真っ黒なだけに白い肌が一際透けているように見える。耳が尖っているのが特徴的だ。
「エルフの嬢ちゃんか。まぁいい。頼む」
 エルフ。
 ファンタジー小説でおなじみのエルフか。
 クラ・トーラス語を学んでいたとき、教科書代わりに使っていた物語が全部ファンタジー小説だったのは、この世界がファンタジーっぽい世界だからか。グリフォンという言葉もその小説の中で学んだんだし。てっきり、ハ〇ポタで英語を学ぶみたいな感じで子供に飽きさせないように、ファンタジー小説を使っているんだと思った。
「準備はいいかい?」
 エルフの美女が尋ねたので、俺は頷いた。
 男も頷く。
「では、はじめっ!」
 美女がそう宣言した直後、俺は体内の闘気を高めた。
 そして――
「ぐあぁぁぁっ!」
 男の腕があらぬ形に曲がり、その体は床板を割ってめり込んでしまった。
「バカカスアホさん、自分が獅子だって勘違いしてなかった? 残念だが、獅子は俺のほうだよ」
「腕が、腕が」
「おい、聞いてるのか……はぁ、腕が痛いなら治療してやるぞ」
「た、頼む、治してくれ」
「その前にチッケとリディーさんに謝れ」
「わ、悪かった。俺が悪かったよぉぉ」
 涙を流して許しを請う男を見て、チッケとリディーさんにこれでいいか尋ねた。
「師匠がいいというのなら、おいらは問題ないよ」
「私もです。ただし、壊れた床板の弁償はしてもらいますからね」
「払う、払うからっ!」
「よし、いいだろ」
 俺は男の腕を掴み、思いっきり曲げた。
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 今日一番の絶叫だ。
 当然これだけでは治らない。骨が折れてるし。
 闘気を少し送り、折れた骨をくっつける。
「ほら、治ったぞ。ちゃんと床板の修理代払えよ。あと、次はないからな」
「わ……わかった……わかりました」
 化け物を見るような目で、男は何度も頷いた。
 俺は樽を元の位置に戻し、男には床に散らばったグリフォンの羽を集めさせることにした。先ほどまでの威勢は消し飛び、男は小さくなってグリフォンの羽を一枚一枚集めている。
「個人について詮索するのはダメなのですが……テンシ様、あなたは一体」
 リディーさんが尋ねた。
「ただの旅人ですよ。それより、依頼はありますか? 手っ取り早くランクが上がるような依頼があればいいんですけど」
 リディーさんに尋ねると、彼女は目を閉じて逡巡させた。
 そして――
「こちらへどうぞ」
 俺は再び奥の部屋に案内された。
 今回はチッケも一緒についてきた。
 バカカスアホがグリフォンの羽を持ち逃げするということはないだろう。

「私からの指名依頼として、テンシ様にお願いしたい依頼があります。それを達成していただければ、特例のランクアップ申請を上司に掛け合いましょう」
「本当ですか? その依頼って」
「東に三本角のオーガが現れ、開拓村の住民七人が攫われるという事件がありました。これまで三組の冒険者がオーガ退治と救出任務を受けましたが誰一人帰って来ていません。結果、救出の依頼は打ち切られました」
「全員見捨てたってことですかっ!?」
「冒険者ギルドとしてもこれ以上の犠牲を出すことはできないという判断です」
 あれ? でも、矛盾がないか?
「なぁ、救出依頼が打ち切られたのなら、なんで師匠にその依頼が回ってきたんだ?」
 チッケが尋ねた。
 そうだ、そこが矛盾する。
「実は、その帰ってこない冒険者の一人というのが、私の姉なのです」
「リディーさんの!?」
「はい。上司に懇願しても、助けに行ける冒険者は誰もいないの一点張りで。姉さんはもう死んでいるだろうから諦めろって。でも、姉さんがそう簡単に死ぬとは思えません。どうか、お願いします、テンシ様。私の……私の姉を助けてください。私にできることならなんでも――本当になんでもしますから」
 リディーさんは震える声で言った。
 本当はギルドの職員としては許されない行為なのだろう。
「……師匠」
 チッケが心配そうに俺を見た。
 まぁ、問題ない。
「わかりました。その依頼、俺が引き受けます。だから泣かないでください」
「本当に……引き受けてくれるのですか?」
「はい。美人になんでもしますって言われて引き受けない男はいないですから」
 俺は冗談めかしてそう言って笑った。
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