姉さん(神)に育てられ、異世界で無双することになりました
冒険者ギルドに行った
個人カードについてはあまり他人《ヒト》に見せないようにしないといけないと決め、俺とチッケは冒険者ギルドへ行く必要があった。
そこまで行くことで、チッケの依頼はひとまず完了したことになる。
だが、その前に俺たちにはするべきことがあった。
「師匠、おいら、もう我慢できない」
「チッケ、そんなにがっつくなって」
「で、でも。おいら、初めてだからさ」
「俺だって初めてだよ」
「そっか……おいらたち、初めて同士なんだな」
チッケが笑みを浮かべた。その笑みは女の子らしい柔和な笑みで、彼女を男だと思っていた自分の見る目がなかったのだと改めて思った。
それにしても、ここまで喜んでもらえるとは思わなかった。
町の普通のレストランでの食事なのに。
冒険者ギルドに行く前に、腹を満たすため、俺はチッケに、銀貨一枚で二食分腹いっぱいご飯を食べられる場所を尋ねたところ、この店を紹介された。
この世界での初めてのレストランだが、チッケにとっても初めてだそうだ。
俺が思っている以上に、銀貨の価値は高いのだろうか? それともチッケが思っている以上に貧乏なのかはわからない。
大通りの脇に並べられたテーブルセットの椅子に座り、ウェイターに料理を注文する。内容はチッケに任せた。
前払いのため、ウェイターに銀貨を一枚渡すと、お釣りとして銅貨が十七枚返ってきた
代金は銅貨三十三枚と言っていたから、銅貨五十枚と銀貨一枚が等価なのだろう。
銅貨がいくらほどの価値があるのかは、今後検討が必要だな。
運ばれてきた料理は、スープとパン、グラタンみたいなもの、そして川魚の焼き魚だった。それぞれ二人前ある。
肉はない。
「し、師匠。たべていいか?」
「ああ、一緒に食べよう」
俺が許可を出すと、チッケは“いただきます”もせずにパンをスープに浸して食べた。パンは普通に柔らかく、そして独特な甘みがある。酵母の甘味というのだろうか? 薄塩味のスープに浸してもおいしかったが、このまま食べてもおいしかった。
グラタンだと思っていたのは、マッシュポテトを焼いたものらしい。
スプーンはないと食べにくそうだが、チッケを見るとパンをスプーン変わりにして食べていたので、そのように食べるのだろうと理解した。パンがまだ残っていてよかった。
こっちも塩味が効いて美味しかったが、胡椒があればもっと美味しい気がする。胡椒はないのだろうか? 代わりに、焼き魚から出た油が使われているようだ。
その焼き魚は一番美味しかった。骨があって食べにくいが、うまい。
異世界というので料理にはあまり期待していなかったが、このくらいの味ならば十分に満足できる。
この世界の料理の食べ方は素手が基本なのか。
そう思っていたら、
「お客様、申し訳ありません。フォークとスプーンをお持ちするのを忘れておりました」
と先ほどのウェイターが慌ててやってきた。
チッケも驚いていたので、彼女が普段通っているお店では素手で食べるのが普通だったらしい。
……いらない恥をかいてしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
食事を終えた俺たちはレストランを後にした。
「師匠! おいら、師匠の弟子で本当によかったよ。一生師匠についていくよ」
いやいや、桃太郎のきび団子じゃないんだから、たかが昼食一回で一生ついてこられるような忠誠心を示されても困る。
「チッケ。冒険者ギルドはまだ先なのか?」
「もうここだよ」
「ここ?」
案内されたのは、二階建ての建物だった。
周囲の店よりもひときわ大きい木造の建物だ。
扉が開いており、中では何人かの客が丸テーブルを囲んで立っており、各々の飲み物を飲んでいる。大半の客はビールのようなお酒を飲んでいたので、酒場かと思った。
「ついてきて」
チッケに案内され、俺は奥のカウンターへと向かった。
カウンターのさらに奥にも部屋があり、書類の整理をしているようだ。
「チッケちゃん、おかえり」
そうチッケに声をかけたのは、俺と同い年くらいの少女だった。とても可愛らしい茶色いポニテの少女で、同じクラスにいたら、間違いなくクラスのマドンナと呼ばれていただろう。マドンナというには幼さは残っているけれど。
「ちゃんはやめてくれよ。それより、依頼達成したぜ」
チッケはそう言って、依頼書を取り出した。
「うん、じゃあ、確認するね」
そういって、受け付けの少女は俺を見て、笑顔で声をかけた。
「テンシ様で間違いありませんね」
「はい、間違いありません」
「個人カードを確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい」
俺は少し躊躇したが、個人カードを提出した。
個人カードを見た彼女は、少し驚いた顔をしたが、すぐに平静さを取り戻り、片眼鏡《モノクル》を使いカードを凝視した。
「確かに本物ですね」
え? 本物?
「わかるんですか?」
「はい、個人カードには特別な技術が使われていて、冒険者ギルドにはそれが偽造かどうか、さらにそのカードの所有者が半径十メートル以内にいるかどうかがわかる魔道具が存在します。これがその魔道具です」
そう言って、彼女は片眼鏡《モノクル》を差し出した。
そういえば、衛兵も同じような片眼鏡《モノクル》を持っていた。あれは視力が悪いのでもオシャレで着けているのでもなく、個人カードが本物かチェックしていたということか。
っていうことは、この個人カードも魔道具かなにかなのだろうか?
「テンシ様には、お姉様からの手紙を預かっています。こちらへついてきてください」
……姉ちゃん、当然のように冒険者ギルドに伝言残してるのか。
「師匠の姉ちゃんか。どんな人なんだ?」
チッケが尋ねた。
どんな人って……なんて答えたらいいんだろ?
強くて優しくて泣き虫で料理が上手な神様です。
……なんて言えるわけもないよな。
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だが、その前に俺たちにはするべきことがあった。
「師匠、おいら、もう我慢できない」
「チッケ、そんなにがっつくなって」
「で、でも。おいら、初めてだからさ」
「俺だって初めてだよ」
「そっか……おいらたち、初めて同士なんだな」
チッケが笑みを浮かべた。その笑みは女の子らしい柔和な笑みで、彼女を男だと思っていた自分の見る目がなかったのだと改めて思った。
それにしても、ここまで喜んでもらえるとは思わなかった。
町の普通のレストランでの食事なのに。
冒険者ギルドに行く前に、腹を満たすため、俺はチッケに、銀貨一枚で二食分腹いっぱいご飯を食べられる場所を尋ねたところ、この店を紹介された。
この世界での初めてのレストランだが、チッケにとっても初めてだそうだ。
俺が思っている以上に、銀貨の価値は高いのだろうか? それともチッケが思っている以上に貧乏なのかはわからない。
大通りの脇に並べられたテーブルセットの椅子に座り、ウェイターに料理を注文する。内容はチッケに任せた。
前払いのため、ウェイターに銀貨を一枚渡すと、お釣りとして銅貨が十七枚返ってきた
代金は銅貨三十三枚と言っていたから、銅貨五十枚と銀貨一枚が等価なのだろう。
銅貨がいくらほどの価値があるのかは、今後検討が必要だな。
運ばれてきた料理は、スープとパン、グラタンみたいなもの、そして川魚の焼き魚だった。それぞれ二人前ある。
肉はない。
「し、師匠。たべていいか?」
「ああ、一緒に食べよう」
俺が許可を出すと、チッケは“いただきます”もせずにパンをスープに浸して食べた。パンは普通に柔らかく、そして独特な甘みがある。酵母の甘味というのだろうか? 薄塩味のスープに浸してもおいしかったが、このまま食べてもおいしかった。
グラタンだと思っていたのは、マッシュポテトを焼いたものらしい。
スプーンはないと食べにくそうだが、チッケを見るとパンをスプーン変わりにして食べていたので、そのように食べるのだろうと理解した。パンがまだ残っていてよかった。
こっちも塩味が効いて美味しかったが、胡椒があればもっと美味しい気がする。胡椒はないのだろうか? 代わりに、焼き魚から出た油が使われているようだ。
その焼き魚は一番美味しかった。骨があって食べにくいが、うまい。
異世界というので料理にはあまり期待していなかったが、このくらいの味ならば十分に満足できる。
この世界の料理の食べ方は素手が基本なのか。
そう思っていたら、
「お客様、申し訳ありません。フォークとスプーンをお持ちするのを忘れておりました」
と先ほどのウェイターが慌ててやってきた。
チッケも驚いていたので、彼女が普段通っているお店では素手で食べるのが普通だったらしい。
……いらない恥をかいてしまった。
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食事を終えた俺たちはレストランを後にした。
「師匠! おいら、師匠の弟子で本当によかったよ。一生師匠についていくよ」
いやいや、桃太郎のきび団子じゃないんだから、たかが昼食一回で一生ついてこられるような忠誠心を示されても困る。
「チッケ。冒険者ギルドはまだ先なのか?」
「もうここだよ」
「ここ?」
案内されたのは、二階建ての建物だった。
周囲の店よりもひときわ大きい木造の建物だ。
扉が開いており、中では何人かの客が丸テーブルを囲んで立っており、各々の飲み物を飲んでいる。大半の客はビールのようなお酒を飲んでいたので、酒場かと思った。
「ついてきて」
チッケに案内され、俺は奥のカウンターへと向かった。
カウンターのさらに奥にも部屋があり、書類の整理をしているようだ。
「チッケちゃん、おかえり」
そうチッケに声をかけたのは、俺と同い年くらいの少女だった。とても可愛らしい茶色いポニテの少女で、同じクラスにいたら、間違いなくクラスのマドンナと呼ばれていただろう。マドンナというには幼さは残っているけれど。
「ちゃんはやめてくれよ。それより、依頼達成したぜ」
チッケはそう言って、依頼書を取り出した。
「うん、じゃあ、確認するね」
そういって、受け付けの少女は俺を見て、笑顔で声をかけた。
「テンシ様で間違いありませんね」
「はい、間違いありません」
「個人カードを確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい」
俺は少し躊躇したが、個人カードを提出した。
個人カードを見た彼女は、少し驚いた顔をしたが、すぐに平静さを取り戻り、片眼鏡《モノクル》を使いカードを凝視した。
「確かに本物ですね」
え? 本物?
「わかるんですか?」
「はい、個人カードには特別な技術が使われていて、冒険者ギルドにはそれが偽造かどうか、さらにそのカードの所有者が半径十メートル以内にいるかどうかがわかる魔道具が存在します。これがその魔道具です」
そう言って、彼女は片眼鏡《モノクル》を差し出した。
そういえば、衛兵も同じような片眼鏡《モノクル》を持っていた。あれは視力が悪いのでもオシャレで着けているのでもなく、個人カードが本物かチェックしていたということか。
っていうことは、この個人カードも魔道具かなにかなのだろうか?
「テンシ様には、お姉様からの手紙を預かっています。こちらへついてきてください」
……姉ちゃん、当然のように冒険者ギルドに伝言残してるのか。
「師匠の姉ちゃんか。どんな人なんだ?」
チッケが尋ねた。
どんな人って……なんて答えたらいいんだろ?
強くて優しくて泣き虫で料理が上手な神様です。
……なんて言えるわけもないよな。
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