姉さん(神)に育てられ、異世界で無双することになりました
なんか凄いカードだった
俺とチッケは東に進んだ。
本当ならば、太陽が沈む前には東にある町に到着するはずだったけれど、グリフォンの羽を毟ったり、嘴を切るのに時間がかかった。
チッケが言うには、グリフォンのこれらの素材はとても高値で買い取られるそうだ。
結果、俺とチッケは草原のど真ん中で野宿することになった。
夕食はグリフォンの肉を焚火で焼いて食べた。
味は鶏肉より牛肉や豚肉に近い。体は獅子だったから仕方がないか。
「なぁ、師匠。一緒に寝ようぜ」
「寝ない。俺は大丈夫だ」
チッケが言う寝るとは、エッチな意味ではなく文字通り睡眠という意味なのはわかっている。だが、毛布が一枚しかないうえ、チッケが女の子であると分かった以上、さすがに一緒に寝るわけにはいかないと思う。
「なんだよ。おいら、別に気にしないのに」
チッケはそう言いながら、岩の上に陶器の器を置き、中に何かを入れる。
泥団子?
「チッケ、それはなに?」
「ん? あぁ、これはミントの精油から作った蝋燭だよ」
蝋燭? 蝋燭って白いイメージがあるけれど、茶色い塊だ。
煙には虫よけの効果があるらしい。
チッケが言うには、手作りで不純物が混ざってしまったので、かなり汚くなったけれど効き目は抜群なのだそうだ。
イメージ的に、虫は光に集まってきそうな気がする……と思ったけれど、蚊取り線香みたいなものだろうか?
「あ、チッケ。火を点けるのちょっとだけ待ってもらっていいかな?」
「え? いいけど、でもなんでだい?」
「ちょっと、目に焼き付けておきたい物があってな」
俺はそう言って、夜空を見上げた。
「師匠、空なんて見てどうしたんだ?」
チッケも空を見て、首を傾げた。
そう、彼女にはわからないだろう。
彼女にとって、この空は日常のなかにあるいつもの空だから。
でも、俺にとっては違う。
この満点の星空――俺にとってはまさに非日常。
グリフォンと戦ったときよりも、これはまさに異世界だった。
「綺麗な夜空だ」
こんなきれいな世界を壊したくない。
俺は決意を新たに、チッケに頼んで蝋燭に火を点してもらった。
※※※
チッケの蝋燭は朝にはすっかり燃え尽きていた。
不純物が多いので、陶器の中は燃えカスが結構残っていたが、チッケはそれをその辺にばらまいて、拭きもせずに捨てた。タバコの吸い殻を道に捨てているようで気分がいいものではないけれど、まぁ、彼女が作った蝋燭の材料を聞く限りにおいては、自然のものだけを使っているので、ただの植物の灰と土のようなものだから、このくらいの量なら肥料にはなっても毒になることはないだろうと結論付けた。
朝食は、チッケが届けてくれた荷物にあった乾パンを食べた。チッケも同じような携帯食を持っていたので、一つ交換したのだが、チッケは俺の乾パンの甘味に驚き、俺はチッケが食べていた携帯食のまずさに驚いた。
えぐみが口の中に広がり、水で流し込んでも気持ち悪い。
なんとか顔に出さないように努力し、チッケには、
「なかなか面白い味だな」
とだけ表現しておいた。
「師匠にそう言ってもらえてうれしいよ」
というチッケの笑みを見て、不味かったとは絶対に言えないと思った。
それから時間が経過し、昼前には町に辿り着いた。
町は大きな壁に覆われていた。日本ではあまり見ないけれど、中国や西洋ではこういう城塞都市が多かったと聞く。
昼飯は町の中で食べられそうだ。
……普通に町の中に入ることができれば。
「これって、あれの順番待ちだよな」
「うん、町に入るための審査の順番待ち。大丈夫だよ、荷馬車でも持っていない限り、個人証を出せばすぐに終わるから」
チッケが出したのは、一枚のカードだった。
それに見覚えがあった。
チッケが預かっていた、姉ちゃんからの荷物に入っていたカードだ。やっぱりこれが身分証だったのかと、少し安堵した。
列に並び、順番を待つ。
どうやら、審査は二カ所あり、一カ所目では身分証を調べ、二カ所目では手荷物の検査が行われているらしい。
チッケは俺に先を譲ろうとしたが、俺は断固として彼女に先を譲ることを譲らなかった。彼女を手本にしようと思ったのだ。
そして、俺たちの順番が回ってきた。
「ご苦労さん」
チッケは気安く、衛兵と思われる甲冑を着た片眼鏡《モノクル》の男に声をかけ、身分証を見せた。
問題ないようなので、衛兵は何も言わない。
どうやら問題ないようだ。
次は俺の番なので、衛兵にカードを見せた。
「なっ!」
衛兵は俺のカードを見て驚きの表情を浮かべ、そして言った。
「どうぞ、こちらへっ!」
「え? えっと――」
「どうぞ。長旅ご苦労様です」
「えぇ……」
「し、師匠?」
「お付きの方もどうぞ一緒にどうぞ」
なにがなんだかわからないが、俺は衛兵に言われるがままに案内された。
並んでいる人の横を通り過ぎ、さらには手荷物検査もスルーして町の中に入った。
一体全体、なにがどうなっているのかまったくわからない。
チッケも同じようだ。少し震えている。
もしかして、このまま牢屋にでも連れていかれるのだろうか?
なんて思いもしたが、俺たちはすんなり解放された。
「テンシ様、なにかございましたらいつでも近くの衛兵にご連絡ください。可能な限り協力させていただきます」
と優しい言葉とともに。
「師匠、もしかして師匠は貴族様なのか!?」
「い、いや、そんなわけないよ。これにもそんなことは何も書いてないし」
「本当に? って……し、師匠っ! そ、それ……っ!」
「どれ?」
「師匠のカード、上級個人カードじゃないかっ!?」
「上級?」
「ほら、師匠のカードのここ!」
カードの左上に模様をチッケが指さす。
そこに描かれていたのは、十芒星《デカグラム》の模様だった。
「一、二、三……え!? 十っ!? 師匠って十級国民だったのっ!?」
「十級? なんか低そうだな」
「低そうって、聖王国が証明する身分の中でも最上位の称号だよっ! 王族とか、領地を持っている最上級の貴族、勇者様くらいの人にしか発行されないカードなんだ」
「なっ!?」
姉ちゃん、なんてカードを用意したんだ。
まさか、偽造カードじゃないだろうな……そんなのバレたら死刑になるぞ。
「師匠、十級カードについて知らないって……もしかして」
「ギクっ」
「きっと山奥で修行していた勇者様なんだなっ!」
チッケはそう言って、なにか勝手に納得してくれた。
……そういえば、さっきも勇者がどうのこうのって言っていた気がするけど。
勇者か……本当にそんな人がいるのなら、異世界βからの侵略者を倒してくれよ。
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本当ならば、太陽が沈む前には東にある町に到着するはずだったけれど、グリフォンの羽を毟ったり、嘴を切るのに時間がかかった。
チッケが言うには、グリフォンのこれらの素材はとても高値で買い取られるそうだ。
結果、俺とチッケは草原のど真ん中で野宿することになった。
夕食はグリフォンの肉を焚火で焼いて食べた。
味は鶏肉より牛肉や豚肉に近い。体は獅子だったから仕方がないか。
「なぁ、師匠。一緒に寝ようぜ」
「寝ない。俺は大丈夫だ」
チッケが言う寝るとは、エッチな意味ではなく文字通り睡眠という意味なのはわかっている。だが、毛布が一枚しかないうえ、チッケが女の子であると分かった以上、さすがに一緒に寝るわけにはいかないと思う。
「なんだよ。おいら、別に気にしないのに」
チッケはそう言いながら、岩の上に陶器の器を置き、中に何かを入れる。
泥団子?
「チッケ、それはなに?」
「ん? あぁ、これはミントの精油から作った蝋燭だよ」
蝋燭? 蝋燭って白いイメージがあるけれど、茶色い塊だ。
煙には虫よけの効果があるらしい。
チッケが言うには、手作りで不純物が混ざってしまったので、かなり汚くなったけれど効き目は抜群なのだそうだ。
イメージ的に、虫は光に集まってきそうな気がする……と思ったけれど、蚊取り線香みたいなものだろうか?
「あ、チッケ。火を点けるのちょっとだけ待ってもらっていいかな?」
「え? いいけど、でもなんでだい?」
「ちょっと、目に焼き付けておきたい物があってな」
俺はそう言って、夜空を見上げた。
「師匠、空なんて見てどうしたんだ?」
チッケも空を見て、首を傾げた。
そう、彼女にはわからないだろう。
彼女にとって、この空は日常のなかにあるいつもの空だから。
でも、俺にとっては違う。
この満点の星空――俺にとってはまさに非日常。
グリフォンと戦ったときよりも、これはまさに異世界だった。
「綺麗な夜空だ」
こんなきれいな世界を壊したくない。
俺は決意を新たに、チッケに頼んで蝋燭に火を点してもらった。
※※※
チッケの蝋燭は朝にはすっかり燃え尽きていた。
不純物が多いので、陶器の中は燃えカスが結構残っていたが、チッケはそれをその辺にばらまいて、拭きもせずに捨てた。タバコの吸い殻を道に捨てているようで気分がいいものではないけれど、まぁ、彼女が作った蝋燭の材料を聞く限りにおいては、自然のものだけを使っているので、ただの植物の灰と土のようなものだから、このくらいの量なら肥料にはなっても毒になることはないだろうと結論付けた。
朝食は、チッケが届けてくれた荷物にあった乾パンを食べた。チッケも同じような携帯食を持っていたので、一つ交換したのだが、チッケは俺の乾パンの甘味に驚き、俺はチッケが食べていた携帯食のまずさに驚いた。
えぐみが口の中に広がり、水で流し込んでも気持ち悪い。
なんとか顔に出さないように努力し、チッケには、
「なかなか面白い味だな」
とだけ表現しておいた。
「師匠にそう言ってもらえてうれしいよ」
というチッケの笑みを見て、不味かったとは絶対に言えないと思った。
それから時間が経過し、昼前には町に辿り着いた。
町は大きな壁に覆われていた。日本ではあまり見ないけれど、中国や西洋ではこういう城塞都市が多かったと聞く。
昼飯は町の中で食べられそうだ。
……普通に町の中に入ることができれば。
「これって、あれの順番待ちだよな」
「うん、町に入るための審査の順番待ち。大丈夫だよ、荷馬車でも持っていない限り、個人証を出せばすぐに終わるから」
チッケが出したのは、一枚のカードだった。
それに見覚えがあった。
チッケが預かっていた、姉ちゃんからの荷物に入っていたカードだ。やっぱりこれが身分証だったのかと、少し安堵した。
列に並び、順番を待つ。
どうやら、審査は二カ所あり、一カ所目では身分証を調べ、二カ所目では手荷物の検査が行われているらしい。
チッケは俺に先を譲ろうとしたが、俺は断固として彼女に先を譲ることを譲らなかった。彼女を手本にしようと思ったのだ。
そして、俺たちの順番が回ってきた。
「ご苦労さん」
チッケは気安く、衛兵と思われる甲冑を着た片眼鏡《モノクル》の男に声をかけ、身分証を見せた。
問題ないようなので、衛兵は何も言わない。
どうやら問題ないようだ。
次は俺の番なので、衛兵にカードを見せた。
「なっ!」
衛兵は俺のカードを見て驚きの表情を浮かべ、そして言った。
「どうぞ、こちらへっ!」
「え? えっと――」
「どうぞ。長旅ご苦労様です」
「えぇ……」
「し、師匠?」
「お付きの方もどうぞ一緒にどうぞ」
なにがなんだかわからないが、俺は衛兵に言われるがままに案内された。
並んでいる人の横を通り過ぎ、さらには手荷物検査もスルーして町の中に入った。
一体全体、なにがどうなっているのかまったくわからない。
チッケも同じようだ。少し震えている。
もしかして、このまま牢屋にでも連れていかれるのだろうか?
なんて思いもしたが、俺たちはすんなり解放された。
「テンシ様、なにかございましたらいつでも近くの衛兵にご連絡ください。可能な限り協力させていただきます」
と優しい言葉とともに。
「師匠、もしかして師匠は貴族様なのか!?」
「い、いや、そんなわけないよ。これにもそんなことは何も書いてないし」
「本当に? って……し、師匠っ! そ、それ……っ!」
「どれ?」
「師匠のカード、上級個人カードじゃないかっ!?」
「上級?」
「ほら、師匠のカードのここ!」
カードの左上に模様をチッケが指さす。
そこに描かれていたのは、十芒星《デカグラム》の模様だった。
「一、二、三……え!? 十っ!? 師匠って十級国民だったのっ!?」
「十級? なんか低そうだな」
「低そうって、聖王国が証明する身分の中でも最上位の称号だよっ! 王族とか、領地を持っている最上級の貴族、勇者様くらいの人にしか発行されないカードなんだ」
「なっ!?」
姉ちゃん、なんてカードを用意したんだ。
まさか、偽造カードじゃないだろうな……そんなのバレたら死刑になるぞ。
「師匠、十級カードについて知らないって……もしかして」
「ギクっ」
「きっと山奥で修行していた勇者様なんだなっ!」
チッケはそう言って、なにか勝手に納得してくれた。
……そういえば、さっきも勇者がどうのこうのって言っていた気がするけど。
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