憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-
最終試練 その壱
「さ、サキ……、おまえ、もしかして気づいて――」
「なーんてね」
「……は?」
「そういう昔ばなしもあったよねー、って話。懐かしいなぁ」
「な、なんだよ……、驚かせやがって……」
「ん? なんでルーちゃんがそんなに驚いてんの?」
「いや、そりゃおまえ……、急に変なこと言うからだろ、元から酷かったポンコツ具合が、さらに悪化したのかと思ったんだよ」
「えー? なにそれー? ひっどー」
サキはそう言いながら、クスクスと笑ってみせた。
「んーまあ、でもさ。それだとしても、別にアリかなって」
「……なにが?」
「だから、ルーちゃんがじつはルーちゃんじゃない、別人格だったって話」
「……仮にだけど、もし、それが本当で、オレがルーシーじゃなかったら、どうするんだよ?」
「どうもしないよ?」
「え?」
「うん、どうもしない。べつにサキちゃん、外見とか気にしないもん。サキちゃんが好きになったのは、あくまでもサキちゃんの目の前にいるあなた。それが仮にルーちゃんじゃなかったとしても、サキちゃんはきっと、あなたを好きになると思う」
「……それが、男だとしてもか?」
「男? えー? なんでそこで男が出てくんのー? ルーちゃんほんと、どうしちゃったのさー」
「………………」
「むぅ……。いつになく、真剣ってかんじ? ……じゃあ、こっちも真剣に答えるけどさ、さっき言った通りなんだけど、それは関係ないよ。……ていうか、むしろ、それがもし男の人だったら……、嬉しいまであるんじゃない、かな?」
「ま……まじかよ……」
「うん。いくら外見にこだわらないっていっても、やっぱり男と女ってどうしても違ってくるからね。もちろん女の子で、年下で、かわいいかわいいルーちゃんは好きだよ? だけど……さ? やっぱり、いくら好きでも、できることって限られてくるしさ。あーあ、男勝りなルーちゃんがほんとに男の子だったらな……って、思ったことはある……かな? ……て、なんだこれ、恥ずいな……なんでこんなこと言わせてんの……」
サキはくるっとその場で反転すると、タカシに背を向けた。
さきほどの発言がよほど恥ずかしかったのか、林檎のように紅潮した頬を冷ますように、手でパタパタと扇いでいる。
『な、なんか、わたしも恥ずかしくなってきました……』
「お、オレも……」
『ったく、なんでタカシさんはそんな質問したんですか? サキさんに惚れちゃったんですか?』
「いや、特別理由はないけど、なんか知りたくて……」
『そういうどっちつかずっていうか、煮え切らない態度、止めたほうがいいですよ。ハッキリ言って、迷惑この上ないですからね。とまあ、ここまで言っておいてなんですが、どのみち、それはわたしの体ですので、女性と恋仲なんて発展しても、許さないんですけどね。パパはそんな子との交際なぞ、反対だ!! って、つき返してやりますとも』
「うるせーな。そんなんじゃねえって言ってんだろ。……とりあえず、試練はこれで終わりかな?」
「ど、どうだろね? さっきの女の子、出てきてないみたいだけど……あ、ところでさ、サキちゃん、どうよ? 強くなってたっしょ?」
「ああ……、てか成長しすぎだろ。これがもし味方じゃなくて、敵だったら、早いうちに確実に処理してたな」
「コワッ!? なんてこと言うんだ、このルーちゃんは」
「まあまあ、それくらい頼もしいってことだよ。おまえを連れてきてよかった」
「ふ~ん。それって、もしかして、プロポーズってやつ? 謹んでお受けさせていただきます!!」
「ちがうわ! ……てか、ほんとになんも起きねえな……寝てんじゃねえだろうな」
「あれじゃない? 二階に上がってこい的な感じなんじゃないかな?」
「あー……、あるかもな。たしかに階段があるしな。とりあえず、上ってみるか」
「おうよ!」
◇
爽やかな、それでいて少しだけ乾燥した風がふたりの頬を撫でる。
宮殿の大階段を上がった二人の目の前に広がるは、広大な草原。
草原はの草は陽の光を照り返し、健康的に青々と茂っている。
「な、なんで……屋外?」
「はぁ……、まじでなんでもありかよ……」
「第一の試練、突破したのね。おめでとう」
「うわあ!? なんて恰好してんだ! おまえ!」
突如として、タカシとサキの目の前に少女が現れる。
少女は動物の毛皮のみを身に纏っており、さきほどとは打って変わり、開放的になっていた。
そして頭には相変わらず、白い猫がちょこんと、大人しく座っている。
「これがここの正装よ。あなたも着てみる?」
「……いや、それよりも今おまえ、第一って言ったか? もしかして、このふざけた試練って――」
「ええ、まだ続くわ。……それに、いまふざけたって言われたから、さらなる試練も模索しているわ」
「試練って、おまえが考えてるのかよ」
「……失言だったわね。今のは忘れなさい。これはお願いではないわ、命令よ」
「なんでだよ!」
「じゃあお願いするわ。忘れてくださいませんか?」
「……そういう問題か?」
「頭下げてることだし、忘れてあげようよルーちゃん」
「……そういう問題か?」
「では、忘れてくれたみたいだから、試練のその弐を開始するわね」
「第一試練ときたから、第なんとか試練って統一してると思ったけど、そうじゃないんだな」
「……第二試練、開始するわね」
「あ、訂正した」
「やかましいわね。細かいのよ、いちいち」
「……それで、第二はなんなんだよ。もしかして、ここでサバイバルでもしろとか言わねえよな?」
「なるほど、それもいいわね……」
「おいおい、まじかよ……」
「冗談よ。試練は予め決められているの。アタシはただその通りに進めていけばいいだけ。……ちなみに、次の試練のヒントは、この草原よ」
「ヒントとかいいから、さっさと内容を教えろ。無駄に先延ばししてんじゃねえ」
「呆れた。遊び心のないアヴェンジャーだこと」
「……なんで、アヴェンジャー?」
「なんでって、地上世界から天界に行く者のことは、こう呼ぶからよ」
「もしかして、パッセンジャーじゃねえの?」
「……呆れた。遊び心のないパッセンジャーだこと」
「さり気なく言い直してんじゃねえよ! こっちが逆に呆れるわ! ほんとポンコツだなおまえ」
「失敬ね。アタシ、こう見えてすごいのだから」
「なにがだよ」
「遊び心よ」
「必要かよ!!」
「ええ、そりゃもう」
「……例えば?」
「さて、第二試練の内容だけれど――」
「話をそらしやがった」
「クイズということにさせてもらうわ」
「しかも草原全く関係ねえ!」
「ところがどっこい、関係あるのよこれが」
「どっこいって……。それで? どう関係あるんだよ」
「あなた、開放的な場所は好きかしら?」
「ん? まあ、閉塞的な場所と比べると、開放的な場所のほうが好きだけどな」
「そうね。こういった開放的な場所でするクイズって、とても気分が良とおもわない?」
「気持ちの問題かよ!」
「よっこらしょ」
少女は草原に腰を下ろし、どこからか本を取り出していた。
本の表紙には「よい子のなぞなぞ」と書かれている。
「……どうしたの? なにを見てるのかしら」
「いや、そんなのでいいのかなって……」
「どういう意味?」
「……いや、なんでもない。続けてくれ」
「言われなくても続けるわ。あなたちも座りなさい。疲れてるでしょ?」
少女に促され、タカシとサキは戸惑いながらも、その場に腰を下ろす。
「じゃあ、第一門いくわよ。えーっとなになに……犬派より猫派だ。ハイかイイエか」
「アンケートかよ! クイズですらねえじゃねえか! 持ってくる本、間違えてんだろ?」
「いいから答えなさい。あなたはどちらが好きなの?」
「いや、どっちでもいいんだけど……」
「ルーちゃん、ルーちゃん」
サキがこっそりと、タカシの肩を指でつつく。
タカシがそれに気がつくと、サキは少女の頭を指さしてみせた。
タカシは少女に気取られないように、サキに人差し指と親指とで輪を作り、サインを送った。
「猫……、ハイだ」
「あら、そうなの。奇遇ね」
「ああ、あんたもやっぱり猫が――」
「アタシは猫は嫌いなのだけれど」
「奇遇という言葉をご存知ですか?」
少女の頭上にいる猫は、あからさまに落胆の様相を浮かべている。
「次、第二門ね」
「あのな、さっきからそうだけど、そのボケ、だれも拾えねえからな?」
「暑いのと寒いのなら、暑いのが好きだ」
「……まあ、人間暑いのと寒いのなら、ある程度の寒さのほうが耐えられるからな」
「えー? サキちゃんは寒いほうが嫌だなー」
「……雪山でそんな恰好しておいて、よくそんなことが言えるな」
「あれはしょうがなかったじゃん。どこいくのか、わからなかったんだしさ」
「いやいや、どのみち普段からその、鎧とも水着ともとれない恰好してるほうがおかしいんだけどな……」
「もしもし? いまは試練中よ? 自覚を持ちなさい、自覚を」
「クイズ本持ってて、アンケート出してくるおまえにだけには言われたくねえよ……ノーだ。寒いほうが好き……もとより、マシだな」
「ふうん、そうなんだ。寒いほうなのね。では最後の質門、いくわね?」
「もう質問って言ってんじゃん……」
「剣と魔法。ロマンを感じるのは、剣である」
「なんだそれ……、たしかに魔法より剣のほうがロマンは感じるけど――」
「ハイかイエスか」
「どっちも同意じゃねえか! ……わかったよ、答えはハイだ。男は――こほん、女でも剣の武骨さや形状が好きなやつもいるからな」
「だいたいわかったわ。じゃあ、このまま最終試練に突入するけど、構わないわね? 構わないと鳴きなさい」
少女はすっと立ち上がると、タカシたちを見下ろしながら話した。
「構わない!!」
「そう、じゃあ少しの間――アタシが良いっていうまで目を閉じてなさい」
「? ああ、わかった……。てか、クイズってまじでアンケートだけだったのかよ……」
「なに? そんなにクイズがしたかったの?」
「いや、クイズでもなぞなぞでもなく、やったのはアンケートだったからな。なんつーか、モヤモヤするっつーか……」
「とんだ欲しがり屋さんね。じゃあ、即興で考えたクイズを提供してあげるわ。目を瞑りながら、答えなさい」
「いや、べつに要らないんだけど……」
「最初は四本足、次に二本足、そして最終的に三本足になる生き物。それは何?」
「有名なやつだな。人間だろ?」
「ぶぶぶのぶー。では、答えをどうぞ。目の前にその答えはあるわ」
そう促され、タカシとサキがそろそろと目を開ける。
草原はいつしか消え失せており、そこに広がるは極寒の極地。
ビュオウと吹きすさぶ風が、雪と氷を運び、タカシとサキの体から猛烈に体温を奪っていく。
ふたりの目前には、果てのない氷原が広がっていた。
そして、もうひとり、ひときわ目を引く存在が、ふたりに立ち塞がっていた。
筋骨隆々の大男。
その男は、白いサーベルタイガーのような動物の毛皮を羽織っていた。
顔はその被り物の牙によって隠れており、窺い知ることはできない。
しかし、その鋭い眼光は、牙の下からでもはっきりと見てとれた。
「答えは――アタシのペット、シロちゃんよ」
「んな、アホな……」
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