憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-

水無

剣豪vs騎士





 タカシの前に立ちふさがったのは、腰に刀を提げた、盲目の中年男。
 ドーラが団子屋にて、話していた主人だった。




「だれだ、おまえ」


「俺かィ? 俺ぁナニモンでもねェさ。重要なのは、なんで俺みたいなイカした・・・・おっさんがここにいるかってことだよ」


「なんで、おまえみたいなイカレた・・・・おっさんがここにいんだよ」


「ここかィ? ここで重要なのは嬢ちゃん、俺の素性を尋ねることだと思うんだがな」


「……バカにしてんのか?」


「ガッハッハッハ! んなこたァ、ねェよ! どっちも大事だし、どっちもくだらねェってこった!」


「ちっ、なんだこのおっさん……。で、何の用だよ。こんなところでオレに声かけやがって」


「嬢ちゃん、あんたアレだろ、天界に行きてェンだろ?」


「ッ!? まじで何者だおっさん。神龍の仲間か何かか?」


「いやいや、ンな大したヤツに見えるかい?」


「見えねえ」


「おいおい、社交辞令もなしかよ。おっさん、フツーに傷つくわ」


「雪山で加齢臭まき散らしておいて、社交辞令を気にしてんじゃねえ。さっさと消えるか、質問にだけ答えて消えろ。んで、なんで天界のこと知ってんだ」


「そりゃ知ってるさ。俺ぁ番人だからな」


「……はぁ? 番人?」


「そそ。嬢ちゃん龍空行きてェンだろ? 謎も解いたことだし、ここらで出血サービスとして、門でも開けてやろうかと思ってね。で、どうだい? 行くのかい? 行かねえのかい? どっちなんだい!」


「いーく!! ……じゃねえよ! ノせるな!」


「ンだよ、いかねえのかい」


「いや、行くさ。行きたいさ。だけど、ものスゲー胡散臭いんだよな」


「うーん、胡散臭いもなにもなァ……、おっさんなんかが嬢ちゃん騙しても、なんも得はねェしな」


「ウソつけ。年頃の乙女だぞ? 得がないどころか、むしろ得の塊だろうが。得が鎧を着て雪山這いずり回ってんだろうが」


「ほう、若ぇ声してると思ったが、まさかそこまで若ぇとはね。おっさん、ちょいとビックリしちまったよ」


「なんだおっさん、目、見えねえのか」


「ああ、昔色々とあってな。そン時に光、失くしちまったのよ」


「へぇ……、まあ、どーでもいいけど」


「おいおい、そりゃあねェンじゃねェの? おっさんフツーに傷つくわ。お嬢ちゃん、この短時間でおっさんを二回も傷つけて楽しいかい?」


「楽しいわけねえだろ。とりあえず、信用してほしいなら、名を名乗れ。職業を明かせ。そして、有り金全部おいていけ」


「おいおいおい、嬢ちゃんは追剥ぎかなんかかい。おっかないねえ。ま、いいか。おっさんの名は一刀斎。職業は道場の師範代から門の番人。最近は団子屋なんてやってるね」


「一刀斎……? どこかで聞いたことある名前だな」


「ほう、知ってるのかい」


「おまえは目じゃなくて、耳も聞こえねえのかよ。聞き覚えがあるってだけだ。知ってるわけじゃねえよ」


「白状しちまうとね、前までトバ国姫の師匠をやらせてもらってたンだよ」


「あ、そうか。たしかにテシがそんなこと言ってたな。なんだ、あんたかよ」


「うん? あんまし驚かねえみてェだな?」


「そりゃあな。べつに驚くほどのこともねえだろ。――そんなに隙がない感じで立たれたらよ」


「お? ガッハッハッハ! おもしれェ! 嬢ちゃんも武術の心得っつーモンがあンのかい? ったく、最近の婦女子はどうも武闘派が多くて嫌になるねえ……」


「それで? 盲目の団子屋さんは、オレを天界に連れてってくれんのか?」


「おおっと、勘違いしなさんな。だれも嬢ちゃんを連れて行かねェよ? ンなことしたら迷惑防止条例に引っ掛かって、牢屋にぶち込まれちまわぁな! ガハハハハ!」


「なにが面白いんだか……」


「いいか、俺ぁ鍵を開けるだけだ。……悪いが、そこまでする義理はねえからな。あくまで門番である以上は、中立ってやつなンだよ、コレが! ガッハッハッハ!」


「なんだよ、ならさっさと開けてくれるか? 生憎急いでるもんでな」


「いいぜいいぜ、開けてやるよ。おっさんはな、嬢ちゃんの為なら、いくらでも門、開けちゃう」


「下ネタかよ……」


「ただ、な。それが龍空に行くっつーんなら話は別になってくるわな」


「は?」


「いやなに、自殺志願者じゃねンだろ? 嬢ちゃんはさ。てか、たとえ自殺志願者だとしても、わざわざこんな回りくどい真似しねェわな」


「なに言ってんだ、おっさん」


「なァに、簡単なこった。天界へ行くのは結構。でも、龍空へ行くのは結構じゃねえってことだ。むざむざ嬢ちゃんを死なせるわけにゃ、いかねェからな。俺が許可したばっかりに、うら若き乙女が龍に食い殺された……なんて日にゃ、その日のおまんまが喉を通らねえってこった。それとも嬢ちゃん、おっさんを餓死させても、心が痛まないって言うのかい?」


「ああ、全く」


「かー! テキビシイ! やるねェ! その若さでおっさんの心を日に三度も抉ってくるなんてな。おっさん、明日からどんな顔で団子の粉コネたらいンだよ」


「知らねえよ。つか、そんな性格なら門番やめちまえ」


「それは無理な要望だァな。――さて、無駄話は終いだ。得物を構えな。おっさんに、嬢ちゃんの可能性ってのを見せつけてくれや。痛いほどの」




 一刀斎はゆらりと、刀を構えてみせた。




「ドエムの中年オヤジがカッコつけてんじゃねえぞ。そのケツにデケェ痔を刻み込んでやる」




 タカシはそう挑発すると、その場で少しくるりと回ってから、腰から黒刀を抜いた。




「残念ながら、おっさんすでに痔持ちでねえ。これ以上増やされたらたまったモンじゃねェからね。ちょいと抵抗させてもらうよ」


「ケツを出せ! 躾てやる!」


「ンなこと、嬢ちゃんに言われちまったら。興奮すだろがィ!!」




 タカシが大きく地面を蹴り、距離を詰める。
 一瞬にして一刀斎の目と鼻の先まで移動したタカシは、そのまま剣を水平に構えた。
 しかし、それよりも早く一刀斎の刀が繰り出される。




 ――ズバン!!


 タカシは上半身と下半身を境に、まっぷたつに切断される。
 しかし、一刀斎は刀を納めることなく、返し刃で背後からの斬撃を弾いた。


 ギィィン!!


 一刀斎が切り捨てたのは雪の残像。
 本命タカシの狙いは背後からのだまし討ち。
 相手が盲目だろうと、躊躇のない一撃だった。


 ギィン! ギンギン! ガン! ガィン! ギギィィン!!


 剣と刀の応酬。
 力と力のぶつかり合い。
 やがて両者は鍔迫り合いをする形になる。




「へえ……! やるじゃん。目、見えてねえんだろ?」


「ああ。ただ、見えなくなってからわかることもあンだよ」


「たとえば?」


「嬢ちゃんの足元がガラ空きだッてことだよ!」




 一刀斎はタカシの剣に対抗することなく、そのまま力を受け流した。
 タカシは力を込めていたため、ぐらりと前へ体勢を崩す。
 一刀斎はその隙に刀を片手に持ち替えると、懐から千枚通しを取り出した。
 取り出された千枚通しはそのまま真っ直ぐ、タカシの太ももに刺さった。


 ――かに思えた。
 結果として、その千枚通しはタカシに届くことはなかった。
 タカシは剣を受け流されると、そのまま半回転し、後ろ回し蹴りを一刀斎の顔面めがけて繰り出していた。


 バシィィィン!!


 一刀斎はその蹴りを手で防御するが、その衝撃で、持っていた千枚通しをポトリと雪の上に落とした。
 タカシはニヤリと口の端を吊り上げると、改めて一刀斎に向き直り、剣を振り下ろした。


 ガキィィィン!


 鍔迫り合い。
 両者はふたたび、睨み合う形になった。




「コエー、コエ―。嬢ちゃん、なんて狂暴な剣を使いやがる」


「十六歳女子のふとももを突き刺そうとしたおっさんが、なに言ってやがる。この変態団子屋!」


「ガッハッハ! やめろよ、ンなこと言われちまうと、おっさん余計に興奮しちまうぜ?」


「セクハラ野郎に死を!!」




 タカシはそのまま剣に力を込め、一刀斎の刀を上へ弾く。
 胴ががら空きになったところへ、すばやく左足で前蹴りを放った。


 ズドン……!


 蹴りは綺麗にみぞおちに命中。
 しかし――


「おうおう、軽いねえ」


「ま、まじかよ……! 普通のやつなら死んでるぞ……」




一刀斎は全く動じることなく、そのまま弾かれていた刀を振り下ろした。


「ちっ、くそ……ッ!」


 このままでは脚を引いても切断される。
 そう悟ったタカシは、魔法で脚を真っ赤に染め上げた。
 滾る高温、滾る炎がタカシの脚から放たれる。


 ボゴォォォォォォッ!!


 噴炎はまるで質量をもっているかのように、一刀斎を後方へと吹き飛ばした。


 タカシは脚を引っ込めると、身を低く屈め、地面を蹴り上げた。
 それにより、大量の雪が舞い上がる。
 タカシは一刀斎が吹き飛ぶよりも速い速度で、一刀斎を追躡ついじょうした。




「勝負ありだな、おっさん」


「へえ、それはどうかな?」




 タカシは容赦なく、剣を一刀斎の腹目掛けて振る。
 しかし――


 ガキィィィン!!


 タカシの剣は見えない何かによって阻まれてしまった。
 タカシは目を丸くし、そのなにかと鍔迫り合いを演じる。




「な……これ、おっさん、まさか……!」


「言ったろ。おっさんは姫さんの元師匠だってよ」


「残心の太刀……! シノさんの技か!」




 タカシは消えない太刀・・・・・・との鍔迫り合いを止め、そのままスッと刀を引いた。
 その額に冷や汗が滲んでいる。




「気づいたみたいだなァ、嬢ちゃん」


「ったく、残心の太刀ってか? なんて嫌な技だよ」


「ガッハッハッハッハ! 不用心にそこを動くンじぁねェぞ? 何度斬り合ったか忘れたからな。スパッといっちまうぜ?」


「はは……、つまり今俺の周りには、目に見えない太刀筋が、オレを斬ろうと燻ぶってるってわけか」


「ああ、勝負ありってところか? 降参するなら――」


「バーカ! だれがするかよ! 燃え尽きろ! 獄炎の牢ヘル・ジェイル!」


「ッ!?」




 タカシが合図すると、一刀斎の足元から極太の火柱が上がった。

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