憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-

水無

天地分隔門の所在



「はぁ……はぁ……はぁ……んだよ、この山はよ!」




 タカシがジェット機を降りてから数時間。
 タカシは猛吹雪の中でひたすら、がむしゃらに右往左往していた。




『やれやれですよ、まったくもって、やれやれですね。まさか、タカシさんがここまで方向音痴だったとは……』


「いやいや、さすがにこれは方向音痴とかいう問題じゃねえだろ。……ねえよな?」


『わかりました。ここは頼りになる相棒、あなたのルーシーちゃんが一肌脱いであげますよ』


「お、なんか策でもあんのか?」


『道案内なら、任せてください! わたしの十八番ですからね! どーんと、大船に乗ったつもりでいてくださいよ!』


「おお、なんだかいつにも増して、頼もしく見えるな。ヒトダマだけど」


「ふっふっふ――」




 数時間後。
 タカシはも吹雪の中で大の字になって倒れていた。




「――ふっふっふ?」


「なあ、大船のルーシーちゃん?」


『なんでしょうか、泥船に乗ってしまったタカシさん』


「ふざけんなよ! バカみてえに歩かせやがって! オレじゃなきゃ、とっくに凍死してんぞ! これ! 無駄に体力使わせやがって!」


『いやいや、そもそも他人をそんなに信用したらダメなんですってば、こういう極限状態のときって。自分の力で逆境を跳ね返してこそ、人はまた進歩するんです。これも、ひとつの教訓として胸にしまっておいてください。そして、それを二度と表には出さないでください! 迷惑です』


「おまえが実体を持ってたら、いますぐその減らず口を溶接してしまいたいよ」


『ほんとにごめんなさいっ! ……でも、やっぱりおかしいですよ。ここって、山の頂上なんですよね?』


「ジェット機の目的地に設定してあったのはそうだな。機械が故障するなり、山が消し飛んでいない限り、オレたちがいるのはてっぺんのハズだ」


『でも、わたしたちがさきほどから歩いてる場所って、平地ですよね。しかもかなり水平でしたよね』


「そうだな。山っていうくらいなんだから、傾斜や崖、その他もろもろの凹凸要素があって然るべきだ。……でも、オレたちはそれを見るどころか、果て・・にすら到着していない。ずっと歩いてるのに関わらず、だ」


『……その、タカシさん。これってもしかして……魔法の類とかじゃないですよね』


「その可能性はすでに考慮している。けど、五感を惑わされている可能性も、ましてや魔法結界にの中に閉じ込められている可能性も、ない。これはハッキリと断言できる。なぜなら――」


『わー! わー! もういいですよ、一度こういう専門的なの話しはじめると長いんですから。ものすごく』


「はいはい、わかったよ。じゃあ軽くだけでも……」


『いらないです』


「さいですか……」


『もう八方ふさがり……ですね』


「いや、方法はなくはない」


『ほんとですか? どんな?』


「要はここの天候を変えてやればいいんだろ?」


『え? ええ、まあそれができれば苦労はしないんですけど……』


「だったら、できるじゃねえか。ここが火山でも普通の山でも関係ねえ。有無を言わさずてっぺんから噴火させてやりゃあいい。雲ごと、空ごとブッ飛ばせばいいんだよ」


『も、もしかして……』


「わかったか? この短時間で二度目の『失われた魔法』の大盤振る舞いだ」


『何考えてるんですか! もし、この付近に村なんかがあったら……それに、その魔法の余波がジェット機にまで到達したら……サキさんが……!』


「だったら、ここで凍死するか? 何千、何万年後にミイラとして貴重な、当時を知る手掛かりとして死ぬ名誉の死を選ぶか?」


『それはいやですけど……』


「だろ? オレたちが生き残るにはもはやそれしかねえんだよ」


『にしたって、それは極端すぎますよ、もうちょっと妥協点を見つけましょうよ。ここを爆発させなくて、わたしたちがここで凍死しない方法です』


「アマちゃんめ。この世の常は取捨選択だ。一方を取れば一方を諦めなければならない。いい加減理解しろ。二兎を追う者は一兎をも得ずだ」


『でもでも、二兎を追う人にしか二兎は得れませんよ。つまりはすぐに結論を急ぎ過ぎないことです』


「ばーか。結論を急ぎ過ぎるもなにも、ここで何時間歩いてんだっての! すでに手も足も出ねえだろうが、手も足も凍傷気味でしょうが! だとしたらもう、魔法出すしかねえだろうが!」


『それだァ!!』


「うっせ……」


『それですよ、タカシさん。べつに、この山の地形を変えるほどの魔法は使わなくていいんです』


「はあ?」


『わたしたちの目的は何ですか?』


「龍空に行って、神龍どもをブッ飛ばすことだな」


『ちがいますよ。いまの、この状況ですよ』


「門を見つける」


『そうです。わたしたちの目的は門を見つけることです。山を無理くり噴火させて、地形を変えることじゃありません』


「いや、そもそも噴火はその門を見つけ易くするためにだろ。地形を天候を変えるためだろ」


『それはダメです』


「なんでだよ……」


『では、どうやって門を見つけるか……という段階に行きましょう』


「どうって……、あの魔法以外でだよな? ……そうだ、あいつらの残していった爪がなにか役に立つんじゃないのか?」


『あれ? そうなんですか?』


「――かもしれない。とりあえず、試してみよう」




 タカシはそう言うと上体を起こし、懐から龍の爪を取り出してみた。
 しかし、龍の爪はただの龍の爪で、とくに変化することも、変化をもたらすこともなかった。




『……なにも起きないですね』


「なんつーモン寄越しやがるんだ、あいつら……捨ててやろう」


『ええ? それ捨てちゃうんですか? もったいない』


「いんだよ、ポケットん中入れててもチクチクするし、袋に入れてても、袋破って出てくるし……」


『そうですか……、それなら捨てちゃいましょう捨てちゃいましょう』


「そうだな」




 タカシはそう言うと、手に持った龍の爪を猛吹雪の中へとくべた。
 爪は猛吹雪の中に溶けていくと、そのまま見えなくなってしまった。




「よし、では続きですね』


「えーっと、たしか、門をどうやって見つける、だっけか」


『そうですそうです』


「うーん……、どうしたもんか……てかさルーシー、さっきからなんか、オレの思考を誘導していってるっぽいけど、答え知ってんなら教えろよ。まどろっこしいな」


『え? 知りませんけど?』


「は?」


『いやいや、はっはっは、思いつくわけないじゃないですか。買いかぶり過ぎですよ、わたしですよ? ルーシーですよ? あなたが散々バカにしてきたルーシーちゃんですよ? そんなに簡単にわかってたまるもんですか』


「なんで若干自暴自棄気味なんだよ……、じゃあ、おまえ、なんでさっき『わかった』って叫んだんだよ」


『だから、こうやって推理していくんじゃないですか』


「はあ?」


『問題を解決するためには、一気に解決しようとするんじゃなくて、とりあえず、目の前の事柄から潰していったほうがいいんです。急がば回れってやつですよ』


「はぁ……期待したオレがバカだったよ」


『なんですか、もう! どうせつくなら、もっと建設的なため息をついてくださいよ』


「わかったわかった。おまえがそこまでいうんなら、付き合ってやるよ」


『いいですね、素直なタカシさん。好感度上がりましたよ、わたしの中でね!』


「はいはい、もうわかったから」


『ハイは一回! ……よし、ではつぎはこう考えましょう。「どうやったら門を探し出せるのか」ではなく「門はどこにあるべきか」です』


「発想の逆転というやつだな」


『はい。どうしても、人は一面的に物事を捉えがちです。けど、事実というやつはいくつもの面によって構成されています。それが六面体だったり八面体だったり。それは全部知るまでわかりません。けど、これはそんな物事の側面にスポットライトを当てる、という方法。物事をまた、違った角度で見ることができます。こうして線――この場合は面ですね。面をいろんな方向からはっつけていけば、おのずと答えにたどり着く、というわけです』


「……受け売りか?」


『な、なんでそうなるんですか!』


「いや、キャラが違うからさ……」


『ひ、ひどいっ、せっかくいいこと言ったのに』


「わ、わるかったって、でも、受け売りじゃないんだな……意外だ……成長したな」


『ふっふーん、……て、まあ、受け売りなんですけどね』


「やっぱりか」


『さてタカシさん。閑話休題。門はどこに在るべきか、です』


「……そうだな。山のてっぺんは平面で広大。そして、王が言うには門は天ではなく地にあるとのこと」


『その心は?』


「門は雪の下……、地面に備え付けられている……? つまり、この山自体が門。『天穿大山』なんて大層な名前はフェイクで、『天地分隔門』の真意は天がオレたちの住む世界を示し、地が天界を指し示すのか! 天界は上ではなく、下にある、ということ!」


『おお、いろいろとなにか思考の手順をすっ飛ばしたかんじはしますが、悪くはないんじゃ――』


「ガッハッハッハッハ! やァっと解きやがったかい嬢ちゃん。えれェ難儀してたなァ? 難しかったか? おい」


「――ッ!?」




 吹雪の中でもよく通る男の声が発せられる。
 タカシはすぐさま声のした方向を振り向き、その発生源を見た。

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